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オーストラリア最高峰のワイナリー「ペンフォールズ」
日本初の「リコルキング・クリニック」を開催

2017.09.26

小松宏子 小松宏子

オーストラリア最高峰のワイナリー「ペンフォールズ」<br>日本初の「リコルキング・クリニック」を開催

“リコルキング”という言葉をご存じだろうか? 所有してから長い年月を経たワインの場合、中身の液体に十分に力があっても、コルクの状態が悪くなり、そこから空気に触れて酸化してしまうことがある。その際に、コルクのみを新しいものに取り換えることで、ワインの劣化を防ぎ、さらなる熟成に耐性を持たせるサービスのことを指してリコルキングと言う。日本ではまだ、耳慣れないアフターサービスだが、ワインを資産として保有する意識の高いワイン先進国やワイン愛好家の間では、ペンフォールズ独自のこのサービスは、もはや知られた存在である。

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世界的なグランヴァン、「ペンフォールズ」誕生とリコルキング・クリニック

「ペンフォールズ」は、オーストラリアのアデレード近郊で、1844年、医師のクリストファー・ペンフォールド氏が医療を目的にワインを醸造しはじめたことに端を発する名門ワイナリーだ。1950年代には世界最高峰のワインのひとつとなる「グランジ」をリリースした。以来、ワイン好きをとりこにしてやまず、ヴィンテージワインをコレクションする愛好家も多い。そんななかで、5大シャトーのひとつでもある、「シャトー・ラフィット・ロートシルト」が顧客のために古いボトルのコルクを取り替えるという習慣にヒントを得て、1991年以来、15年以上のヴィンテージを有する赤ワインを持っている人を対象に、リコルキング・クリニックサービスを開始した。

この26年の間に、「ペンフォールズ」では、オーストラリアをはじめ、アメリカや英国、中国、シンガポールを含む、世界各国で150万本以上のワインのリコルクを行ってきたというのだから驚く。

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リコルキング・クリニックで高まるワインへの敬愛の念

「リコルキング・クリニック」と名付けていることからもわかるように、それは、まずは保有しているワインが良好な状態にあるかを判断することから始まる。ヴィンテージワイン一本一本を丁寧に診断し、必要があればコルクを取り換え、品質を保証するラベルを貼ってオーナーの元へと戻す。その作業は、決して壊れた家電を直すというような機械的なものではない。ワインのヘルスチェックであると同時に、170年以上にわたる「ペンフォールズ」のワイン造りの歴史や生産者の思いを、ユーザーである愛好家に伝えるまたとない機会でもある。オーナーは保有するワインへの敬愛の念が増すことは言うまでもない。ワイン先進国では、ワインは買って終わりではなく、買ったところから、造り手との付き合いが始まるのだという。醸造家とユーザーの間で、一歩も二歩も進んだ関係性が築かれていることがよくわかるだろう。

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オールドヴィンテージワインが生まれ変わるリコルキング・クリニック

さて日本では、先ごろ初めてペンフォールズのリコルキング・クリニックが行われた。チーフワインメーカーのピーター・ゲイゴ氏も来日し、リコルキングの手順を一から説明しながら実演してみせた。インターネットなどで募集したところ、多くの日本の愛好家がペンフォールズを持ってアンダース東京に集まる華やかなクリニックとなった。

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ピーター・ゲイゴ氏がまず、オールドヴィンテージのワインボトルを手に取り、コルクの状態を説明する。コルクが割れ、ワインが侵食しているのが写真でもわかる。これはコルクを取り換えなければ、劣化はまぬがれられない。このもろくなったコルクを抜くわけだが、これが非常に技術を要する。通常のスクリューをねじ込んだら、すぐに割れてしまう。そこで通常の倍の長さのスクリューを2本使う。これを慎重に差し込み、ゆっくりと引き抜く。続いてコルクに接触していた上澄みの液体15mlを吸引し、ワインの味を確かめると同時に、ワインの表面が空気に触れないように特殊なガスを注入。その後、同ブランドの新しいワインを戻す。15mlであれば、全体の2%ほどなので、品質に影響はないのだという。これが20mlとなるとそうはいかないそうだ。その後、コルクとキャップをプレスし、リコルクした日付と担当者のサインを入れたシリアル番号付きの認証ラベルを貼り、薄紙できれいにラップして終了となる。オーナーは、これで安心してセラーにストックできるというわけだ。なかには、リコルクしても手遅れというような場合もあるが、その際は正直にワインの状態を伝える。それだけ誠実な対応であると言えるだろう。

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今後、日本でも、定期的にリコルキング・クリニックを行っていくとのこと。これを機に、ワインの出自をより深く知って慈しむ、資産としてのワインとの付き合い方を考えてみるのもいいだろう。

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