旅と暮らし
暮らしに添う、滋賀のモノづくり。その2
2017.10.11
満々と水をたたえる琵琶湖と、それを取り囲む里山の風景。湖を中心としたそれぞれの地域の暮らしのなかで、文化を育んできたこの土地に根付くモノづくりとは。
繊細な手作業と自然が育む、一点ものの真珠。
琵琶湖で真珠がつくられていることを知る人は、そう多くないだろう。イギリスやアメリカなどで高く評価され、かつては海外輸出ジュエリーの花形として、年間6トンを超える生産量のあった「びわ湖真珠」。環境の変化により貝が十分に育たない時代が長く続き、その存在を知る人は減ってしまったが、母貝の改良や環境の改善に取り組んだ養殖家たちの手により、いまも琵琶湖には美しい真珠が育ちつづけている。
京都から電車で10分。町家の風情が残る大津の旧東海道沿いにある「神保真珠商店」には、30年以上も前に浜揚げされたビンテージパールのアクセサリーをはじめ、貝を丁寧に削り出しつくられるボタン、個性が際立つ紳士向けアクセサリーなど、さまざまな商品が並ぶ。「びわ湖真珠を知らない人や、若い世代にもその魅力を伝えていくことで、担い手不足に悩む養殖業や、琵琶湖の自然環境を守っていきたい」という店主・杉山知子さんの思いを通して、びわ湖真珠はいままた少しずつ注目され、現在ではお客さんの半数以上が、県外からここを目指して訪れる人たちだという。
びわ湖真珠の魅力は何か?と聞かれれば、一つとして同じものがない一点ものの真珠に出合えること。そして、人の手が及ばない自然のなかで、長い時間をかけ真珠が育っていくそのストーリーだと言えるだろう。海の真珠が半年から1年ほどでつくられるのに対し、びわ湖真珠は貝を育てるのに3年、そこから真珠が巻かれるまでに、更に3年という時間を要する。繊細な養殖施術がされたあと、最後の3年は琵琶湖に委ねられ、自然に抱かれるその長い時間のなかで、独特の色や形、照りが生まれていくという。手にとるまで、いったいどんな真珠に育つかわからない。そんな一期一会が、びわ湖真珠にはあるのだ。
Photograph:Ayumi Yamamoto
Text:Asako Saimura