紳士の雑学

2020の宿題!?N.Y.にあふれ東京に足りないもの/前編
[センスの因数分解]

2017.10.10

写真・図版 田中敏惠

どんなものでも、人を惹きつけるものにはワケがあります。有名無名問わず、魅力ある存在を因数分解のように解いていくこのコラム。第一回は、今も昔も都市=THE CITYの代名詞・ニューヨークの最新スポットから感じた、都市の魅力と東京に足りないものの話です。

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マドンナが大いなる野心を胸に、地元のデトロイトからわずか35ドルの所持金でやってきたニューヨークを「全ての中心だった」と語った話は、80年代的レジェンドのひとつ。あれから30年以上が経ち、テロや経済危機やびっくり大統領就任があっても、ニューヨークはやっぱり都市=THE CITYの代名詞だ。その理由が少しわかったような気がしている……。

取材にお休みを足して、8月終わりから9月にかけニューヨークに行きました。プライベートの目的は、コム・デ・ギャルソン展、ハロー・ドリー観劇と全米オープン。それが気付いたらミス・サイゴンとスリープ・ノー・モア観劇に話題のホテルとレストランチェックが加わり、まるで合宿のような、どこで眠るのかというよりどこで休憩するのかというスケジュールになっていました。でも、いやだからこそ、改めてこの街の都市としての魅力というか底の深さ、層の厚さをがっつり体感できたともいえます。そのニューヨークの「イマイマ」で感じたことは、魅力ある都市のあり方だけでなく、その魅力の理由とは何かでした。

写真・図版
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メトロポリタン美術館コムデギャルソン展

川久保 玲の「コム・デ・ギャルソン」をフィーチャーしたニューヨーク近代美術館での展覧会、あのベッド・ミドラーがブロードウェーに初出演したトニー賞受賞ミュージカル「ハロー・ドリー」、リバイバル版でカムバックし話題の「ミス・サイゴン」、モダニズム建築のメット・ブロイヤーに今年誕生した人も料理もワインも最高に“時代”なレストランの「フローラ・バー」、ナダルやフェデラーのオーラとトーナメントの規模に圧倒された全米オープン……。体験してみて改めて感じたのは、ニューヨークはアートからエンタテインメント、建築に食にスポーツなど、ジャンルは違えどいい意味で個々の主張がしっかり強いことと、その強い主張に対しての受け取り側のウエルカムさや理解度の高さでした。それがこの街の個性の礎となっているわけです。

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メトロポリタン美術館コムデギャルソン展
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    ハロー・ドリー/ベッド・ミドラーがトニー賞を受賞したミュージカルは、来年までチケットはソールド・アウト。御年70を過ぎていながらあの歌声は健在だった。
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特に印象に残っているのが、「スリープ・ノー・モア」と「パブリック・ホテル」です。「スリープ・ノー・モア」は英国カンパニーによる、ビル一棟をホテルに見立てそれがそのまま舞台となる体感型のショー。観客はみな荷物を預けて手ぶらになり同じ仮面をかぶって舞台へと向かうのですが、どの空間に演者がいるかは探さないと(出会わないと)わかりません。だからみな好きな場所へと移動を繰り返しながら観劇というよりそのパフォーマンスを目撃していきます。そして、バラバラになっていた演者も観客も、最後はひとつの場所へと向かっていく……というもの(と言ってもなんのことやらだと思いますが)。ホテルのロビーはツインピークスを連想させる真っ赤なベルベットが印象的な空間、アールデコ時代風の衣装、流れる音楽はジャズからトランスまで。マクベスを下敷きにしたこのショーが終わるのは午前2時を過ぎていたけれど、そのオリジナリティーと発想力の豊かさには五感が大いに刺激され大いに高揚もし、またまったく新しいタイプのショーを「Don’t think, feel」で自然体に楽しんでいるニューヨークの観客たちの姿も忘れられません。

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スリープ・ノー・モア
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    全米オープン/アーサー・アッシュスタジアムでのラファエル・ナダル戦
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    フローラ・バー/ポーション少なく軽快で新解釈を加えた料理はすべてアラカルトで。これはダンプリング(シュウマイ)。

次に今年6月にオープンした「パブリック・ホテル」。ドイツのワールドカップ決勝や北京オリンピックのメインスタジアムも手がけている建築ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロン(表参道のプラダのビルもそうですね)最新のビルの中にあるホテルで、仕掛けたのはデザインホテル界の先駆的存在のイアン・シュレーガー。ダウンタウンの真ん中にありながら、ガーデンと呼びたくなるような植栽が印象的なアプローチを抜け、エントランスホールで目の前に広がるのは薄暗いなかでオレンジ色の照明があやしく輝くエスカレーター(ここはインスタジェニックなのでたくさんの人がアップしています)。2階のチェックインロビーやラウンジは広々としていて自然光がたっぷり入りとても明るい。そこを通り抜け、青いネオンのような照明以外は真っ暗というエレベーターホールをへて向かうは最上階のルーフトップ。ここは休日になるとエレベーター待ちの人がホールで列をなすほどの“いま、ニューヨークでいちばん話題”という場所だそうで、心地良い風が抜けるそこは、ユニークなオリジナルカクテル片手にリラックスしながらおしゃべりする人たちであふれていました。

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パブリック・ホテル/ネオンカラーが印象的なエスカレーター

SLEEP NO MORE

PUBLIC HOTEL

<後編へつづきます>

プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。

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