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2017年、ここが気になった!そのファッション大丈夫?
政治家編
2017.12.25
2017年も間もなく終わり。この1年間でファッションにもさまざまなトレンドやブームがありましたが、著名人や街行くビジネスマンを見ていると、なかには「ちょっと……その着方違うんじゃない?」という人も。そこで、メンズファッションイラストレーターの綿谷 寛さんと、アエラスタイルマガジンの山本編集長が緊急対談し、今年“イケてなかった”政治家やビジネスマンのファッションを総括しました。
強烈な装いも見慣れれば、「意外にアリ」なトランプ大統領。
編集長 今年特に気になったスーツスタイル、まずは政治家編ですが、キャラが立っていて、独特のスーツスタイルで今年いちばんの顔と言えば、トランプ大統領だけど、就任からもうすぐ1年を迎えるいま、綿谷さんどう感じますか?
綿谷さん(以下敬称略) あれさ、不思議なんだけど、見慣れるよね。あぁ、こういうスタイルなんだって。もう驚かないし、定着、確立した感があるし、彼の雰囲気に、あの髪型はマッチしているなと思わせられたり。
編集長 同感。私も、政策は別としても、着こなしについては一回転半ヒネリで褒めたいとさえ思ってるんです。よくわからないけど、新しいスタイルに見えてきましたよ。
綿谷 一貫してるから、これはこれであり。
編集長 スーツのトレンドの流れとも重なって、いまは英国調やクラシック回帰と言われて、存在感やボリューム感のあるシルエットが気分ですよね。まさかトランプ氏がそれを意識してってことは……。
綿谷 絶対ないよね。
編集長 ですよね(笑)。でも、思い返せば、彼だけが特別じゃなくて、アメリカでエスタブリッシュメントと呼ばれる人たちは昔から大きいサイズの服が好みなんですよ。ケネディやオバマ大統領がおしゃれだと言われていたのは、珍しくコンパクトなシルエットだったからなわけで。
綿谷 加えてオバマ氏は、イスから立ち上がるときと、座るときで、スーツのボタンを閉めたり開けたりと、その所作や着こなしもスマートだったよね。
編集長 それはありますね。トランプもここまでやるなら、テンガロンハットとかかぶって振り切っちゃえばいいのにね。ジョン・ウェイン的な雰囲気でさ。あとは、ネクタイの長さも本当に独特、というか長い。彼くらい身長もあって、あの長さってことは、まさか小剣がすごく短かったりして。
綿谷 ネクタイはいつ見ても同じ長さだし、もうこの長さって決めてるよね、きっと。でもさ、意外にもワイシャツのカフスの出方とかは、きちんとしてるんだよね。シルエットはさておき、肩の合い方やシャツの出し方は正しいの。やっぱりビスポークだからかな。見方によっては、彼はソリッドタイの達人でもあるし。
編集長 結論としては、ここまでやり切ればあり、ってことか。
綿谷 個性的な着こなしと言えば、カナダのジャスティン・トルドー首相は女性にすごく人気だと聞きますよ。いい男だし、ファッショナブル。スーツスタイルを柄や色のソックスで遊んでいるのも、うまいよね。靴下はネクタイほど目立たないし。
編集長 そうですね。まぁ、でもつまらないこと言っちゃうと「靴下はスーツと同じ色で目立たないことがよし」がルール。踏まえたうえであえてはずしているとは思いますが。
黒スーツ、ネクタイの選び方……受け手が戸惑う装いとは。
編集長 メディアによく出た政治家と言えば、東京都議会の音喜多 駿議員が浮かびます。人とは違う発信の仕方をして、人とは違うファッションで注目を集めました。装いや、言動あらゆるところから「俺は、ほかとは違うよ」って主張を感じましたが、綿谷さんはどのように見てましたか?
綿谷 そうだな、いわゆる……意識高い系……?(笑)。あのさ、常々気になっているんだけど、黒シャツに黒のスーツ着ていた彼もそうだし、若い世代は最近ブラックスーツが圧倒的に多いよね。あれ、なんで? 僕らの感覚的には、黒は礼服のイメージがありますよ。
編集長 それについては私、仮説を立てていて。ズバリ、元祖はトム・フォードとエディ・スリマン。2000年頃、
綿谷 あったね、細いラペルの。
編集長 そう。恥ずかしながら私も着ちゃっていましたけど……。その流れが日本のブランドに入ってきて、量販店に届くまで3~4年。日本の就活生の間では、「一般的にはネイビー、ちょっと個性的な人がグレー」が定番でしたが、これが黒に移り変わったのが2003年ごろから。トレンドの時差説としては、ぴったり合うんですよね。そこからの流れが、いまも続いているんだと思います。
綿谷 なるほど。若い世代にとっては、黒は、堅い、きちんとしたというイメージもあるし、おしゃれな感じ、シャープに見られる色だと思っているのかな。あとさ、音喜多議員といえば、髪型も気になるよね。
編集長 わかります。ちょっと盛った感じの無造作ヘア。あれは若手ビジネスマンがやりがちなヘアスタイルですよね。あれを見るたびにいつも思いますよ、「ちゃんとなで付けて!」って。
綿谷 そういうのが新しく映るのかもしれないけどね。なんだかね……。
編集長 昔の政治家がやってきたことと違うことを、と考えて行動するのは大事かもしれませんが、こと仕事の装いに関しては、“自分流儀が求められない”こともある。「人と同じことをしているのに、なぜかあの人がやるとセンスがいい」というのが、いちばんかっこいいものです。
人と違うといえば、ネクタイも難しいですよね。いたじゃないですか、エヴァンゲリオンのネクタイで話題になった政治家……。
綿谷 ネクタイは単体で見て買うのは危険。シャツとスーツとコーディネートして買わないと失敗するよね。やたら主張が強くなったり、ネクタイだけ浮いたり。よほどおしゃれのキャラが立っていないと、モチーフ系のネクタイは避けたほうがいいよ。まぁ、今村元復興大臣はネクタイを通してメッセージを送ろうとしたのかもしれないけれど、見ている人を戸惑わせた時点で……ね。
編集長 ファッションは受け取る側のものでもあるので。ちなみに、安倍首相の着こなしはどう思います?
綿谷 そうだね、わりとちゃんとしてるなという印象。サイズ感もいいよね。そういえば、この間ある政治家から聞いたけど、政治家同士って、政策のことだったらどれだけでも意見できるけど、服のことは、たとえ間違った着こなしをしていても言いにくいって。まぁ男なんて、みんなそうだよなって改めて思ったの。政界一おしゃれだと言われている麻生議員も、「おしゃれですね」なんて褒めようものなら「男が服の話なんかするな」って怒るって聞きますし。
編集長 そりゃ本モノですね。麻生さんは、マフィアっぽいだのなんだのって言う人がいますが、たとえばあの帽子にしたって、男が帽子をかぶるのは、昭和の日本がもっていた大切なおしゃれの文化のひとつですよ。彼はマフラー、帽子、グローブときちんと身につけて正しい装いだと思いますね。マフィアっぽいなんて言っちゃあいけません。あ、でもよく考えれば、
綿谷 それ面白いね。結論はそれでいいか。でもさ、男同士で服の話は本当にしないもんだよ。たとえば、電車で「お?」と思うようなおしゃれな人が乗ってきて、相手も「おや?」って感じで見たとしても、互いにそれを悟られないようにするよね。脇差を抜くか抜かないか、そんな感じ。いまみたいにSNSで自撮りして、おしゃれをアピールするなんて、かつてはなかったよな。
編集長 本当にそう。では、次はいまの自撮りしているようなビジネスマンたちのスーツスタイルについて振り返ってみましょう。
プロフィル
綿谷寛(わたたに・ひろし)/イラストレーター
1957年東京生まれ。愛称は“画伯”。 1979年、雑誌『ポパイ』よりイラストレーターとして活動。以後『メンズクラブ』をはじめとして数多くの男性誌に寄稿し、とくに1950~60年代黄金期のアメリカン・イラストレーションを継承したタッチで描く正統派のメンズファッション・イラストで人気。クラシックな男の装いについても造詣が深い。一方、コミカルなタッチのイラストと文による体験ルポも人気を博するなど、多彩な顔をあわせもつ。
山本晃弘(やまもと・てるひろ)/AERA STYLE MAGAZINE編集長
「MEN’S CLUB」「GQ JAPAN」などを経て、2008年に朝日新聞出版の設立に参加。同年、編集長として「アエラスタイルマガジン」をスタートさせる。新聞やWEBなどでファッションとライフスタイルに関するコラムを執筆する傍ら、幅広いブランドのカタログや動画コンテンツの制作を行う。トークイベントで、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活動中。
Illustration:Hiroshi Watatani
Text:Noriko Ooba