旅と暮らし
猛スピードで発展するムンバイにある
オアシス的存在のホテル
2017.09.22
The St. Regis Mumbai(セントレジス・ムンバイ)
ムンバイ/インド
2015年の11月、15年ぶりにインドを訪れ「セントレジス・ムンバイ」へ宿泊した。バックパッカーとして訪れた当時のムンバイと、空港からハイウェーを飛ばして到着したホテルはまるで別世界。周辺には新しい高層ビルが立ち並び、そのなかでひときわ高くそびえ立つのが「セントレジス・ムンバイ」だった。昔の貧乏インド旅行(超楽しかった)から一転、ここではハイソサエティーなインドを知ることとなった。
ホテルが立つ市内中心部のロウワー・パレルは、高級な繁華街といったはやりのエリア。ホテル隣には外資のテナントが入るショッピングモールがあり、そのまた隣には地元らしい商業施設がある。夕方になると多くの人が何をするわけでもなく、施設中央にある広場でただおしゃべりをするのはインド的。少しクルマを走らせると、けたたましくクラクションがなる大通りへ出るけれど、ホテルのビルは対照的に静かでエレガントな空間だ。
ホテルを象徴するのは9階のロビーフロア。大理石の巨大な柱、たくさんのキャンドルや赤いバラ、個性的なアートの数々がしつらえられたスペースは、さすがのセントレジスクオリティ。1904年にNYで誕生した老舗ラグジュアリーホテルの色は、発展の勢いの止まらないムンバイの街と絶妙にマッチしていた。
ラウンジでは女優さんのように美しいインド人女性がアフタヌーンティーを楽しみ、その隣ではただならぬ雰囲気のビジネスマンが商談をしていたりもする。インドの富裕層に日常使いされていることも、このホテルのキャラクターのひとつだろう。
アイコンでもあるシンデレラのような階段では、週に2回、夕方にシャンパンボトルを剣で開けるサブラージュも行われる。思わず動画撮影したくなる瞬間だ。特に黒いスーツを着た女性スタッフが誇らしげに剣をふり下ろす姿が格好いい。
また、もしホテルに泊まったらホテル内のアートツアーの申し込みもぜひ。館内にはインドの現代アーティストによる作品が100点以上展示され、すべてはインド・アート界の大御所ふたりによってセレクトされたもの。彼らの私物も含めたユニークな作品は、コンテンポラリーなものから昔のインドを知る作品までさまざま。注目は、少し前のムンバイのカオスさを描いたG.R.Irannaによる“The Mural”という作品。お茶をするならこの絵の前を陣取りたい。
泊まらなかったとしても、バーでシグネチャーカクテルである“ムンバイ・メアリー”を飲めば数時間でもこのホテルの雰囲気に浸ることができる。「セントレジス・ニューヨーク」のバーでブラッディ・メアリーが生まれたことをきっかけに、セントレジスでは各都市の個性を反映させたブラッディ・メアリーをホテルの数だけ展開。
ムンバイではカルダモンやコリアンダー、シナモンを加えた秘伝のマサラをカクテルに加え、エキゾチックなムンバイ・メアリーを完成させた。トマトジュースとスパイスの相性はいわずもがな。部屋には自分で作れるキットも置いてあったので、滞在中は毎日このカクテルを飲んでしまった。
お部屋はクラシカルさとゴージャスが合わさったデザインで1泊3万円弱~(Hotels.comによる11月中旬の1泊料金)。ムンバイのホテルのなかでは高値だけれど、他都市のセントレジスと比べると手ごろ。ちなみに個人的にはムンバイなら「セントレジス・ムンバイ」か「フォーシーズンズ ホテル ムンバイ」、もしくは「ザ タージ マハル パレス ムンバイ」の3択。
といいつつ街を再訪したときには、また「セントレジス・ムンバイ」を選びそうだ。というのも、セントレジスは全ホテルにバトラーサービスを導入しているから。前述の価格帯ですべての部屋にバトラーがつくのはうれしいものだし、なじみの薄い土地で気兼ねなく連絡できるバトラーさんの存在は心強い。
セントレジスのバトラーさんといえば、パッキング&アンパックサービスが有名。忙しなくチェックアウトする時など、パッキングを手伝ってもらえるのは想像以上に大助かり。相手はプロなので恥ずかしさは忘れて甘えてみよう。
ほか各国で共通するのは無料のコーヒーを部屋に届けてくれること。ムンバイではマサラチャイも頼める。街のことを詳しく教えてくれたり、仕事の資料のプリントアウトや靴のかかとの修理出しにすぐ対応してくれたのもありがたかった。
そして記憶に残っているのは、ホテルのルーフトップバーで飲んだあとに部屋で食べた締めカレー。しっかりエキゾチックな味わいのカレーはホテルでのひとり時間をインド式に盛り上げてくれて、つい2人前を完食してしまった。
あれから約2年、ムンバイの街は猛スピードでさらに進化しているはずだ。東京からムンバイへはANAの直行便もあるし、インド旅行のハブとしながら街の変化も見てみたい。「セントレジス・ムンバイ」で1~2泊してからスパイスの本場ケララ州へ、というのが目下の計画である。
プロフィル
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、年に10回は海外に渡航。タイ、スペイン、南米に行く頻度が高い。最近のお気に入りホテルはバルセロナの「COTTON HOUSE HOTEL」。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。