紳士の雑学

ラクスル株式会社 代表取締役
松本恭攝インタビュー[後編]

2017.11.06

8年前、松本恭攝(やすかね)氏がスタートさせたラクスル。ソーシャルメディアを介し設備を共有するシェアリングエコノミーで印刷や物流の常識を変えつつある同社は先ごろヤマトHDとの資本提携を発表。産業の仕組みを変えて新しいインフラを作りたい、と語る氏に同社のいまを語ってもらった。

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再編が必要な業界にこそ チャンスはある

設立5年目に入るころ、事業の軸が安定してきた。過去の反省点からマネージメントの大切さも学んだ。いま、松本に経営者として大事な資質は何かと尋ねるとこんな答えが返ってくる。
「ビジョンを語れること。リーダーとして何が大切かというと、夢であれ、何かしらのストーリーであれ、社員がワクワクするようなことを語れることが一番だと思うんです」

15年12月、荷物を届けてほしい顧客と空き時間を利用したいドライバーをつなぐ「ハコベル」を新たにスタートした。こちらも印刷の「ラクスル」と同様のシェアリングエコノミーだ。全国に6万社以上がひしめく巨大市場でかつ多重下請け構造であること、トラック物流業界と印刷業界はよく似ていた。昨今の宅配クライシスを見越すかのような取り組みに評価が集まるなか、今年7月、ヤマトホールディングスとの資本提携を発表。業界最大手がパートナーに選んだのが設立10年に満たないベンチャー企業だったことは大変興味深い。「ヤマト運輸の小倉昌男さん、大好きな創業者なんですよ」はにかみがちにポロリと言った松本はその先を続けた。「いまの物流の仕組みは40年前に小倉さんが作られ、世界的にも優れたものだったんですけど個人間の物流が大前提。田舎のお母さんが東京にいる息子に小包を送る、C to Cの取引でした。ところが、現在はネット通販などで物を買うEコマース、企業から個人に向けたB to Cが主流です。それを40年前の仕組みで支えようとしてきたから限界を迎えるのも当然。欧米や中国の例からも破綻するのは目に見えていたんです。

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実は物流や印刷のほかにもインターネットを前提に仕組みを見直したほうがいい産業はたくさんあります。そこにチャンスはあると思っています。産業構造そのものを再開発し新しいインフラとして根付かせていく、それがラクスルの中長期的な目標です」
仮に失敗してもやり直せばいい、そう考えていた24歳もいまは昔、ずいぶん遠くまでたどり着いた。遠くまでどころか誰もたどり着けなかった場所と言い換えたほうがいいかもしれない。経営者として会社の現在地をどう考えているのか。
「点数をつけるとしたら100点満点で……15点くらいですかね。というのも、ゴールは社会にとって“なくてはならない会社”なんです。ラクスルがなくなったら困る人はいるかもしれませんが代わりがないかというと。代替えの利かない会社、そこを100点とするといまはまだ一合目くらいかなと」
大学時代、サークルで韓国や中国の学生たちとビジネスコンテストを開催した。企画段階では誰も韓国や中国にツテがなかった。なおかつ日中関係は緊張状態にある。莫大な予算も掛かる。周囲の大人は絶対無理だと言い切った。それでも松本らは組織を作り、中国で学生と話し、1000万円かき集めてイベントを開催した。「あのときの経験が僕の原点ですね。できるかどうかは論理や能力じゃない。どんなにすごい人と組んだって想像ができなければ実現しないんです。できるかどうかは想像力なんだと思います」

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好きな作家はサークルの元・同級生

33歳、仕事の原動力は一番に子ども、そして、アート。松本は最近購入した作品の画像を携帯ごしに見せてくれる。版画のように見えるコラージュ写真は韓国のフォトグラファー、イナ・ジャンによるもの。「彼女もサークルの同級生だったんです」松本はほほ笑んだ。聞けば、同じサークル出身者には起業仲間も少なくない。ベンチャーの旗手としてメディアに取り上げられているような人物の名も挙がる。想像できた仲間たちでもあろう。「チャレンジの時期ですよ、30代は」。同世代へのアドバイスを尋ねると(氏はアエラスタイルマガジンの読者年齢層でもある)松本はそう返してきた。「30代は将来リーダーになるための準備期間ではありません。日本の産業基盤を作った渋沢栄一は33歳で国内最初の銀行を作りました。大企業のトップは60代や70代が多いですが、創業者は30代や40代で始めたはず。30代には経験もある。準備する時期ではなくチャレンジして30年後、40年後の未来をつくっていく世代だと思いますね」

プロフィル
松本恭攝(まつもと・やすかね)
1984年富山県生まれ。親類縁者がすべて公務員という環境に育つ。2008年に慶應義塾大学商学部を卒業し、コンサルティング会社のA.T.カーニーに入社。M&Aや新規事業、コスト削減プロジェクトなどに携わる。その過程で印刷業界の非効率さ、コスト削減効果の高さに気づき、09年にラクスル株式会社を設立。同社代表取締役。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンに巨大な既存産業にインターネットを持ち込み、産業構造の変革を行う。家族は妻と一男一女。プライベートでは息子と娘と遊ぶのが大好きなパパで保育園に送る朝のひとときを楽しみにしている。週末の子連れイベントは水族館がブームで取材の前週は八景島シーパラダイスに足を運んだという。

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Photograph:Kentaro Kase
Text:Mariko Terashima
Styling:Yohei Katano
衣装協力: 麻布テーラー

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