特別インタビュー

渋谷「AMECAJI」物語。
第2回 内田良和氏

2018.03.29

いであつし いであつし

渋谷「AMECAJI」物語。<br>第2回 内田良和氏

日本人が独自に進化させて、いまや本家のアメリカにも逆輸入され国内外のクリエイターやファッショニスタに影響を与えているカジュアルスタイル「AMECAJI」。アメカジの発祥地である80年代~90年代の渋谷・原宿界隈のインポートショップの全盛期に関わったキーマンたちにお会いして、当時の思い出やエピソードを語っていただく渋谷「AMECAJI物語」。第2回目は、伝説の名店「プロペラ」の物語をもう少し続けよう。

今回お話をうかがったのは、内田良和氏。筆者より7つ年下の1967年生れの内田氏はプロペラのオープン当初からスタッフとして勤務した後、「ザ・リアルマッコイズ」の初期スタッフを経て、現在は名前を聞けば誰もが知る某有名アパレルブランドに勤める筋金入りのアメカジ第二世代だ。この日もグッドコンディションの古着のファティーグジャケットにRRLのスゥエットとデニム、黒のチャックテイラーという着こなしで、待ち合わせた原宿のキャットストリートに現われた。

「僕がプロペラで働きはじめたのは山下(前回ご登場いただいた『モヒート』のデザイナーの山下裕文氏)よりも少し前です。文化服装学院を卒業間近の頃に、最初はバイトでオープニングスタッフとして入りました。当時友達があの近くの風呂なしのアパートに住んでいたこともあって、よく遊びに行っていたんです。まだキャシディの近くに銭湯もあってよく通っていました(笑)」

それにしても前回のモヒートの山下氏にしてもそうだが、AMECAJIを創った渋谷のアメカジ第二世代には、服飾の専門学校からインポートショップスタッフの道に進む人たちが実に多い。同じアメカジ世代でも、ひと世代違う筆者の時代には考えられなかったことである。昔は大抵がデザイナーズブランドや大手のアパレルメーカーに就職していたからだ。ようやくこの世代からアメカジもファッションとしてメジャーになったということだろう。

「本当はスタイリストになりたかったんです。それでPOPEYEで活躍されていた北村勝彦さんに憧れて、無謀にもアシスタントにしてくださいと売り込みに行ったことがあるんです。でもまだ高校生だったし、僕は家が神奈川の逗子で通うのも大変だからと、優しく丁寧に断られました。当然ですよね」

そう言って、今も大切に保管しているという北村勝彦氏がスタイリングした“ワイルドシック”が載っている創刊して間もない頃や、北村勝彦氏がラルフローレンを取材した記事が載っている80年代初め頃の号のPOPEYEをスマホの画像で見せてくれた。

「ワイルドシックなんていま見ても相当に格好いいですよね。スーツにマウンテンパーカーやダウンベストを合わせたり、北村さんが得意とする重ね着のスタイリングはラルフローレンよりも早かったんじゃないのかなぁ。これを初めて見たときは、もう本当に格好良くて衝撃をうけました」

しかし驚いたことに、なんとこのころ内田氏はまだ小学生の高学年である。そりゃそうだ、この時代にPOPEYEを夢中になって読みあさっていたのは、当時高校生だった筆者の世代である。なんでも友だちとそのお兄さんたちが読んでいて、それで影響を受けたという。

なるほど、そう聞くと、なんだかアメカジも昔のアメトラ世代とよく似ている。「兄貴がメンクラを読んでいて、それでアイビーやVANを知って着るようになった」と同じである。やはりいつの時代も、ませた男子たちは最初はそうやっておしゃれに目覚めるのだなぁ。

「中学生の頃にはPOPEYEを定期購読していて、毎号届くと穴があくほど読み込んでいました。なにしろ神奈川の逗子の田舎のチューボーでしたから。高校生になると横須賀で米軍のベースの中で掃除のバイトをしてお金を貯めて、当時ドブ板通りにあったホワイトエレファントというアメカジにうるさい頑固オヤジが店主のインポートショップでリーバイスやレッドウィングのアイリッシュセッターを買って着ていましたね。とにかくメイドインUSAが大好きだったんです」

メイドインUSAが大好きな、ませたポパイ小僧だった内田氏。地元のショップ巡りでは飽き足らず、POPEYEの「男前特集」や「このSHOPとこのヒトがいるから街は楽しい」といったショップ特集号を穴が開くほど読み込んでは、「スポーツトレイン」の油井昌由樹氏や、「ハリウッドランチマーケット」の垂水ゲン氏、「吉田カバン(現ポータークラシック)」の吉田克幸氏、「バックドロップ」の中曽根信一氏などなど、憧れのレジェンドたちに逢いたくて東京まで遠征して、ショップ巡りの日々。ますますアメカジにハマっていくのであった。

話をプロペラ時代に戻そう。北村勝彦氏のスタイリストアシスタントをあきらめた内田氏は、当時もうひとつ魅力的だった原宿のプロペラがオープニングスタッフを募集しているというので、スタイリストからショップの店員という道を選ぶ。

「プロペラはインポートショップとは言わずに、『コレクタブルライフストア・プロペラ』と謳っていたんですね。1階に本物のポルシェが置いてあったりして、やはり当時から他とはちょっと違ったおしゃれな店でした。何て言えばいいのかなぁ、ワーク、ミリタリー、アウトドア、トラッドを分け隔てなく揃えていたアメカジの十貨店でしょうね」

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プロペラ店内の様子。多くの若者たちにとって、まさにアメリカそのものだった。

このころ、プロペラと人気を二分していたネペンテスについても、こう語ってくれた。

「ネペンテスさんも当時から他のアメカジショップと違ってダントツにカッコよかったですよね。ネペンテスさんの事務所がまだ原宿の同潤会アパートにあったころに伺ったことがあったんですけど、ドアを開けると床がアスファルトで、その上にナバボラグが敷いてあって、そこにネルシャツとかが直に陳列されていて、清水慶三さんや鈴木大器さんが商品の説明をしてくれるんです。当時からやっていることが他のアメカジショップとは違って本当にカッコよくてびっくりしました」

内田氏がスタッフとして接客をしていた頃のプロペラや、当時のネペンテスに客としてよく通っていた若者のなかには、いまや日本を代表するデザイナーやファッショニスタも数多くいるという。

「そうですね、『タカヒロミヤシタザソロイスト』の宮下(貴裕)君はプロペラで働いていましたね。当時から彼は独特のヘアスタイルと格好で目立っていておしゃれでした。『LEON』のエディターから今はファッションジャーナリストになっている干場(義雅)君も、しょっちゅうお店に来ていましたね」

最後に、そんな根っからのアメカジ好きな内田氏に「最近買ったアメカジアイテムは何?」と尋ねると、意外なものを見せてくれた。

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「ちょうど今日も持っているんですけど、これは『ネクサスセブン』という若手のドメスティックブランドがポーターとコラボして作った巾着です。元ネタは軍モノのミリタリーですね。あとは、これも東京の若手のスケーターブランド『A.L.C.(アレキサンダーリーチャン).』のグローブです。レザーをツキハギしてリメークして作った手袋でなかなかカッコいいんですよ」

どちらも70年代生まれの若いデザイナーやクリエイターが手掛ける新進のストリート系ブランドだ。いやはや筆者など初めて聞いたブランド名ばかりである。内田氏が「きっとこういうブランドを創っている彼らが次のアメカジ世代なんでしょうね」と、嬉しそうに教えてくれた。

プロフィル
内田良和(うちだ・よしかず)
1967年東京都生まれ。幼少期より20代前半まで神奈川県逗子市で暮らす。プロペラ、ザ・リアルマッコイズなどを経て、現在は某有名アパレルメーカーに勤務。徹頭徹尾アメカジを体現してきたキャリアに裏付けられた知見は、各方面から絶大な信頼を得る。

いであつし(いで・あつし)
数々の雑誌や広告で活躍するコラムニスト。綿谷画伯とのコンビによる共著『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)などで、業界関係者にファンが多い。

<<第1回 モヒート 山下裕文氏

  第3回 蔡 俊行氏>>

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Atsushi Ide

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