紳士の雑学
組織のリーダーの役割は汎用的な知
チームラボ 猪子寿之インタビュー[後編]
2018.03.22
「実験と革新」をテーマに、デジタルとクリエイティブを融合させた作品を生み出し、世界中からオファーが殺到するアート集団「チームラボ」。ロンドンやニューヨーク、シンガポールなど海外での展覧会も大盛況となり、国内外から注目を浴びている。チームラボ代表猪子寿之氏が考える「デジタルアート」とは、また組織のリーダーとして考えていることとは。
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汎用的な“知”の発見が、組織に対する自分の仕事。
東京大学工学部応用物理・計数工学科卒業と同時に、同級生の仲間5人で2001年に立ち上げた「チームラボ」は、2018年には約500名のメンバーを抱えるまでに成長。代表の猪子氏は現在、採用面接や人事には一切関わっていない。大勢の専門家を束ねるリーダーとして、何を心掛けているかと尋ねると、「リーダーというものが、組織に対してより高い価値を提供する存在だとすれば、なるべく不確定要素が少ないことにはコミットしないほうがいいと思ってる。だから僕は面接試験には関わらないですよ。人ごときが、人のことをたったの30分で確実にわかるわけないですから。
もちろん、こういうスキルのある人を雇ってほしいとオーダーはします。でもオーダーはあくまでスキルという確定要素。その人の性格や情熱や会社に合っているとかそんな判断は……僕にはよくわからないですよ。そういうのは、やる気のある人がやればいい(笑)。僕はほとんど社員の誰とも仕事以外のことはしゃべらないですし、どの人がどのプロジェクトに関わっているのか、顔は知っていても、名前は覚えていないくらいです」
「それよりも自分がエネルギーを注ぐべきことは、プロジェクトのなかで、汎用的な“知”を発見したり発明したりすること」だと猪子氏。「発見されたり発明された知が、汎用性のあるものならば、それは具体的に再利用できる。組織は繰り返し使えるその知を手に、どんどん強くなる。これは昔から変わらないことで、人類は汎用的な知によって進歩してきたでしょ? さかのぼればニュートンが万有引力を発見し、複雑な自然現象を抽象化したことで世界は飛躍的にバージョンアップしたし(笑)、誰でも力学がわかって、その法則を再利用、何度も活用して、新しいモノが開発されて、と世界は前に進んできた。いや、僕は人類の知に値するものを発見できるほど賢くないけれど、僕らがやっている狭く新しい領域に使える汎用的な知を発見して、それによって組織全体のクオリティーが確実に上がればいいと思ってます。
まぁ、汎用的な知なんて大げさにかっこよく言いましたが、大したことはないんですよ。例えば、LEDはこんなふうに光らせれば上品な光になる、とかそんな話。でもその方法が汎用的であれば、あらゆるプロジェクトで使えるし、どの作品においても光の状態が少し上品になるといったように、少しずつ、だけど具体的にクオリティーが上がっていくんです」
先人のいない分野で、自分たちの担う“係”をまっとうする
まさに「実験と革新」。次々と出てくる猪子氏の発想の根本にあるものは何かと聞くと「頭のなかにある理想の世界像や人間像と、実際の社会や現実の間にあるギャップ」という答えが返ってきた。
「チームラボは、国内だけでなく、できれば世界のなかで生きたいと思っていて、世界のなかで生きるためには、いますでにいる磨き抜かれたスペシャリストのなかで生きる道を探しても難しいわけで。人類はこれまでいろんな人たちによる“係制度”で前に進んできましたが、そこに自分らが参入したところで、いまいる係の人たち以上のことなんてできるわけがないんです。だからまだ係がなく、その仕事をしている人もいなくて、一流の人がいない分野。そんないまだプレイヤーがいない場所で知を発見できれば、二流や三流でも活躍できるんですよ(笑)。
いま現在、世界からオファーがあり声が掛かっているということは、僕らも何らかの係をさせてもらえているのかなと思います。この先の目標ですか? …うーん…まぁ、特に。いまよりもっと、より世界のなかで価値があるものを創っていたいですね。最終的には『チームラボ』が人類にとって少しでも意味があることができたらいいなと思います」
Photograph:Shota Matsumoto
Text:Noriko Ooba
プロフィール
猪子寿之(いのこ・としゆき)
ウルトラテクノロジスト集団チームラボ代表。1977年、徳島市出身。2001年、東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。大学では確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究。2017年、芸術選奨新人賞受賞。