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北澤豪、日本のサッカーを語る。代表、協会、これまでとこれから[後編]
2017.06.29
元サッカー日本代表で、ヴェルディの黄金時代を支えてきた北澤豪。1998年ワールドカップフランス大会の直前、岡田武史監督によって、カズとともに日本代表をはずされてしまってからは――。
それでも、北澤は顔を上げ、ピッチを縦横無尽に走りつづけた。
2003年の現役引退後、北澤は指導者の道を選ばなかった。
「サッカーの世界しか知らないという器で、物事を判断し、仕事をしていくのはちょっと違うかなと思ったんです。選手たちの後ろには、家族がいて、生活があってというなかで、いろいろな決断をしていかなければならないわけですし。まずは、途上国に行ったり、アジアを回ったりして、そういう活動をサッカーにフィードバックできれば、と考えたんです」
カンボジアには10回以上渡航、サッカーボールを寄贈したり、グラウンドづくりや学校建設をサポートした。JICAのオフィシャルサポーターとして、アフリカにも渡った。どこの国でも、行けば現地の子どもたちとサッカーを通じて交流した。北澤は、すでに、80カ国以上の国を訪れている。
「世界の国の3分の2は、途上国ですよ。たとえば、ザンビアなんて集まってくる人の半分ぐらいはHIV感染者。平均寿命も34歳ぐらい。そういう国では、サッカー選手になりたいだけじゃなくて、選手になって家族を幸せにしたいということが必ずあるんです。サッカーでなんとかしてやるというハングリー精神がすごいんです」
北澤は、2016年、日本障がい者サッカー連盟の初代会長に就任し、障がい者のサッカーに対する支援も続けている。
「僕のなかでは、途上国に行くのも、障がい者をサポートするのもまったく同じこと。誰もがサッカーを楽しめる環境をつくりたいという一心なんです。健常者も、障がい者も、恵まれない家庭で育った子も、誰でもフラットにやれるのがサッカーであり、スポーツだと思うんです。そして、それが共生社会の実現にもつながるんです」
一方で北澤は、引退後もテレビ解説者として、あるいは、いちOBとして日本代表を見つづけてきた。現在のハリル・ジャパンは、元代表の目には果たしてどんなふうに映っているのだろうか。
「最初のころは、ハリルホジッチの強さが目立ちすぎて、選手たちが少し構えたところがあった。それで、監督が言っていることが理解されるのに時間がかかってしまい、うまく機能しなかった。それぞれの選手がサッカー哲学のようなものをもっているのかなあ、ということもちょっと思いました。本田(圭佑)とかは自分の哲学をはっきり言える選手なんですけどね」
ただ、いまの日本代表には海外組が多いし、レベルも上がっているように見える。アジア地区最終予選の突破は堅い気もするが。
「行くと思います。ただ、勝とうという気持ちがない限りダメ。やっぱり、サッカーは戦い。どこの国も出たいわけであって、そこで差をどう生み出すか。もちろん、技術や戦略、協調性も持ち合わせていないとダメだけど、気持ちがなければ絶対無理。ギリギリの戦いになるのは当たり前だと思う」
そして、北澤は、目標をもっと高く掲げろ、と提唱する。
「やっぱり、本戦をイメージしなきゃ。僕はベスト4というのをもっと掲げるべきだと思う。最近の戦いぶりでは、そんな理想は言えないということだろうけど、どこに向かうかと言えば、優勝でしょ? そのビジョンで行かないと、足踏みするし、足踏みをしたら後退が始まるからね」
実際、北澤自身が関わるビーチサッカーやフットサルの日本代表では「ビジョンは優勝に設定している」と言い切る。そのためには、どういう監督が必要で、どういう環境設定が必要かを考える。それが強くなる道だと言うのだ。
この4年、北澤は「東京マラソン」に参加しつづけている。立場は、チャリティー事業に寄付をして、参加資格を得るチャリティーランナー。その北澤に賛同したサポーターが寄付をするという仕組みだ。北澤は、病気で入院する子どもと家族のための宿泊施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」に寄付を続けている。
完走タイムは上がってきていて、今年は、4時間を切った。大会2カ月前には、カズが毎年年初に行っているグアムでの自主トレにも参加。来年も走るつもりだ。
「基本的には、3時間半より前にいきたいし、そのつもりでやっています。ただ、そのレベルまでいくと、筋肉の付き方も変わってしまってもうサッカー選手の体つきじゃなくなっちゃうかも(笑)」
48歳の北澤は、日本と世界、健常者と障がい者、富者と貧者が共生できるフラットなサッカーの未来に思いを馳(は)せる。
「いままでやってきた海外支援や障がい者支援が、いま、どんどんつながってきている。前は点でしかなかったものが、ああ、これとこれはつながる、この人をもってきて、一緒にやればいいじゃないかと線になってきているんです。サッカーには、スポーツには、そんな力があるんですよ」
プロフィル
北澤豪(きたざわ・つよし)
1968年8月10日生まれ。東京都町田市出身。元プロサッカー選手で、現在は日本サッカー協会理事、日本障がい者サッカー連盟会長、サッカー解説者などとして活動。http://www.tsuyoshikitazawa.com/
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Photograph: Yoshihiro Kawaguchi(STOIQUE) Hair & Make-up: Rika Tanaka Text: Haruo Isshi