紳士の雑学
スリーピーススーツで、現代の紳士になる。[男の服飾モノ語り]
2017.10.12
断言しよう。今年の秋は、何年かに一度ともいえるスーツの豊作シーズンである。「スーツの豊作ってなに?」という問いかけに、まずは答えておきたいと思う。各ブランドからいいスーツが多く提案されていて、「買い!」のシーズンであるという意味だ。
スーツのトレンドは、クラシック回帰。このひと言に尽きる。ここで言う「クラシック回帰」とは、スーツ発祥の国である英国調の復権のこと。実はこの言葉、ここ数シーズン繰り返し使われてきたフレーズである。あるシーズンは英国を代表する生地の産地ハダースフィールドの服地に注目が集まったり、あるシーズンは英国の紳士が着ることの多いチェック柄が流行したり。そういったトレンドが重なってきた結果として、今シーズンのスーツはひとつの「完成版」といっても過言ではない。素材、柄、形。いずれも英国調を採り入れながら、決してやりすぎにならず、絶妙のバランスをもった、いいスーツとなっている。
スーツをトレンドで選ぶことなかれ。アエラスタイルマガジンは、創刊以来一貫して、そのように言いつづけてきた。第一に考えるべきは、サイズ。次には、着るシーンやシチュエーションを考えるべし。そうした着こなしの大原則は、変わることはない。とはいえ、何年かに一度、スーツには買い替え時がやって来る。
「一生モノ」という言葉は、ファッション雑誌が魔法の呪文のように使うフレーズ。ただ、本当に一生着られたモノをもっている人にいまだお目にかかったことがない。スーツであれ、コートであれ、必ず買い替えは必要である。いや、定番といわれるものこそ、シルエットや素材感の微妙な違いで古臭く見えてしまうものだ。
今シーズンの「買い!」スーツをひとつだけすすめるのであれば、スリーピースを挙げたいと思う。スーツの歴史をさかのぼると、シャツはかつて下着であったという。ジャケットの下にはおるベストには、そのシャツを覆い隠してくれる機能がある。エレガントをよしとする英国の男性が、スリーピースを好む理由はここにある。
英国を代表するブランドであるダンヒルのスリーピース(写真1)は、ピークドラペルと呼ばれる上に向かってとがった下襟が特徴。そこに施された丁寧なステッチが、職人技の証明である。英国らしい柄のグレンチェックではありながら、ミディアムグレーの生地にライトグレーの格子と、ビビットではない配色で上品さを感じさせる。ウール、シルク、リネンをブレンドしたファブリックは、なめらかで着心地もいい。
サヴィルロウの名門、ギーブス&ホークスのスリーピース(写真2)は、英国調スーツの正統にのっとっている。肩山がしっかりと張り出し、胸元にかけてのボリューム感を強調したフォルム。適度にシェイプされたウエスト、長めの着丈で、エレガントな男性像が完成する。
クラシックかつモダンなスーツを提案し続ける日本ブランド、五大陸のスーツ(写真3)も見事に英国調だ。チャコールグレーのピンストライプは、ヴィンテージ生地のような風合い。ピークドラペル、ダブルブレストのベストと、昭和の紳士を彷彿とさせる。
いずれも、ベストをはおると必然的にVゾーンが狭くなるので、ネクタイのノットは小さめに結ぶのがポイント。ウインザーノットで大きめの結び目を作ると、とたんに昔の英国スタイルのコスプレのようになってしまうから注意が必要だ。
10月は衣替え、クールビズの期間も終了。今年の秋、スリーピースのスーツを着こなせば、身も心もモダンジェントルマンになれる予感がする。
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
プロフィル
山本晃弘(やまもと・てるひろ)
AERA STYLE MAGAZINE編集長
「MEN’S CLUB」「GQ JAPAN」などを経て、2008年に朝日新聞出版の設立に参加。同年、編集長として「アエラスタイルマガジン」をスタートさせる。新聞やWEBなどでファッションとライフスタイルに関するコラムを執筆する傍ら、幅広いブランドのカタログや動画コンテンツの制作を行う。トークイベントで、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活動中。
Photograph:Masanori Akao(whiteSTOUT)
Styling:Masayuki Sakurai