紳士の雑学

メルカリ 取締役社長兼COO 小泉文明インタビュー[前編]

2017.08.16

出品数1日100万品以上、月間流通額100億円以上と日本最大のフリマアプリとなった「メルカリ」。ダウンロード数も日米あわせて6500万を超え、国内外で注目を集めるなか今年4月に新社長に就任したのが小泉文明氏だ。メルカリの、そして自身の“いま”を語ってもらった。

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セオリーを理解しそれを捨てる勇気をもつこと

オフィスのエントランスには飾り棚に紛れるように会議室が配置されている。扉にある単語をつなぎ合わせると現れるのは株式会社メルカリが制定している3つのバリューだ。「Go Bold 大胆にやろう」「All for One 全ては成功のために」「Be Professional プロフェッショナルであれ」。

バリューの制定はメルカリ入社後、小泉氏の最初の仕事だったという。時は2013年12月、設立の10カ月目、メンバーはまだ10人を超えたころ。「ミッションとバリューはしっかり作るべきだと提案しましたね」と小泉氏は言う。
「これは以前在籍していたミクシィでの経験なのですが、強いサービスのある会社は社員の一体感も自然と生まれ、バリューを強調しなくてもうまく回っていくことがある。けれど、そのサービスが悪いフェーズに入ってしまうとバリューが浸透していない分、会社そのものがぐらつきやすくなってしまうんです。メルカリではサービスと会社とを分けて考え、会社としてのメルカリもきちんと定義したかった。5年後、10年後にどうなっていたいかをミッションにし、そのために必要な考え方や行動をバリューにて組織施策や評価、採用基準にもひもづけました」

14年5月、フリマアプリ「メルカリ」は業界トップの座に就いて以降、サービスは急成長を続けてきた。日米合算で6500万ダウンロードを超え、月間流通額は100億円以上。日本初のユニコーン企業(未上場ながら評価額10億ドル超の企業)として海外からの注目も集まっている。「メルカリの強さはこのバリューにあると思いますよ」

今年4月に取締役社長に就任した。ミクシィの取締役時代から経営する立場としては36歳にして10年にほど近い。小泉氏のいまに至る軌跡をまずはたどってみたい。

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ネット事業の魅力は個人の力を最大化すること

経営に興味をもちはじめたのは学生時代だったという。大学時代は250人程度を擁するテニスサークルの代表を務め「組織をまとめることを楽しんでいた」。一方で、一般的なアルバイトはほとんど経験がない。このころ、すでに“時給”という発想に違和感があり、インターネットのBBS(掲示板)を通じて小さな事業を手がけていた。
「当時は裏原宿系ファッションがブーム。洋服好きの人が集まるBBSを通じ、地方在住の人たち向けに洋服の代理購入をしていましたね。安く仕入れて高く売る。Tシャツなら定価の2倍から3倍、靴なんかだと定価のプラス5000円とか1万円で売れました」

卒業後は大和証券SMBC(現・大和証券)に入社。株式上場のサポートが主な仕事で2年目でDeNA、3年目でミクシィ等の上場に携わった。インターネットが好きだったことも幸いした。
「『ネットは小泉に任せとけ』みたいな空気もあって、ありがたかったですね。僕自身は会社の成長と株式の上場とをどうやってシンクロさせるか、いかに企業価値を上げるかを一番に考えるようになりました。3年半の間、成功する企業の例をたくさん見たことが、その後の経営に携わる身としてこれ以上ない経験でした」

小泉氏はその後、ミクシィに参画し27歳で取締役となるが、32歳で退任後にはフリーランスに。フリークアウト、アカツキなどベンチャー企業の創業期を支援した。「周りには小泉くん、ニートでしょ。と言われていました(笑)」。そろそろ腰を落ち着けようかと考えはじめた13年の初冬、メルカリを立ち上げたばかりの山田進太郎氏から声がかかる。
「山田とはその5、6年前から知り合いだったんですよ。スタバでお茶しているときに『次、何がやりたいの?』って聞かれたから『やるならミクシィより大きいサービスを作りたい』と答えたんですね。『じゃあ、一緒にやろうよ』って。

当時のメルカリは設立9カ月、フリマアプリでは後発でダウンロード数もまだ100万程度でした。だけど、山田の話に圧倒的な可能性を感じたんです。僕が思うインターネット事業の魅力は個人の力を最大化すること。ミクシィであれば従来のメディアとは違い、ユーザーが情報発信できることが新たな価値でした。メルカリは消費者がバイヤーだけでなくセラーにもなりえる。これはいままでの消費スタイルとは違うと思い、直感で『いいね、やろうか』と言いました」

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入社後、取りかかったのが冒頭のバリュー制定、そして投資家との折衝だった。改善を重ねたアプリには自信があった。次に取るべき策は資金を調達しCMで一気に知名度を上げること。財務のプロである小泉氏だが、この折衝では教科書的なロジックは捨てた。
「青臭いことも言いましたよ。PL(損益計算書)の計画など現実的な面に加え夢や社会性、事業スケールの大きさまで、一つひとつ説明しました。たとえば、現在、日本の家庭には使われていないもの、非稼働のものが6、7割あると言われていますが『メルカリ』が成功することで、捨てることをなくし、循環型社会を実現することができますといった話ですね」

だが、YESの返事はなかなか聞けない。20社、30社と訪ねる投資家の数ばかりが増えていく。年は暮れ、あわただしく1月も過ぎ稼働日が少ない2月に入っても未来はまだ見えてこない。
「CM制作は同時に進めていたんです。他社に先に打たれたら負けると考えていたので。このマーケットって勝者総取りで2位以下だと意味がないんですよ。情報や人の集まるところが、どんどん強くなる構図になっていく。ミクシィのときも同じで、競合は20社くらいあったのに最後に残ったのはミクシィだけ。1位にならないと意味がないと焦っていました」

14年3月。メルカリに、小泉氏らメンバーに賛同する投資家が現れた。結果として、総額14億5000万円の資金調達となった。設立1年のベンチャーにして異例の金額だった。CMは最終プロセスに入り最速のGW明けに放映を開始。CMで勝負が決まる、その言葉どおり、同月のダウンロード数で他社を大きく抜き去る。メルカリは一気に業界トップへと躍り出た。

後編へつづく>>

プロフィル
小泉文明(こいずみ・ふみあき)
1980年、山梨県出身。早稲田大学商学部卒業。2003年大和証券SMBC(現・大和証券)入社。投資銀行本部にてインターネット企業の株式上場を担当した後、07年ミクシィ入社。取締役執行役員CFOに就任しコーポレート全体を統括。退任後はベンチャー企業を数社支援し、13年12月メルカリに入社。14年同社取締役に就任。17年4月取締役社長兼COOに就任。趣味はスポーツに加え、月に5000円~1万円分買い込むほどの雑誌好きでもある。「建築、ファッション、スポーツ、アートから少々オタクっぽいものまで、たくさんベッドサイドに置いてあるんです。雑誌のあの質感が大好きで。寝る前にペラペラめくる時間が楽しみなんです」

株式会社メルカリ
本社は東京都港区六本木。資本金41億1086万円(資本準備金含む)。2013年2月に設立し、同年7月スマートフォン向けフリマアプリ「メルカリ」をリリース。1日の出品数は100万品以上、月間流通額は100億円以上と日本最大のフリマアプリとなっている。海外市場では14年9月にアメリカでサービスを開始。15年にはグループ会社ソウゾウを設立し16年に「メルカリ アッテ」、17年に「メルカリ カウル」と分野特化型のフリマアプリもリリース。従業員数はグローバル含み約500名。16年6月期の売上高は約123億円。ミッションは『新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る』。なお、「メルカリ」にはラテン語で「商い」の意がある。

Photograph:Kentaro Kase
Text:Mariko Terashima

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