紳士の雑学

たまには90年代のように
クラブ帰りのススメ[センスの因数分解]

2018.03.09

写真・図版 田中敏惠

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SNSのポストで、興味深い記事を読みました。出典元は、『Time Out Tokyo』。世界32カ国の都市調査を行い、そのデータから見えてきたのは“東京では夜更かしはするが、夜遊びはしない”という結果でした。映画も、観劇も、音楽ライブも、ギャラリー詣でも、すべて平均値を下回っていたのですが、なかでも顕著だったのが夜遊びの数値で、ひと月以内にバーに行った人は、他都市平均が84%に対し東京は51%。ナイトクラブにいたっては、ただの一度も行ったことない人が20%。世界平均の7%のほぼ3倍の数値です。

なんてもったいないんでしょう!!! というのも(個人的な話で恐縮ですが)、最近二十数年ぶりにクラブで音楽を聴くのがとても楽しいからです。いま、90年代のリバイバルブームが到来していますが、90年代といえば言わずと知れたミュージックシーン全盛期。ここ最近はブームを象徴するような現象が同時多発的に起きていますが、昨年、大沢伸一と沖野修也が同じようなタイミングで新譜をリリースし、さらには共にフジロックに出演したというのも、象徴的な出来事のひとつだったと思います。

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大沢伸一の“MONDO GROSSO”と、沖野修也と弟・好洋による“Kyoto Jazz Massive”は、90年代の日本だけでなく、欧米においてもクラブという範疇(はんちゅう)を超えた音楽シーンで人気を博しました。また92年に沖野修也がオープンさせたクラブ・渋谷のTHE ROOMは、当時渋谷の文化発信地のひとつでした。このTHE ROOMは25年以上経ったいまも同じ場所で営業しており、ルイ・ヴィトンが発行するシティ・ガイドの東京編にも掲載されています。そして大人世代のクラブ返り(もしくはクラブ初め)におすすめしたい場所でもあるのです。そのポイントはというと……。

その1:子どもの財布をアテにしていない。
要するに子どもをバカにはしないが迎合もしないということです。音楽はジャズやブギーが中心。新旧問わず流れますが、みんな純粋に音楽を楽しみに来ていてフレンドリーな人たちです。場の雰囲気はとにもかくにも音楽によって構成されていきます。出会いはウエルカムだけど、ナンパ目当てではない人たちばかりなので、目をサーチライトのように光らせて女の子を探す人にとっては相当アウェイ(だけれど魅力的な女性はいるという)。高揚はあるけれど、ざわつかない。そしてクラブではおなじみのテキーラショット率が低いというのも、大人にはうれしいところではないでしょうか。

その2:とてもクリーン。
90年代のクラブといえば、煙モクモクは当たり前。トイレがひどい、なんていうのもザラでした。しかしTHE ROOMは完全禁煙。最近リニューアルされた店内は、老舗クラブですがすっきりとクリーンです。金曜の夜、スーツ姿でやって来たゲストを包み込む懐の広さもあります。(※イベントによっては喫煙可)

その3:大人への理解度がある
クラブの盛り上がりのピークといえば午前2時や3時。終電で向かって始発で帰るのが体力的にも厳しい世代のために、その名もずばり「Before Midnight」など日付が変わるころまでで十分楽しめるイベントを用意してくれています。

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その4:ユニバーサルなナイトシーンを体感できる
ルイ・ヴィトンのシティ・ガイドをはじめ、海外のガイドブックやサイトでもよく紹介されているクラブだけあって、客層は実に多様。外国人と日本人の比率が変わらないのでは? と思うことも珍しくありません。しかも、そのなかには海外のセレブリティーや、ジャーナリスト、フォトグラファーなどもいたり……。音楽やエンターテインメントのプロはもちろん、世界のクリエイターたちも楽しんでいる空間なのです。

その5:オーナーの企画力が抜群
先ほど紹介した「Before Midnight」だけでなく、かけたアナログ盤をその場で希望者にプレゼント、JAZZをキーワードにしたブックディレクションなど、オーナーである沖野修也のユニークな企画は、このクラブの大きな魅力のひとつです。そして4月には、国内屈指の“オオバコ”クラブ、新木場のageHaでTHE ROOMの25周年特別企画も開催されるといいます。このイベントも、「EDMやトランスが全盛の最大規模のクラブで、コバコの周年をやる」という沖野修也のひらめきから始まっているとか。ゲストDJは先の大沢伸一、ライムスターのDJ JIN、松浦俊夫、DJ KAWASAKIなど豪華なメンバーたち。しかも彼らが企画した家具のリリースも!(このデザインは、かつてTHE ROOMのレジデントDJでもあった建築家の鄭秀和!)そして、THE ROOM名物企画でもあるかけたアルバムその場でプレゼントのほか、沖野とゲスト合わせて5人による初アナログ化音源のレコード付き前売り券も限定発売するという太っぱら。これも沖野の企画です。次から次へと仕掛けるクラブ。企画を追いかけるだけでもユニークなクラブ。それだけで気になる人もいるのではないでしょうか。

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アメリカでは、CDはおろか、インストールよりも配信で音楽を聴く割合が最も多くなりました。そしてアメリカでも日本でも、個々のデバイスで聴く“閉じた音楽鑑賞”は当たり前になっています。しかし、いい音をよい雰囲気で、しかも多くの人と共有しながら聴く快楽は、デバイスの変化のような些細(ささい)な事柄で揺らぐことはありません。そして音楽がもつ解放力は、ほかのカルチャーコンテンツに比べて群を抜いていると思います。白状しますと、私自身その解放感を久々に味わったのが、沖野修也がゲストで訪れていたとあるライブイベントにて、でした。

音楽を楽しむとは、心地よさに身を任せるとは、コミュニケーションとは、場所づくりとは……。20年前、音楽の開放感を味わっていた卒業生も、東京の20%のクラブ未経験者も、能書きでは決して手に入れられない開放や高揚を体感したいなら、GOOD MUSIC CLUB、行ってみてはどうでしょう。自由を感じる非日常は、意外と手軽に手に入るのかもしれませんよ。 

THE ROOM

ageHa

VJ FURNITURE

プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。
http://ttanakatoshie.com/

Photograph: Hirotaka Ishigaki

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