週末の過ごし方

人生の行く先。
麻生要一郎

2022.12.14

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旅に出かけるとき、少し前までは地図を広げて、車ならどこまで高速で行って、その先を何号線で…電車なら新幹線でここまで行って、その先は地下鉄に乗ってなんていうことを調べたような気がする。ノートに、雑誌の切り抜きか何かの地図を貼り付けて、お店の情報を書き加えてなんていうことをしていたのは、今の人たちからしたら、昔話のように聞こえるかもしれない。今ではiPhoneに住所を入力すれば、何パターンかの経路が出てきて、所要時間も、料金までご丁寧に教えてくれる。ありがたく便利なことには違いないが、最短ルートなんていうのは、少々味けなく感じてしまう。道に迷うことで、出合うお店や風景というのも、たくさんあった。寄り道はいつも楽しいものである。そう言いながら、日常ではついつい便利なものに頼ってしまい、最短ルートをたどっては、わずかばかり残っていたような野生の部分が失われていく感じがしてならない。

旅路を人生に置き換えてみると、僕は最短ルートで歩んできたわけではなく、道に迷って、寄り道ばかりである。家業の建設会社を継いで奔走していた20代、カフェや宿の経営をしてひたすら働いていた30代、そして料理や執筆を生業(なりわい)にしている40代。常に、切り抜きを貼り付け、書き込みをしたような、自分なりの地図を広げ生きてきた。こうして振り返ると、なんだかキャリアを前向きに積み重ねてきたように見えてしまうが、常に見切り発車、手製の地図を頼りに、その時々を精一杯生きた結果である。段々とひとつの道を、20年、30年と積み重ねた友人の姿を見るようになってきた。同じことを長く続けられない僕は、ただただ尊敬のまなざしを向けて、その背中にそっとエールを送っている。

この数年、料理や執筆を続けながら、高齢の家族の介護やケアに時間を取られ、さまざまなことに消極的になっていた。その家族が2月の初めに自宅で転倒して骨折、療養施設に入ったことで急に自由な時間が増えた。最初は自由な時間を過ごすことに戸惑いがあり、ちょっと出かけるのにも、友人とランチをするのにも妙な罪悪感を抱いていた。しかし、半年も過ぎれば天下御免、すっかり自分の人生を取り戻した。施設で暮らすようになり、だんだん認知症が進む家族からの取り留めのない電話のなかで「あなた、負けないのよ」と妙に神妙な声で言われた。何かに負けないように頑張ろうと思ったら、料理や執筆の仕事も一気に増え、作業に集中できるように、自宅のすぐそばにアトリエも作った。今までの台所が手狭だったこともあり、理想の台所をアトリエに作ろうと、打ち合わせをしている。広い作業台をリクエストしたので、友人たちとたわいもない話をしながらパンをこねて、客人の悩み話でも聞きながら、揚げ物でもしつつ一杯やりたいものである。図面を眺めながら、どんどんイメージが広がっていく感じがした。僕の今の小さな夢である。

先日、偶然テレビで流れていたのを何げなく見ていた映画の中で、主人公が「信じれば、何にでもなれる、なりたいと思ったものになれる」と言っていたシーンがずっと心に残っている。信じてさえいれば、イメージすれば、これからも新しい地図はどんどん広がっていく。人生100年時代、そう考えるとこの先もまだまだ長い。20代の自分は、今の自分を想像できなかっただろう。また迷い道、寄り道を繰り返しながら、自分の人生の行く先がどうなるのか、われながら楽しみである。

麻生要一郎(あそう・よういちろう)
1977年、茨城県生まれ。家業、宿主人を経て料理家、作家に。著書に料理レシピと自身の半生をつづった『僕の献立』や『僕のいたわり飯』がある。素朴ながらしみじみ美味なお弁当は、今や垂涎の品。

アエラスタイルマガジンVOL.53 AUTUMN/WINTER 2022」より転載

Illustration: Kento Iida
Edit: Toshie Tanaka(KIMITERASU)

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