旅と暮らし
標高3800mに立つ天空ホテルでペルー料理に溺れる
2017.09.14
Titilaka(ティティラカ)
ペルー/プーノ
ホテル「Titilaka」のある町プーノは、標高約3850m。富士山(3776m)よりも高い場所にあるその小さな町では、まるで雲をつかめるくらいに空が近い。そんなプーノは琵琶湖の約12倍もの面積のあるチチカカ湖に面し、「Titilaka」は湖に浮かぶように岬の先っぽに建てられている。
プーノには空港がなく、最寄りのフリアカ空港まではペルーの首都リマから1時間40分、マチュピチュの玄関口となるクスコから1時間のフライトとなる。フリアカ空港からホテルまでは車で1時間弱。もしも初めてのペルーだとしたら、プーノの前後にリマの美味しいレストランをはしごして、目玉がマチュピチュ、そしてプーノでのんびりというのもいいプランだと思う。
最寄りの空港を案内しておきながら、私自身はプーノまでクスコから6時間をかけバスで行った。南米は長距離バスが快適で、いちばん上のVIP席にすると飛行機の近距離ビジネスクラスのような乗り心地。リクライニングも140度くらいまで倒せてお弁当も付く。何よりクスコからプーノは延々と高地を走るため眺めが爽快。4000m以上の峠を越え、山や雲は目線上にあり、アルパカが放牧される草原やキヌアの畑を横切るドライブとなるのだ。
また「Titilaka」は「ルレ・エ・シャトー」に加盟しているホテルだったので、安心感と期待感をもってバスに揺られていた。
そうしてホテルに到着すると、ロビーからしてお洒落でテンションが上がった。レセプションの女性はカラフルな民族衣装に身を包み、クッションやラグはアンデス織物。モダンな家具とアンデス伝統の柄が絶妙にマッチして、かなりセンスがいい。さらにロビーからテラスに出ると見えるのは空と湖面のみ。まるでこの世の果てだ。
湖に面する客室は計18室。ゴージャスというよりはブティックホテルらしいコンパクトな構成で、バスタブは部屋の中にある。バスタブに入りながらも湖や空を眺められ、窓と湖面が近いため、なんだか船にいるような気分にもなった。
部屋には地元の人が作ったというアンデス織物がしつらえられ、そのせいか温かみも感じられる。外出から戻ってくると、ベッドの枕元には素焼きの釜のミニチュアが置かれていた。この地の家庭に受け継がれる釜らしく、ゲストに地元の文化を伝えるためにプレゼントしているとか。チョコやクッキーが部屋に置かれているのもいいけれど、こういうユニークさがあるホテルはいいなと思った。
料理のレベルが高いのも「Titilaka」の魅力。それも飲食はすべて宿泊費に含まれるオールインクルーシブなので、40種以上のメニューから好きなものを好きな時間にオーダーできる。ちなみに3年前に私が泊まった際は1人1泊5万円代。早い時間にチェックインさせてくれたし、欲望のままに食事もワインもカクテルも一日中堪能したので満足の価格設定。人気が上がったせいか現在は1人1泊約7万円(Booking.comによる11月宿泊価格)。
ここの料理はモダンなメニューも、旅行者が欲する素朴さを残したメニューも、両方のペルー料理をそろえているのでバランスがいい。印象深い野菜スープは、キヌア、豆、人参、粒が大きく白いペルー産とうもろこし、チーズなどが一緒くたに煮込まれた、カラダが元気になる一品だった。
またチチカカ湖はマスの養殖が盛んな地であり、ホテルでもこれでもかとマスのメニューがそろう。ペルー風魚介のマリネであるセビーチェのマス版は、表面が柑橘ソースの酸で締まり中は激レアといった食感。魚の脂とさわやかなソースの相性もよく、白ワインが進んだ。マスサンドは具のはみ出し具合が南米レベル。これをつまみに朝からシャンパンで調子が出てしまった。
テラスでペルーの名物カクテル、ピスコサワーを飲んでただぼうっとした時間を過ごすと1時間が経つのもあっという間。そろそろ活動するかと腰を上げたあとは、ホテルの裏庭で羊と遊んだり、スタッフの方とバレーボールをするなど引き続きゆるい時間を過ごした。周辺へのアクティビティーにも参加したけれど、ホテルにいるのがいちばん心地よかった。
東京から1万6000km以上離れたホテル「Titilaka」にもう一度行くことはたぶん難しい。あのテラスからの眺めも、アンデス織物を施したインテリアも、マス料理も、すべて脳裏に焼き付けるしかなく、でもそれが可能なほど鮮烈な体験だった。
プロフィル
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、年に10回は海外に渡航。タイ、スペイン、南米に行く頻度が高い。最近のお気に入りホテルはバルセロナの「COTTON HOUSE HOTEL」。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。