旅と暮らし
カンヌ映画祭パルムドール受賞監督が映し出す、新たな“愛と死”
現代の孤独と無関心をシニカルに描いた作品
2018.03.26
老夫婦の愛のかたちを描き、第65回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した『愛、アムール』から5年。ミヒャエル・ハネケがいままた、家族の在り方を見つめている。社会の最小単位である家族や夫婦を通して、SNSや難民といった現代社会の抱えるさまざまな問題を、辛辣(しんらつ)に、冷ややかに浮き彫りにしながら新たな“愛と死”を描いた今作は、昨年のカンヌ国際映画祭で賛否を巻き起こした。
ドーバー海峡に面したフランスの街、カレーに住む一家。豪華な邸宅に暮らし、恵まれた家族に見えるが、みんな自分のことばかりにとらわれ、社会や他人には無関心。同じテーブルを囲み食事をしても、居心地の悪さだけが漂う。
そんななかで今回ハネケが焦点を当てたのが、老いた祖父ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)と、孫娘のエヴ(ファンティーヌ・アルドゥアン)。幼いころに両親が別れたことで愛に飢え、死とSNSの闇に取り憑(つ)かれたエヴの閉ざされた心の扉を、ジョルジュの衝撃の告白がこじ開けるのだが……。
スマホ画面越しの冷徹な目線。ずれている論点。その状態で食卓を囲める鈍感さと、気分を害するほどの無関心さ。映画で感じたこれらすべての集約が、自分自身であるかもしれないと思うたびにゾッとする。でも、「これが現代に生きる我々の運命」とハネケが言うように、知った気になって何も知らない、繋がれた気になって繋(つな)がれていないディスコミュニケーションを誰もが抱える時代。その孤独もまた愛(いと)おしい。
そして、衝撃のラストカット。突如置き去りにされ、無音のエンドロールを呆然と眺めながら、この家族の虚無はいったいなんだったんだろうと考える。誰かが、何かが答えをくれるかもしれないという淡い期待はあっさり裏切られた。このタイトルを皮肉と捉え納得するも、こねくり回したハッピーエンドを想像するも、あとは自分次第ということだろう。
『ハッピーエンド』
監督・脚本/ミヒャエル・ハネケ
出演/イザベル・ユペール ジャン=ルイ・トランティニャン マチュー・カソヴィッツ ファンティーヌ・アルドゥアン ほか
上映時間/107分
製作国/フランス・ドイツ・オーストリア合作
HP/http://longride.jp/happyend/
角川シネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
Text:Asako Saimura