紳士の雑学
穂積和夫の名著復活! 時空を超えてニッポンの男たちへ。
2017.07.19
日本を代表するメンズファッションイラストレーターである穂積和夫氏が、1964年に書いた初めての著書『着るか着られるか 現代男性の服飾入門』。
この本のうわさは、お弟子さんの綿谷寛氏から「すごい本だよ。発売当時、服飾評論家のくろすとしゆきさんが読んで嫉妬したぐらいだからね」と聞いて、知ってはいた。しかし読みたくとも、著者の穂積先生の手元にも1冊しかないらしくて、古本屋を巡ってもなかなか手に入らない幻の本なのであった。
なんとその名著が半世紀以上もの歳月を経て、このほど復刊したのである。これは往年のアイビーファンならずとも読まずにはいられない。もちろん、筆者もさっそく拝読させていただいた。
いやはやうわさどおりのすごい本であります。大先輩のくろすとしゆき氏ではないけれど、筆者もモノ書きのハシクレとして、穂積先生の粋で洒脱(しゃだつ)な文章を読んでいて嫉妬してしまった。
ちなみに本書のタイトルは、斬るか斬られるかをもじっている。「現代人のおしゃれは(中略)斬るか斬られるか、つまり着るか着られるかの真剣勝負である」というまえがきから始まり、当時の男のおしゃれ不要論に対して「男はやはりおしゃれもしなくてはならないのである。(中略)逆におしゃれでないような奴は、男の風上にも置けない野郎で、おしゃれのセンスのない男なんてテンで男性としての魅力ゼロ、それこそ将来大成する見込みなし、ということになる」とバッサリ斬り込んだり。江戸っ子の穂積先生ならではの“べらんめい調”な文体で読ませる前半のエッセイは、痛快きわまりない。
そして後半のスーツの着こなしの基本や種類、シャツ、タイ、コート、ニット、カジュアル、フォーマル、下着やアクセサリー、香水まで、本職のイラストを交えて詳しく解説した項も、いま読んでもまったく古臭くない。
しかし何より一番すごいことは、穂積先生がこの本を書かれた年である。1964年といえば、東京オリンピックが開催された年ではないか。これは日本の男たちに「着るか着られるか」と辛口で説いた、日本で最初のメンズファッションの着こなし参考書なのだ。
Photograph:Akio Sekine
Text:Atsushi Ide