旅と暮らし
自然な栽培でサンセールの歴史を変えた「セバスチャン・リフォー」
2018.03.23
ソーヴィニヨン・ブランのもうひとつの銘醸地といえば、ロワール地方のサンセール。ロワール川を上流にさかのぼった、ロワール地方のなかでも最も内陸に位置する標高の高いエリアで、小高い丘に囲まれてぶどう畑があり、夏は暑く、冬は寒いという典型的な大陸性気候。そんな土地で造られるサンセールの白といえば、ミネラル豊富な土壌が育む、エレガントながらキリっとした柑橘系の酸が特徴だ。
「今回選んだのは、そうした定形としてのサンセールの魅力を超え、50年以上前にさかのぼる、本来のサンセールに備わった魅力を凝縮した一本です。造り手であるセバスチャン・リフォーは、サンセールで代々続く農家に生まれ、大学でワイン醸造を学んだのち、世界のワイン市場を知るためにロンドンのワインショップで働いた経歴の持ち主。そのロンドンでナチュラルワインと出合い、傾倒。実家に戻ってからはビオディナミを実践し、健全なぶどうを完熟させることに注力しています。ほぼすべてのサンセールが醸造時に亜硫酸を添加して二次発酵の発生を抑え、フレッシュなリンゴ酸を残すように造っていますが、セバスチャンは亜硫酸を加えずに、豊かさや複雑味を増すことに努めています」と大橋さんは言う。
グラスに注がれた液体は、濃い麦わら色で、ほんのりと白濁した様子は、見るからに自然派。口に含めば心地よい酸味はもちろんながら、エキスの凝縮感が印象的。大橋さんいわく、ソーヴィニヨン・ブランに関しては、ナチュラルな造りのほうが、ぶどうのエキスの凝縮を感じやすいのだそう。セバスチャン・リフォーのサンセールはまさに、その典型だ。
「セバスチャン・リフォーのぶどう栽培は、粒を小さくすることに注力し、厳しい剪定によって収量をごく抑え、さらに、サンセールのなかで最も遅く収獲しています。上級キュヴェの畑ではトラクターを使わずに、馬で耕すというほどの徹底ぶりです。こうしてぶどう栽培においても、醸造過程においても、なるべく人の手が介入しないワイン造りを目指していて、これが、サンセールワインを変えたと言われているのですが、実は、50年以上前の本来のサンセールのワイン造りに立ち返り、原点の魅力を追求しているのです。飲みやすくて爽やかという以上の、サンセールの魅力を教えてくれる一本です。自然派のワインが好きな人にはたまらない一本だと思いますし、ちょっと苦手という人にも、必ずおいしいと感じてもらえる逸品だと思います」
Photograph:Makiko Doi