旅と暮らし

ジャズと非ジャズを行き来するシンガー、ホセ・ジェイムズが
自身の原点となるデビュー盤『ザ・ドリーマー』を再訪

2018.01.15

内本順一 内本順一

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昨年は通算7枚目(ブルーノート移籍後4作目)となるアルバム『ラヴ・イン・ア・タイム・マッドネス』を発表し、「SUMMER SONIC」のマリンステージ(約3万5000人収容)という大舞台にも立った米国のミネソタ州ミネアポリス出身のシンガーソングライター、ホセ・ジェイムズ。それまでもジャズと非ジャズを行き来しながら作品ごとに振れ幅広く音の指向を変化させてきた彼だったが、その7作目ではコンテンポラリーなR&Bへと大きくシフトチェンジ。わけてもリード曲の「リヴ・ユア・ファンタジー」や「レイディース・マン」などはブルーノ・マーズを想起されるくらいにファンキーな行き方で、SUMMER SONICおよび翌日のビルボードライブ東京でも、それらを柱にしながら開放的なパフォーマンスを展開したものだった。

そのように極めてオープンな表現を見せていたのが2017年のホセだったわけだが、しかしこのモードが2018年にも引き継がれることは恐らくないだろうと、デビュー前から彼を追いかけてきた自分は考えていた。当時の旬のビートメーカーたちを迎えた冒険的な2作目『ブラックマジック』(2010年)を出したあとにピアニストのジェフ・ニーヴと組んだジャズ・スタンダード作『フォー・オール・ウィー・ノウ』(2010年)を出し、ロックやエレクトロに寄った異色作『ホワイル・ユー・ワー・スリーピング』(2014年)を出したあとにビリー・ホリデイに捧げたジャズ盤『イエスタデイ・アイ・ハド・ザ・ブルース』(2015年)を出す。彼はそういう男であり、来日公演もそのたびに異なる見せ方・組み立て方をしてきたからだ。ならばホセは次にどのような動きを見せるのか。今回のビルボードライブ公演の内容告知を見て、「なるほど、そうきたか」と自分は膝を打ったのだった。

ジャイルス・ピーターソンに見いだされ、そのジャイルスが設立した「ブラウンズウッド・レコーディングス」からホセがアルバム『ザ・ドリーマー』でデビューしたのは2008年1月のこと。そこからちょうど10年が経ち、いま、彼は現在の仲間たちとその自身の原点となるアルバムを再訪しようというのだ。題して"The Dreamer" 10th Anniversary Tour。脇を固めるのは黒田卓也(トランペット)、大林武司(ピアノ)、ベン・ウィリアムス(ベース)、ネイト・スミス(ドラムス)で、いずれも近年のホセの公演でおなじみのメンバーたちだが、自分の記憶に間違いがなければ、黒田卓也を迎えるのは2015年2月のビルボードライブ公演以来3年ぶり。まさに無敵の布陣と言えるだろう。

自分が初めてホセに会ってインタビューしたのは2007年4月(西麻布のクラブ「YELLOW」で行われたブラウンズウッド設立記念パーティーの当日)で、『ザ・ドリーマー』が世に出る約10カ月前。そのとき彼は影響を受けたミュージシャンとしてチャーリー・パーカー、ナット・キング・コール、ビリー・ホリデイ、チャールズ・ミンガス、セロニアス・モンク、プリンスらの名前を挙げ、とりわけ決定的だったのがジョン・コルトレーンとディアンジェロだったと話していたが、完成したデビュー作『ザ・ドリーマー』はざっくり言うならまさにその両者からの影響がひとつになった作品だった。つまりジャズを愛しながらヒップホップも日常的に聴いてきた彼なりのサウンド指向だったわけで、それをうまくやれている先達としてロイ・ハーグローヴの名前を挙げてもいた。ただ、ディアンジェロからの影響は後にブルーノート移籍作『ノー・ビギニング・ノー・エンド』(2013年)の代表曲「トラブル」などで顕在化したが、いま思えば『ザ・ドリーマー』はまだコルトレーンからの影響のほうが濃く表れたものだった。例えば「ヴェルヴェット」という曲ではコルトレーンの「コンパッション」を引用していたし、ラストの「ボディー・アンド・ソウル」に関しても「自分なりにコルトレーンっぽさを採り入れた」と彼は話していた。ほかにもアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの有名曲「モーニン」をカヴァーしたり、「スピリッツ・アップ・アバヴ」でチャールズ・ミンガスふうのアレンジを施したり。つまり自身の立脚点はやはりジャズにあるのだという主張が感じ取れるアルバムで、明確なジャズ表現による『フォー・オール・ウィー・ノウ』と『イエスタデイ・アイ・ハド・ザ・ブルース』の2作を除けば、そのデビュー盤『ザ・ドリーマー』は彼のキャリアのなかで最もジャズの色合いの濃い作品だったのだ。

そして今回、その原点を再訪するホセ。これまでもドラムンベース、ロック、エレクトロなど現代的なサウンドアプローチをしたあとには必ずジャズに立ち返っていた彼だったが、今回のライブもつまりそういうことで、そのように冒険と原点確認の両方を行き来しながら前進するのがまさにホセらしい在り方なのである。

10年の歳月を経てヴォーカリストとして成熟したホセが、このデビュー盤の曲群をどう歌い上げるのか。それが今回の公演の味わいどころではあるが、それと同時に脇を固めるプレイヤーたちの個性豊かな音表現が旧曲をどうよみがえらせ、いかに輝きとつやを与えるかにも注目したい。例えばドラムンベース仕立てだった「ラヴ」や「ノラ」のリズムをネイト・スミスとベン・ウィリアムスがいかに生で表現するのか気になるし、ホセのヴォーカルがチェット・ベイカーふうでもあった表題曲「ザ・ドリーマー」のイントロと終盤のトランペットを黒田卓也が吹奏する様を思い浮かべるだけでもゾクゾクする。また「ウィンターランド」はホセのシンガーソングライターとしての才が如実に表れたリリカルなスローで、個人的にはホセの全楽曲のなかでも特に好きな一曲なのだが、エンディング近くのあのピアノを大林武司が弾くのを想像するだけでも涙腺がゆるむというもの。そのあたり、間違いなく最大の聴きどころとなるはずだ。

この1月にはニューヨークで「Lean on Me: Jose James Celebrates Bill Withers」と題してビル・ウィザースの楽曲ばかりを歌うライブを行ってもいたホセ・ジェイムズ。今回の日本での「"The Dreamer" 10th Anniversary Tour」を経て、次に彼はどこに向かい、次作はどのようなものになるのか。それを予見する楽しみも含め、これは必見の公演である。

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。ブログ「怒るくらいなら泣いてやる」(http://ameblo.jp/junjunpa)でライブ日記を更新中。

Billboard Live
ホセ・ジェイムズ
"The Dreamer" 10th Anniversary Tour
feat. Takuya Kuroda, Takeshi Ohbayashi, Ben Williams and Nate Smith

【東京公演】
公演日/ 2018年2月21日(水)、22日(木)
料金/ サービスエリア8,900円 カジュアルエリア7,400円(カジュアルエリアのみワンドリンク付き)
問い合わせ/ 03-3405-1133
所在地/ 〒107-0052 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガーデンテラス4階

【大阪公演】
公演日/ 2018年2月23日(金)
料金/ サービスエリア8,900円 カジュアルエリア7,900円(カジュアルエリアのみワンドリンク付き)
問い合わせ/ 06-6342-7722
所在地/ 〒530-0001 大阪市北区梅田2-2-22 ハービスPLAZA ENT 地下2階

その他詳細についてはオフィシャルウェブサイトにて
PC/ www.billboard-live.com
Mobile/ www.billboard-live.com/m/

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