紳士の雑学
2020の宿題!?N.Y.にあふれ東京に足りないもの/後編
[センスの因数分解]
2017.10.17
どんなものでも、人を惹きつけるものにはワケがあります。有名無名問わず、魅力ある存在を因数分解のように解いていくこのコラム。第一回は、今も昔も都市=THE CITYの代名詞・ニューヨークの最新スポットから感じた、都市の魅力と東京に足りないものの話。後半はいよいよ核心にせまります。
[前半はこちら]
パブリック・ホテル最上階のルーフ・トップからの帰りには、レストランや「トレード」という名のギフトショップなどの主要スポットから、ホテルに漂う香りの銘柄もチェックしてきました。
ホテルのコンセプトは“ラグジュアリー・フォー・オール”、つまりすべての人にラグジュアリーを。ホテルの出した回答は、自然と都市のように対象的な存在の融合で、それが軽快な贅沢さにつながっていているようです。だから若い人にもリラックスしながら受け入れられているのかもしれません。
魅力的な植栽のアプローチからルーフトップまでの自然光~暗めネオンカラー照明~自然光~暗めネオンカラー照明~自然光の振り幅もユニークですし、ミシュランスターシェフ、ジャン・ジョルジュのレストランもあるような「ラグジュアリー」をうたうホテルでありながら、ロビーやショップスタッフの制服はパブリック・ホテルのロゴTシャツだったり、ギフトショップにオリジナルの自転車やバスケットボールがあるのも面白い。このホテルには、誰かや何処かのレールではない自分発の新定義が根っこにあるのが伝わってきます。そう、模倣採り入れ型=後付けでないコンセプトが。
目を再び「スリープ・ノー・モア」に向けてみましょう。英国発ではあるものの、ニューヨークにいるもしくはここを訪れた人たちにきちんと受け入れられ、大きな人気を博しています。それはこの自分文脈を、ニューヨークが“この場所にふさわしい”と選び取ったからのように思えます。
それはなぜか。やはり、このニューヨークという街が、世界一競争が激しく、どんな主張も受け入れる懐の広さがあり、かつ厳しい目をもった人が多いということなのではないでしょうか。「ファッションではなくスタイルをつくっているの」と言ったのは、あのココ・シャネルですが、流行=ファッションだけのものはすぐに消費され廃れてしまいます。それでは世界一激しい競争が繰り広げられるこのニューヨークでは勝つことができません。この都市では、スタイルを確立した存在=自分文脈だけが残っていっているのでしょう。そんなユニークな存在を選びあるいは選ばれながら“ザ・シティ”ニューヨークはいまに至るのです。
さて長くなりました。ここで、タイトルに戻ります。実はこのパブリックを訪れる前に私たちはエース・ホテルでお茶でもしましょうか、と立ち寄りました。立ち寄りましたが、結果スルーしたんです。その理由は、「いまでもらしくていいけど、なんか五感に来ないね」でした。エース・ホテルといえば、ご存知一世を風靡したアメリカのスモールホテルレーベル。ウッドにレザー、そしてメタリックが融合したヴィンテージテイストのホテルには、相変わらず人々がマックを広げコーヒー片手に思い思いに過ごしていますが、どうにも暗くすぎてカラッとした秋晴れの光も風も気配も感じられず、グッと来ないのです。フラワーショップやコーヒーショップがアクセントのカジュアルなダークブラウンの空間は、いまや世界中で似たテイストを見つけられる、いかにもエースなしつらえ。しかしそこにあるのはどちらかというと既視感でした。あのエースがもはや……であります。
でも、個人的にはエースはここに存在していくし、人々は訪れると思います。そして、エースはエースでいつづけると思うのです。なぜならオリジナルであり「家元」であるから。一時代をつくったオリジナリティーある存在は、最先端でなくてもブランドでありつづけることができます。もしかしたらグルっとひと回りして新鮮に思う日が来るかもしれません。しかし、エース“的な”ホテルはどうでしょう。自分文脈の定義ではなくコピペのパッチワークのようなコンセプトから生まれた二番手三番手には、風化と劣化が待っているような気がしてなりません。
帰国して東京のいろいろに目を向けると、オリジナリティーある自分文脈型もあればコピペもあります。あふれています。しかし、私たちがそれを選び方の指針として徹底ができているかというと、そうでもないように思えてしまいます。新しいから、話題だから、ではなく自分文脈であるかどうか。それって本物を見極めるのに、とても大切なのではないでしょうか。寸暇を惜しんで体感したニューヨーク滞在。私はそれが骨身に染みたのでした。
SLEEP NO MORE https://mckittrickhotel.com/
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プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。