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美しき"火花"の男たち。
菅田将暉と桐谷健太が語る、男の仕事とは─
2017.11.28
又吉直樹の芥川賞受賞作「火花」が映画化された。監督は、又吉の先輩である板尾創路が務め、漫才に強い信念をもつ先輩芸人・神谷役を大阪出身の桐谷健太、彼を信奉する若手芸人・徳永役を同じく大阪出身の菅田将暉が演じた。東京で夢を叶(かな)えようと、毎日のように酒を酌み交わし、芸について議論し、笑い、そして悩みもがくふたり。季節はめぐり濃密な10年の月日が流れる……。
桐谷 実は撮影期間は1カ月。
菅田 撮っていると、年月が経った感じはありましたけどね。
桐谷 板尾監督はある程度、順番に撮ってくださった。熱海で初めてふたりが出会うシーンと、10年後にまた熱海でふたりが話すシーンは、実際の撮影もほぼ最初と最後、ひと月くらい離れてる。同じ場所なのだから一日で2つのシーンを撮ってしまいましょう、という撮影もあるじゃないですか。でも、監督が「それではふたりの顔や空気感が違う」って。どれだけ芝居でがんばっても無意識レベルで出る空気感があるんですよ。それはスタッフさんも同じ。ふたりをずっと見てきたあとで撮る絵とそうでない絵は違う。そういう意味では時の流れを出せたと思う。
──長い月日のなかで神谷は時代から受け入れられることなく、徳永もまた挫折する。自分が信じて追いつづけているものが世間から評価されない。そんな彼らの境遇に共感する部分はありますか?
菅田 徳永が神谷さんに対して言うセリフに「伝える努力を怠ったらあかんでしょ」というのがあるんですけど、それは悔しいけどすごくわかるんですよね。ものづくりをしていると、自分がほんまにおもろいと思うことと、人に伝えなあかんものとがある。理想は周りを気にせず自分が好きなようにやって、それが伝わればいいけど、それだけでは食っていけない。あの感じはどの世界も共通してある感覚だと思う。徳永を演じるうえで大事にした部分です。
桐谷 特にいまはそういう時代。漫才でも漫才師が「ついてこい」と見せて、観客が後からついていく感じが昔はあったと思うんですけど、いまは「こっちやで」とエスコートしないとわからない。バラエティー番組でもボケたらテロップが出るでしょう。
菅田 「笑いどころはここですよ」と。
桐谷 そういうところがあるかもしれないですね。僕が共感するといえば、役者も芸人さんも売れへん時期はつらい!ということです。僕自身、誰も知らん状態でひとりで東京に出てきたので、とりあえずいろんな人と仲ようなるところから始まってて。いまこうやって出られているのは、運もあるだろうし、自分が続けてきたことが時代に受け入れられているというのもあるんでしょうけど、あの当時は絶望だらけでした。でも楽しかった。つらいけど、あのときにしかない、もう絶対に戻れない何かがあった。
菅田 デビュー当時を振り返ると、標準語を話すということが僕にとってはもう挫折でしたね。関西弁の抑揚やリズムがなくなると伝わっているのかいないのか、いまでももどかしさを感じることがあります。それから、広告、ドラマ、映画、舞台、あるいは街中で張られるポスター、それぞれ仕事の仕方を変えないとならないということもね。やっぱりこの仕事でお金をもらうわけやから、当然それに見合った仕事をしなければならない。そこで自分のなかでどう折り合いをつけるかというのはあります。ただ自分のなかで“納得いくもの”のなかには、周りも“納得するもの”も含まれているわけで、結局は変わらなかったりするんですよ。
──苦しんでいたときに、支えになったものは?
桐谷 僕は友だちだね。孤独な夜に公衆電話で友だちと話して、悩んでいた重い気持ちが晴れたところでひとりワンルームに帰っていく。あの感じをよく覚えてる。
菅田 僕は以前、仕事が全然うまくいかなくて、現場で僕だけが怒られる日々が続いたとき、どんどんやる気をなくして「早く今日が終わればいいのに」と思っていたことがあったんですが、事務所の先輩の中村倫也さんが「若いうちはできないことを知るのも大事なことやで」みたいなことを言うてくれて。それで一気にやる気が出ましたね。「そっか、俺はいまはこれができへんのや」と思うと、未来がある感じがするし、逆に「何をおこがましくなんでもできると思ってたんや」というふうにも取れるし。その言葉はずっと仕事のモチベーションになってます。
──師匠・神谷を演じた桐谷さんにとって、“好かれる先輩”とは?
桐谷 ふつうにしててそれを見て「ええな」と思ってくれたらいいし、まあ後輩が落ち込んでいたら声をかけるとか、人としての当たり前のことをやればええんちゃうかな。好かれようとするとおかしなってくる。ふつうでいい。それで、なるべく明るく楽しく。
──青年・徳永役の菅田さんにとって“好かれる後輩”とは?
菅田 好かれるかどうかわからないですけど、自分が仲よくなりたいと思う先輩には、あえてタメ口でツッコんでます。以前は「失礼やしな」と思って引いてたんですけど、「それは自分を出してないから向こうも寄ってきてくれへんよ」と福田雄一さん(演出家・映画監督)に言われて。失礼にならない程度に自分から踏み込んでいくようにしています。
──最後に、おふたりは互いになんと呼んでるんですか。
桐谷 将暉。
菅田 けんけん。
桐谷 それ嘘(うそ)やん(笑)。
菅田 本当は「桐谷さん」です。
桐谷 それ、距離感ありますよね。さっき言ってたことと違う。
菅田 いや、「桐谷」+(プラス)「さん」ではなく「桐谷さん」という固有名詞なんですよ。
桐谷 ああ、トムヤムクンみたいなね。
菅田 トムヤムクンは違うでしょ!
Photograph:Sunao Ohmori(TABLE ROCK.INC)
Styling:Keita Izuka(Mr.Suda),Yusuke Okai(Mr.Kiritani)
Hair & Make-up:Azuma(Mr.Suda),Tatsuya Ishizaki(Mr.Kiritani)
Text:Yukiko Anraku
Cooperation:BACKGROUND FACTORY