旅と暮らし

唯一無二のロックボーカリスト萩原健一
デビュー51年目の矜持と圧倒的な存在感を見せる

2018.03.28

内本順一 内本順一

唯一無二のロックボーカリスト萩原健一<br>デビュー51年目の矜持と圧倒的な存在感を見せる

『傷だらけの天使』(1974年)を見てショーケンこと萩原健一のかっこよさに憧れ、ファッションやしゃべり方、トマトの食べ方や牛乳の飲み方までも真似していた。現在50代の男性にそういう人は少なくないはずだ(例えば、とんねるずもまさにその世代で、3月に終了した『とんねるずのみなさんのおかげでした』の第1回は『傷だらけの天使』のパロディーコントでスタートした)。かく言う自分も代表作の『傷だらけの天使』と『前略おふくろ様』(1975年)はもちろんのこと、『祭ばやしが聞こえる』(1977年)や『死人狩り』(1978年)といった主演ドラマもリアルタイムで毎週見ていた。

“俳優・萩原健一”に対する思い入れは当然のようにある。だがそれを上回るくらい、自分は“ロックボーカリスト・萩原健一”に対する思い入れのほうがより深い。自分にとってショーケンと言えば、第一にライブアーティストなのだ。

こう書いてもピンとこない人は多いかもしれない。“ロックボーカリスト・萩原健一”の全盛期は70年代後半から80年代半ばにかけてで、『Nadja』3部作(1977年・1978年・1979年)、『熱狂雷舞』(1979年)、『DON JUAN』(1980年)、『DON JUAN LIVE』(1981年)、『D’ERLANGER』(1982年)、『SHANTI SHANTI LIVE』(1983年)、『THANK YOU MY DEAR FRIENDS』(1984年)と毎年のように傑作を放っていたが(『熱狂雷舞』以降はスタジオ録音盤とライブ盤を交互に出していた。そういう人も珍しいが、それはライブアーティストとしての誇りと、自身の歌唱表現の変化を形として残したいという意思の表れだったのだろう)、にもかかわらず当時から音楽専門誌に取り上げられる機会は多くなく、2000年以降に再評価されることもあまりなかった。

ライブがあればなんとしても観に行っていた自分のような大ファンからすると、それはなんとももどかしいことではあったが、80年代後半から音楽活動を休止し、またたび重なる事件もあったりしたので、それが再評価のしづらさにつながっていたところもあったのだろう、きっと。

けれども、ここにきてショーケンはまたライブ活動に対して非常に積極的になっている。5月には昨年に続いてビルボードライブ東京、大阪での公演が控えているし、それ以降も名古屋、横浜などさまざまな会場での公演が決まっている。だからこの機会に、少しばかり“あのころ”のショーケンのライブのことを思い出して書いてみたい。

ザ・テンプターズのボーカルとしてデビューし、「神様お願い!」「エメラルドの伝説」といったヒット曲(どちらも1968年)を飛ばしたのがショーケンの歌手キャリアの始まりだが、自分が初めて買ったのは1978年発表のアルバム『Nadja2~男と女』だった。『Nadja』はまだロックというよりはアダルト・コンテンポラリーと言える音の作りで、井上堯之と大野克夫のふたりがそこに大きく貢献していた。

『Nadja2~男と女』の大人っぽい匂いにもしびれたが、決定的だったのはその次の『Nadja3~Angel gate』で、ヒット曲「大阪で生まれた女」やいまでもライブの最後に歌われることの多い「さよなら」など、このアルバムはとにかく名曲ぞろい。のちに結婚した、いしだあゆみとのデュエット「ア・ブランニューデイ」にもグッときたものだ。またこのアルバムの「どうしようもないよ」では裏声を強調していたが、思えばこれがそれ以降のショーケンの裏声多用歌唱スタイルのきっかけだったかもしれない。

『Nadja3~Angel gate』にやられた自分は、ライブも初めて観に行った。78年から79年にかけて行われた全国ツアー、その79年7月14日の渋谷公会堂公演だ。バックバンドは柳ジョージ&レイニーウッド。ショーケン自ら企画に関わって出資もしたドラマ『祭ばやしが聞こえる』のテーマ曲(ドラマ内ではインストゥルメンタルが使われた)の歌入りバージョンでシングルデビューした柳ジョージのギターとボーカルの才能にショーケンは早くから相当ほれ込んでいて、『Nadja2~男と女』には柳ジョージ作詞による「時は流れて」を収録し(同曲は柳ジョージ&レイニーウッドの1stアルバム『Time in Changes』にも収録)、ドラマ『死人狩り』の主題歌にも柳ジョージ&レイニーウッドの「Weeping in the Rain」を起用。『Nadja3~Angel gate』でも柳ジョージをギターで参加させ、ブレイクの後押しをした。

そんなショーケンと柳ジョージ&レイニーウッドがガップリ組んだ全国ツアーはボブ・ディランとザ・バンドが組んでのツアー<ローリング・サンダー・レビュー>になぞられるもので、その数公演を編集したものが傑作ライブ盤『熱狂雷舞』に。これをナマで体験したことは、RCサクセションの久保講堂公演(=『RHAPSODY』)を観たことと並んで自分にとっての自慢だったりもする。ちなみにこのツアーでのショーケンの衣装(赤いシャツに銀色のネクタイとハット)がドラマ『探偵物語』における松田優作のスタイルの元になっているというのはそこそこ知られた話だ。

その79年のライブで完全にやられてしまった自分は、以降、首都圏で行われるショーケンの主要ライブを必ず観に行くようになった。『熱狂雷舞』と並ぶ、あるいはそれを超える興奮の大傑作ライブ盤『DON JUAN LIVE』になった1980年8月26日の新宿厚生年金大ホール公演も観たし、伝説的な名演と言われる大晦日の浅草ニューイヤー・ロックフェスティバルも観たし、1982年7月31日のDON JUAN日比谷野音ファイナルも観たし、1983年1月21日の日本武道館(「SHANTI SHANTI…TWO」。オープニングアクトはハウンド・ドッグとジョー山中だった)も観た。

そんななかでも忘れられないひとつが、1980年7月27日に西武球場で行われた「80’s JAM」。山下達郎、ハウンド・ドッグ、世良公則&ツイストほか数組が出演したこのイベントのトリを務めたのがショーケンとそのバンドであるDon Juan Rock’n Roll Bandだったのだが、その前のシャネルズの演奏途中で雨が降りだし、ショーケンのライブが始まるころには豪雨に。それでショーケン以外の出演者が目当てだった人々は帰りはじめたわけだが、ショーケンは登場するやいなやそれを見て「帰んじゃねえぞおぉぉぉ。終わりじゃねえぞおぉぉぉ。戻ってこおいぃぃ。のせるぞおぉぉぉ」と何度も絶叫し、雨でびしょ濡れになったステージを右から左へ、左から右へとスライディング。まるで狂ったようだったが、これぞロックンロールとしか言いようのない高揚感に満ちた圧倒的なライブパフォーマンスだったのだ。

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このころのショーケンとDon Juan Rock’n Roll Bandはまさに無敵で、速水清司と石間秀樹のツインギター、田中清司と原田裕臣のツインドラムも絵的要素含めて最高だった(日本のロックバンドでツインドラムは当時もいまも珍しい)。この時代……80年代の前半において、日本で一番かっこいいバンドはRCサクセションだったが、Don juan Rock’n Roll BandはそのRCに完全に匹敵した。どちらもローリング・ストーンズの影響下にあるライブパフォーマンスを展開しながら、独自性たるものがあった。このころ「一番好きなバンドは?」と訊(き)かれると、自分はRCと答えるべきかDon Juanと答えるべきかいつも迷っていた。それはあくまでも自分の実感だが、間違いのない確かな実感であったといまも自信を持って言える。

その後1985年8月24日には、よみうりランドEASTで「WHAT’S? LAST LIVE!! これが最後か!!」と題されたライブを観たが、このときはDon Juanの数人にミッキー吉野らを加えて再構成されたアンドレ・マルロー・バンドでのもの。それもまた熱狂的と呼べるライブの在り方だったが、これ以降、アルバム・リリースはあったもののライブ活動はめっきり減り、かなり久々に行われたのが、「コレラの時代の愛」と題された1990年9月のBunkamuraシアターコクーン・15日間連続公演だった(自分は9月27日の公演を観た)。シアターコクーンというハコを選んだことからもわかるとおり、それは熱狂的なビッグライブというよりはもっとインティメイトなもので、80年代前半のライブの在り方とはだいぶ異なっていた。ストーンズがスタジアムでやるようなビッグなライブの在り方にショーケンはもう飽きて、新しい形に移行しようとしていたのだ。

この1990年のライブがあったころ、自分は情報誌の編集の仕事をしていて、初めて憧れのショーケンにインタビューすることができた。インタビュー前夜はショーケンのレコードを聴き返し、頼まれてもいないのにライブで歌ってほしい曲を選んで妄想セットリストを作ったりもした。インタビュー当日、それを持って行って、ショーケンに見せた。するとショーケン、「それ、オレにくんねえかな」。うれしかった。そのライブを観ながら、「この曲は僕の作ったセットリストを見て組み込んでくれたのかな」などと考えたら、ちょっと泣けた。

だが、1990年のそのライブを最後にショーケンは音楽活動をストップし、俳優活動に専念。次にライブを観ることができたのは、そこから実に13年が過ぎた2003年11月、渋谷公会堂での「ENTER THE PANTHER」だった。井上尭之、ミッキー吉野ら豪華なメンツを迎えて臨んだその13年ぶりのライブはしかし、ブランクがたたって声がまるで出ていなかった。登場して早々に土下座をするなどパフォーマーとしての存在感はやはり圧倒的だったが、あまりの声の出ていなさ加減に自分は悲しくなったものだ。

そこからまた6年ちょっとが過ぎた2010年1月23日、ショーケンは京橋のル テアトル銀座で「ANGEL or DEVIL」と題されたトーク&ミニライブを行った。トークゲストに林真理子を迎え(別日は阿川佐和子)、ライブとしては6曲のみ。だが、これがよかった。2003年のライブに比べると声の調子が格段によくなり、ライブ時間が短くても自分は十分満足した。そして、それを上回ってさらによかったのが、2013年6月27日に横浜BLITZで観た「I FEEL FREE」と題されたライブだ。これこそ完全復活と言えるほどに歌声が力強く、観客も総立ちとなった。過去に「何が起きたんですか~、ええ、大麻と交通事故と離婚です」と歌ったこともあった「鈴虫(九月朝、母を想い)」では、この日は「大震災と大津波と原発です」と歌われ、そんな歌詞の更新もまたショーケンらしかった。2000年代に入ってからのショーケンのライブで、この「I FEEL FREE」は最も素晴らしい出来だった。

そこからまた4年が過ぎた2017年は、ショーケンにとって芸能生活50周年となる年だった。そこで、それを記念したライブ「Last Dance」を5月8日にビルボードライブ東京で開催。Air Sculpturesのギタリスト、瀬田一行をはじめとする実力派ミュージシャンたちからなる新バンドをバックに代表曲の数々が歌われたのだが、個人的には数十年ぶりにレゲエアレンジの隠れた名曲「もう一度抱いて」を聴けたのがうれしかった。また9月28日と29日には川崎CLUB CITTAで「Last Dance Vol.2」と題された公演も行われた。

Don Juanの活動前後に歌唱方が変わり、裏声を多用するスタイルとなったが、現在のショーケンはというと、それがもっと極端に。出す声は低いところと裏声だけで、中音域はほとんどない。漫才コンビの千鳥のノブふうに言うなら、まさに「クセがすごいんじゃ」といった感じだが、しかしボブ・ディランしかりトム・ウェイツしかりジョン・ライドンしかり忌野清志郎しかり、ボーカリストたるものクセがすごければすごいほど魅力的とも言えるわけで、そういう意味でもやはりショーケンは唯一無二の歌い手なのだ。「Time Flies」(光陰矢の如し)と題された今回の公演も矜持を感じさせるものになることだろう。

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。ブログ「怒るくらいなら泣いてやる」(http://ameblo.jp/junjunpa)でライブ日記を更新中。

Billboard Live
萩原健一 Time Flies

【東京公演】
公演日/ 2018年5月2日(水)、4日(金・祝)
問い合わせ/ 03-3405-1133
所在地/ 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガーデンテラス4階

【大阪公演】
公演日/ 2018年5月30日(水)、6月1日(金)、 6月2日(土)
問い合わせ/ 06-6342-7722
所在地/ 大阪府大阪市北区梅田2-2-22 ハービスPLAZA ENT 地下2階

その他詳細は下記より
http://billboard-live.com/

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