調べ・見立て(見立て)
編集長の「見立て」。
スーツの正しいサイズ、ジャケットはシワで、パンツは折り目で見分ける
2017.11.10
「スーツについての悩みはなんですか?」という世論調査をアエラスタイルマガジンWEBで実施。回答は、「サイズや着心地」「ネクタイの結び方」「Vゾーンの合わせ方」「お手入れ方法」の4択です。結果は、予想していたとおり、「サイズや着心地」が58%(11月2日現在の回答結果)と圧倒的な票を集めました。予想していたとおり、というのは、トークイベントなどでスーツの着こなしについてお話ししたあとにされる質問も、サイズに関するものが多いからです。
率直に申し上げると、ビジネスマンの多くが大きめサイズのスーツを着用してしまっています。自分ではちょっと小さいと思うくらいが適正サイズ。これがスーツ選びの鉄則です。スーツを選ぶときには、店員さんがすすめるサイズをそのまま購入するのではなく、ひとつ下のサイズも試着してみてください。
日本のビジネスマンの多くが大きめスーツを着ている原因のひとつは、売り場のスタッフにあると私は考えています。仕立屋で自分サイズのスーツをつくるのではなく、百貨店や量販店で既成のスーツを購入することが一般的になったのは、1960年代から70 年代にかけてのこと。それによって、日本のビジネスマンの着こなし平均点は一気にアップしました。一方で、サイズに対する感覚が鈍くなったとも思うのです。既製品スーツを販売する売り場には、「購入したスーツが小さすぎた」というクレームは届いても、「スーツが大きすぎた」という声は届きにくい。クレームが起こりにくく、さらには商品の販売消化率をアップしたりするために、販売員は少しずつ大きめのサイズをビジネスマンにすすめるようになったと私は推察しています。
「少し大きめくらいのほうが楽ですよ」という百貨店の接客トークに、「スーツは楽をするために着るものではありません」と苦言を呈したいと思います。あるいは、「ジャケットを着用して、肩から腕をクルクルと回してみてください」といわれれば、「いまどき、スーツでキャッチボールをしたりすることはないですからね」とジョークで切り返します。スーツを着用しているときの腕の動きといえば、デスクの電話に手を伸ばすか、電車のつり革をつかむくらいのものです。肩のフィット感は、スーツのサイズでも最も重要なポイント。「少し大きめ」である必要はまったくありません。
では、大きめと、小さめと、適正サイズを見分けるポイントはなんでしょうか。これを説明するとき、私はいつも同じことをお話しします。「ジャケットのボタンを留めたときに、縦に走るシワが出たら大きめ、横方向のシワが出たら小さめ、シワが出なければ適正サイズ」。実に簡単です。
では、パンツのサイズはどうでしょうか。自分ではっきりと実感できるウエストの大きさを間違えている人はそれほど多くありません。ところが、パンツの丈については、長すぎるものをはいているビジネスマンが、どれほど多いことか。スーツのベテランといっていい部長さんであろうが、初心者である就活生であろうが、長すぎるパンツを着用した男性を見かけるたびに、ガッカリしてしまうのです。私がそのことを指摘すると、「はいているうちにひざが出て短くなってくるから少し長いくらいがいいと、お店の人に言われて」と困り顔になるビジネスマンもいます。
長すぎるパンツをはくと、裾の余分なたわみから、クリースと呼ばれるパンツの折り目がひざ下あたりから蛇行します。脚が曲がってスタイルが悪く見えるだけにとどまらず、仕事に「スピード感」のないビジネスマンであると決めつけられる危険性さえあるのです。
パンツが靴のひもに少しかかって、裾にくぼみができる「ワンクッション」と呼ばれる長さが適正。あるいは、それよりは少し短めで、くぼみが少しだけできる「ハーフクッション」でもいいでしょう。トレンドに敏感なセレクトショップなどでは、靴下が見えてしまうほどに短めの「ノークッション」のパンツ丈をすすめられる場合もありますが、スーツにトレンドを求める必要のない一般のビジネスマンであれば、これはきっぱりと断りましょう。
ボタンを留めたときにシワのないジャケット。折り目がピシッと、真っすぐな脚に見えるパンツ。これが、スーツの適正サイズを見分ける簡単なポイントです。
プロフィル
山本晃弘(やまもと・てるひろ)
AERA STYLE MAGAZINE編集長
「MEN’S CLUB」「GQ JAPAN」などを経て、2008年4月に朝日新聞出版の設立に参加。同年11月に、編集長として「アエラスタイルマガジン」をスタートさせる。雑誌の編集の傍ら、朝日新聞や朝日新聞デジタルに掲載する、ファッション&ライフスタイル系の広告コンテンツや動画の制作も手がける。現在はトークイベントを通じて、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活動中。
Illustration:Akira Sorimachi