紳士の雑学

絶望の淵で見いだした
街を変え、人を幸せにするカフェ 第3回

2017.12.19

そんな「バッドロケーション」で地元に愛される店を次々と成功させるバルニバービは、当然業界でも大きな話題になる。ひとつのカフェやレストランによって地域が活性化していく様子が知られ、自治体などからタッグを組みたいとの要請が続々と舞い込んでいるのだ。さらに、逆に繁華街の真ん中「グッドロケーション」にある大型商業ビルなどからも低家賃の特別条件で出店してほしいとのオファーが現れる状況まで起こってきている。

そして、バルニバービが異彩を放っているのは、その立地や空間に加え、料理からスタイルからすべてが店舗ごとにまったく違うということ。企業経営の飲食店グループとしては、かなり異色の店舗展開なのだ。

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個人の思い、グループの力。

たとえば、シェフが中華料理を得意なら中華料理店になるし、前菜が得意なら前菜の充実した店になりますし、そんなふうにごく普通に考えてやれば同じようなスタイルの店にならないんですよ。そして、個人に性格、個性があるように、店にも人や建物、場所、それぞれに合わせた個性が出てくるんです。天井が高かったら空間を生かしたカフェにしてもいいし、テラスが多いなら夏場はビアガーデン、冬場はこたつを置いてもいい。

それぞれ個性があればいいんです。ただし、感性のガイドラインだけは厳しく設けているんです。
僕は24歳でヨーロッパに行って、古いものを生かしたセンスのよさを体感したんです。イタリアには「アンティーカ・ピッツェリア・ダ・ミケーレ」っていうピッツェリアがありますが、ナポリで147年続いてるんですね。そういう店で食べていると、人と人との関係、街と人との関係、歴史との関係……。食べるということは、人間の営みの中心に身を置くもので、そういうすべてを含んで成立しているものだということを実感するんです。

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ここ蔵前の「シエロ イ リオ」が入っているのは1970年代に建てられた元倉庫のビルです。そのたたずまいや歴史を残して、そこに新しさを加えています。その街にある意味、ルーツやヒストリーをきちんと感じるデザインで。絶対に奇をてらわず、本物を感じさせる、華美じゃなくても質感のいいものであるべきだと思っているんです。そういうセンスのガイドラインだけはきっちり厳しくしています。

だからなのか「どこか、バルニバービの店だってわかるよなあ」って言われるんです。うれしいですね。

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空気感は共有してもバルニバービは個人店の集合体であるべきだと思っています。
個人店って命懸けですよね。絶対にお客さんに喜んでもらおう、この店を受け入れてもらおうって必死ですよね。そんな個人の思いに、我々の仕入れ力や資金力があり、ガイドラインが加わればいいんです。

──画一的なサービスではなく、店舗ごとに個性が際立つ運営スタイル。ゆえに、スタッフ個々の能力や、モチベーションにかかってくる部分も大きくなる。その人材をどのように採用し、育てているのか。

定期的に佐藤塾という社内講習会をやっていますが、僕はそこで必ず2つのことを聞くんですね。
「食べることが好きですか?」「人の笑顔が見たいですか?」
食べることが好きであること、これは飲食店をやるなら当然必要なことですよね。それから、人の笑顔を見たい。喜んでもらいたい。これは資質なんです。人の役に立ったっていうときに自分が気持ちいいかどうかなんですね。

1995年の1月、おかゆを配りながら、自分の中で何かが弾けるような激情が涌きました。人に喜んでもらうことで自分がうれしくてたまらなかったんです。
それが原点にあるんです。だから聞くんですよ、「食べることが好きですか?」「人の笑顔がみたいですか?」と。

どちらかひとつでも欠けてるなら、うちの会社に絶対いないほうがいいです。だってこの2つがある人を前提にぼくは会社を組み上げてるんです。でも、そう思えるならうちの会社で働くと幸せだと思いますよ。

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仲間たちが光り輝けば、幸せになれる。

いまでも自分の店を見てがっかりすることがありますよ。でも、それと同じだけ、すごいなと思うこともあるんです。この前、滋賀県のとある店で、今年の4月から新卒で働いている子を見たんです。19歳でホールマネージャーを務めています。先輩たちのなかで19歳の子が、いきなり入ってきてフロア仕切ってね。経験もまだ浅く、悩み、傷つくこともたくさんあると思います。でも、ものすごく頑張ってくれてます。本人には言いませんけどね、いとおしくて仕方なかったですよ。

その子らの未来がある会社でありたいですよね。その子らの未来が僕の希望につながっているのはわかっているので。
目標はいろいろあるんですけどね、根本は食べ物で人に喜んでもらうこと。それを幸せに感じる仲間たちが光り輝けばいいなと思っています。スタッフが笑ってないと自分のことを「しょうもないおっさんやな」と思いますし、笑っていると「なっ、言うたやろ」と思いますしね。
その子らが光り輝くと、結果、会社ももうかるんです。間違いなく。それはかつてとは違う幸せなもうけ方ですよ。

絶望の淵で見いだした、街を変え、人を幸せにするカフェ 第2回

Photograph:Shota Matsumoto
Text:Kota Shizuka

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