旅と暮らし
俳優・岸谷五朗、街を呼吸する。
第3回 築地
2017.10.12
「昔、築地でバイトしていたことがあるんですよ」と場外でロケ撮影をしている合間に、岸谷五朗が昔の思い出を話しはじめた。まだ劇団で下積み生活を送っていたころ、盟友の寺脇康文と組んで夜明けの場内でゴルフクラブを売っていたという。
「いい値で魚が売れて、気分よく朝からお酒を飲んで酔っ払ってるんです。そんなおじさんたちにどうですかって勧めるのが仕事でした。『このドライバー、飛ぶのかな』って聞かれて、『もちろんですよ』なんて答えてね。ゴルフなんてやったことないのに(笑)」
時代はバブルの真っ盛り。1万円札を振りかざしてタクシーをつかまえるようなきらびやかさとは無縁に、こうしたバイトをしつつ、岸谷はひたすら芝居に打ち込んでいた。やがて才能が花開き、舞台での活躍とともに映像の世界にも足を踏み入れる。「月はどっちに出ている」で一気にブレイクしたのは、バブルがはじけ、日本経済が低迷しはじめた93年のこと。
「寺脇と食事をしながら打ち合わせしたことがありました。そのとき、『あ、俺たち自分のお金でジンギスカン食べてる』って感激しましたね。その後、カウンターで寿司を食べたときもそう感じました」
僕は人が好きなんです――岸谷は率直に語る。旅行中、どんな風光明媚(ふうこうめいび)な場所でも人が入っていないと撮影はしない。たまに風景だけでシャッターを押すことはあるが、結局は削除してしまう。その意味ではバブル期であれ、崩壊後であれ、人々が変わらず日々の仕事を実直に繰り返す築地という街が肌に合うのは当然かもしれない。今回の写真でも、風景に溶け込むような自然さを見せてくれた。
撮影後、岸谷は「築地、いいですよね」とつぶやいた。恐らく築地も岸谷に対して同じ思いを抱いているだろう。
<岸谷五朗(きしたに・ごろう)>
1964年生まれ。大学時代から劇団スーパー・エキセントリックシアターに在籍し、舞台、テレビ、映画で活躍する。特に1993年「月はどっちに出ている」では映画初主演にして多くの映画賞を受賞し、高い評価を集めた。94年に独立後、同時に退団した寺脇康文と組み、演劇ユニット地球ゴージャスを主宰。出演以外に演出・脚本も手がけ、毎公演ともソールドアウトとなる人気を集めている。待望の次回公演は来年春を予定。
<築地とは?>
「地を築く」という地名どおり、江戸時代に埋め立てられたエリア。1657年の明暦の大火で焼失された西本願寺(現在の築地本願寺)の代替地として生まれた。1935年、当時は日本橋にあった魚市場が移転したことから、現在の隆盛となる。セリや仕入れが行われる場内、関連の飲食店や土産店が並ぶ場外で構成されている。豊洲移転後も場外はそのまま残り、築地ブランドを守りつづけてくれるのは心強い。
<訪れた店>
築地 寿司清 新館
明治22年に日本橋で創業。市場とともに築地場外に移転する。現在は場外に本館、新館のほか、全国に30店舗を構える。丁寧に仕込んだ本格的な江戸前寿司を手ごろな値段で味わえると人気だ。東京都中央区築地4-13-5 03-3544-1919 営業時間 平日11時~15時 17時30分~22時30分 ※水曜9時~(築地市場が休市の場合10時~) 土・日・祝 10時~22時 無休 http://www.tsukijisushisay.co.jp/
ブルゾン¥289,000 ニット¥116,000 パンツ¥60,000 ベルト¥45,000 靴¥95,000/すべてエルメネジルド ゼニア(ゼニア カスタマーサービス 03-5114-5300 時計 時価/ヴァシュロン・コンスタンタン(ヴァシュロン・コンスタンタン 0120-63-1755)
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
Photograph:Satoru Tada(Rooster)
Styling:Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair:AKINO@Llano Hair(3rd)
Make-up:Riku(Llano Hair)
Text:Mitsuhide Sako (KATANA)