紳士の雑学

山のシングルモルト「ザ・グレンリベット」は華やかで清らか
目白田中屋店主に聞くシングルモルト 第2回

2017.08.18

写真・図版 小松宏子

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ブームを超えてすっかり定着しているシングルモルト。第1回ではシングルモルトとは何か、その生い立ちを「田中屋」店主・栗林さんに解き明かしてもらった。では、まず最初に飲むべきシングルモルトは何か。“山の蒸留所”がキーワードだ。

人間の叡智(えいち)を造り出してきた偉大なる酒

「人間は酒がなければ、生きながらえてこれなかったかもしれません。それぐらい酒ってすごいんですよ」と栗林幸吉さんは力説する。

有史以前から人類が土地の作物で酒を造ってきたことは、第1回に記したとおりだが、それは人間が寒さをしのぎ、暖をとり、活力を得るためであった。体はもちろん、脳を活性化することで、想像力や創造力を生み出してくれた。あまたの発明から小説や絵画まで、酒なくしては文明も文化も育たなかったかもしれないのだ。
「ビールは友達とわいわいと騒ぐ酒。ワインは恋人や家族と飲む酒。ウイスキーはひとりで思索にふけるための酒と言われています」と栗林さん。だからこそ、ウイスキーはバーが似合うのである。
「それぞれの酒に、それぞれのよさがあり、どの酒が優れているか否かという論議はまったくナンセンス。風土と人がすべて酒になって出てくるのですから。テキーラの明るさにも、ラムの悲哀にも、民族の歴史が凝縮しているのです」とも言う。

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一方、本当に人を狂わす酒は、シングルモルトウイスキーとワインとコニャックしかないとも言われる。なぜなら、人の手が届かない神聖な時間が作り出した深みをたたえているから。シングルモルトウイスキーが哲学的であると同時に、熱狂的に支持され、人類を支えてきた酒であることは間違いない。

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山の蒸留所の酒「ザ・グレンリベット」

ウイスキーのなかでも単一の蒸留所で造るシングルモルトの代表ともいえる一本が、スコットランド政府公認蒸溜所第1号の「ザ・グレンリベット」であるということは、第1回で説明したとおりだ。「グレン」と名のつくウイスキーはたくさんあるが、グレンとは山に挟まれている「谷」の意味。スコットランドには100の蒸留所と100の水系がある。つまり、100の個性豊かなシングルモルトが造られているわけだが、大きく分けてスペイサイド地区に代表される山の周辺の蒸留所製とアイラ島などに代表される海辺の蒸留所製に分かれる。なかでも、ザ・グレンリベットは山のシングルモルトの特徴をすべて備えている。

「山のシングルモルトは花や果実を彷彿とさせるかぐわしい香りと、凛(りん)としたすがすがしい味わいが特徴。ビールでいえば、ラガービールやペールエールなど飲みやすいタイプ、ワインでいえば赤より白に例えられる。だから、ウイスキーを飲み慣れていない初心者には、ぜひ、ザ・グレンリベットから飲んでもらいたいですね」と栗林さんは言う。バーで連れの女性にすすめるにもいいだろう。公認シングルモルトの第1号であるといううんちくを添えれば、誰しも飲みたくなるはずだ。

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店内は栗林さんがセレクトした心地よい音楽が流れている
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熟成による味わいの変化を楽しむ

ウイスキーの、ほかの酒にはない最大の魅力のひとつは“深み”という風味であるという。そして、この深みを作り出すことができるのは年月のみ。樽(たる)の中で熟成させる歳月による風味の違いを楽しむことが、シングルモルトをたしなむ際のもうひとつの醍醐(だいご)味である。一般に若い酒ほど生き生きとした、ストレートな力強さをもっており、逆に年月を経たものは、複雑さが増し、角がとれ、まろやかになる。価格で比較すれば、当然のことながら、手間暇かけ、セラーのスペースをとっている分、熟成年月が長い酒ほど高価だ。
「芸能人の格付けにもよくありますが(笑)、高い酒と安い酒の見分け方を教えましょう。余韻が長いほど高い酒なんです。考えすぎるとわからなくなりますから、単純に余韻の長さだけ比較してください。ザ・グレンリベットの12年と18年でも全然違うでしょう?」

確かに馥郁(ふくいく)たる香りもそうだが、口に含むと旨みの広がりと余韻の長さがまったく異なるのがわかる。それこそが、ウイスキーの魅力である、深みというものだ。

ただし、深さとて、良しあし、優劣ということではなく、個性であるとも栗林さんは言う。まだ熟していないシャリシャリとした洋梨と、柔らかく熟した洋梨にはどちらも魅力があり、どちらを食べたいかは、その人の好みやそのときの気分の問題である。酒の熟成も同じことと考えるとわかりやすいだろう。

深みや複雑さ、豊潤な味わいは、年月をおくことでしか醸し出すことができない。どんなにお金をかけようとも、いにしえの錬金術師から、超音波レベルの現代の科学まで、技術の限りを尽くそうとも、人工的には成し得ることができない味わい。それこそが酒造りのロマンなのである。

<第1回はこちらから>

<第3回につづきます>

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki

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