紳士の雑学
FiNC代表取締役社長CEO
溝口勇児インタビュー 前編
2018.02.15
栄養士やトレーナーなどの専門家や人工知能が、パーソナルデータからその人にぴったりの健康や美しさへのアドバイスをくれるアプリ「FiNC」が登場したのが2017年。「健康的にダイエットできる」「本物のパーソナルトレーナーがいるみたい」と、たちまち話題になった。ヘルスケア業界に新風を吹かせるベンチャー企業、「FiNC」代表取締役社長CEOの溝口勇児氏に、高い目標に向かって進むためのチームづくり、今後のことについて教えてもらった。
ヘルスケアという切り口で、世界的なプラットフォームをつくりたい。
社員が会社で実現したいことをつづったボードが置かれているFiNC社入り口。グリーンと木目調の開放的なエントランスには、実店舗としてのパーソナルジムやエステルーム、キッチンや打ち合わせスペースがあり、ガラス張りのジム内では会員が体を動かしていた。「ここからがオフィスです」とさらに奥のドアを抜けると、異様な熱気に包まれたミーティング中のスタッフの姿が。この日は月に一度の研修の日で、机を囲んだスタッフたちが、座ることなく、動きながら画期的な話し合いをしていた。
「ヘルスケアにおけるプラットフォームをつくりたい」と2017年3月にアプリ「FiNC(フィンク)」の提供をスタート。代表の溝口氏は「これまでもヘルスケア関連のアプリはたくさんありましたが、たとえばそれは血圧だけを管理するものだったり、体重だけ、睡眠だけ、食事だけ、女性なら生理周期だけを記録するものが多かったんです。『FiNC』は、あらゆるデータをひとつのプラットフォームに溜めていき、そのデータを基に栄養士やトレーナーなどの専門家や人工知能からアドバイスが提供されます。まるで専属のトレーナーがいるかのように、一人ひとりに合った健康や美しさのサポートをしてくれるアプリです」
『FiNC』の開発には、高校卒業後、ジムトレーナーとしてフィットネスクラブで働いていた溝口氏の経歴が大いに関係している。
「トレーナーが対面で行っているレベルのサービスを、アプリを使って非対面で提供するには、体重や血圧といった単体の情報だけではなく、さまざまなデータから分析しなければ最適なプログラムを組むことはできません。さらにプラットフォーム上に多くの人に集まってもらうことがプログラムの精度を上げるには必要なことです。ですから、現在の私の仕事としては、第一にアプリやサービス、ビジネス収益のスキームをつくること、ふたつ目にお客さまに実際に使ってもらうためのマーケティングを行うこと、そして、組織やチームづくり。大きく分けるとこの3つですね」
株式会社FiNCを設立したのが2012年。会社を立ち上げてからの転機を聞くと「仲間との出会いがいちばん大きかった」と言う。
「設立当時から、“ヘルスケアのプラットフォームをつくる”という目標を掲げて、いまもそれに向かって進んでいますが、仲間との出会いを得てからは、外部からの信頼や実現までのスピード感が圧倒的に変わりました」
現在のCTOであり、テクノロジーのプロフェッショナルである南野充則氏がFiNCに入ったのが2013年。共同代表の元みずほ銀行常務の乗松文夫氏が入ったのは2014年。もうひとりの共同代表、元ゴールドマンサックス幹部の小泉泰郎氏が入ったのが2015年。
「これらの出会いがなかったら、FiNCはもっとゆっくりと進んでいただろうと思います。そして、そのままではきっと世界のスピードに見合った競争関係についていけなかっただろうと思います。たとえば、目標までの戦略を立てるとき、ゴールから逆算して戦略を立てるのか、あるいは現有の“ひと・モノ・金”というリソースからどこまでいけるかと目標を設定していくのか、ふたつのやり方がありますが、私の場合は、『実現可能性の高い、けれども、最もストレッチした目標設定』を目指します。そして、その設定の高さは何で決まるかというと、“人”なんです。この人がいるから、あの人がいるからここまでやれるだろうと。今、日本発の世界的なプラットフォームをつくるという目標にスピード感をもって向かっていけるのは、仲間との出会いがあったからこそだと実感していますね」
Photograph:Shota Matsumoto
Text:Noriko Ooba
プロフィル
溝口勇児(みぞぐち・ゆうじ)
高校在学中からトレーナーとして活動。今日までプロ野球選手やプロバスケットボール選手、芸能人など、延べ数百人を超えるトップアスリートおよび著名人のカラダづくりに携わる。トレーナーとしてのみならず、業界最年少コンサルタントとして、数多の新規事業の立ち上げに携わり、数々の業績不振企業の再建を担う。再建を託された企業に関しては、そのすべてを過去最高業績へと導く。2012年4月にFiNCを創業。一般社団法人アンチエイジング学会理事。