週末の過ごし方
国交樹立40周年!
今こそブータン的価値観が「世界で」必要な理由(わけ)
【センスの因数分解】
2026.04.20
“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。
過日、ヒマラヤの小国ブータンを旅しました。標高3000mにある小さな村の、小さなラグジュアリーリゾート取材が目的です。
失って初めてその大切さに気づくなどとよく言われますが、物事と距離を取り俯瞰(ふかん)することで気づくことも多いもの。かの地の旅は、日本の報道でよく目にする世界の不安定な情勢の影響をいかに受けてきたかを教えてくれました。
実は今年は日本とブータンの外交関係樹立40周年という記念すべき年であり、3月にはツェリン・トブゲイ首相が来日しました。ブータンといえば「幸せの国」として知られ、国王夫妻来日では大フィーバーが起こりました。2011年のことになります。震災で傷ついた被災地、さらには日本に向けて国王が発したメッセージを、今でも印象深く覚えている人も多いのではないでしょうか?
あれから25年。その間、道路の整備や電気の普及といったインフラから、観光施設や外資系企業の参入増加などブータンも様変わりしました。現在の最大の関心事は、日本でもニュースになった「ゲレフ・マインドフルネス・シティ(GMC)」計画です。インドとの国境近くに行政特区をつくり、文字どおりマインドフルネスに重きをおいた都市のプロジェクトが始動しています。
この新しいまちづくりは、現国王のビジョンに端を発しています。建築物のプラスチック不使用、有機栽培の食料や再生可能エネルギー由来などが計画に組み込まれてていて、チベット仏教信仰国であり、国民総生産(GNP)より国民総幸福(GNH)に重きをおく国らしさが表れているようです。またその一方でこうも思うのです。ブータンらしい新しい街の計画は、世界が理想としながら実のところ逆行している昨今の世界情勢にとっても大事な理念を内包しているのではないかと。
九州ほどの面積にある人口約80万人という小国は、中国とインドという超大国に挟まれています。そんなブータンの国力を先代国王は「ブータン人としてのアイデンティティである」と唱えました。加速する資本主義の波は小国にも及んでいますが、彼の地を訪れて実感したのは、それでも彼らが足るを知る大切さを理解し、自己充足を基盤とした価値観を保っていることです。
首都のティンプーでは、相変わらず「味気ない」と撤去されて以来続いている人の手による信号が健在。かつてはひと家庭に一人がなったというチベット仏教の僧侶は今もいたるところで遭遇し、信仰心の厚さがうかがえます。
また現国王から王政ではなく立憲君主制へと移行しましたが、国王家族は変わらず国民の心の拠り所となっています。行き過ぎた合理性よりも人の温かみを大切にし、信仰の教えと共に暮らし、国王に敬意を寄せている様は、ブータンの大都会にいても垣間見ることができました。
若者の海外移住の増加などといった課題がありながらも、ブータンにはまだまだ私たちに大切なことに気づかせてくれる学びがあります。自然との共存やチベット仏教的利他の心、そして自分の心の持ちようが他者や社会にも影響を与えるという考え方、自国の伝統保全の大切さといった事柄は、政治理念であるGNHの柱とも符合します。
大きな声で発せられるのが正義ではない、未来に希望を感じさせる事柄こそ正しいということをブータンは、国の姿で伝えてくれます。
Special Thanks:Demba Tshering