旅と暮らし
日本は過去最高評価! ガストロノミーの潮流を決める
『アジアのベストレストラン50』2018年度
2018.04.23
快挙!日本のレストランが4軒、ベスト10にランクイン
50位から順に読み上げられるレストラン名は残すところあと3枠――。2018年度、アジアのベストレストランの1〜3位に、日本のレストランが2軒も残っている! こんなエキサイティングなことがあるだろうか!? 日本チームのシェフたちもジャーナリストも、固唾をのんで次の発表を待った。
結果は3位『フロリレージュ』(東京・神宮前)、2位『傳』(東京・神宮前)、1位『ガガン』(タイ・バンコク)。3年続いたガガンの牙城を崩すことはできなかったけれど、昨年日本の最上位が6位『NARISAWA』(東京・南青山)だったという、ある意味不当な結果からは大躍進だ。しかも『NARISAWA』は今年、シェフが選ぶ最も優れたレストランの証し「シェフズ・チョイス賞」を獲得した。
『アジアのベストレストラン50』の成り立ちと、今年の結果
そもそも『アジアのベストレストラン50』とは、16年前にロンドンの出版社が始めた、食の識者の投票によって世界のベストレストランを決めるランキングの、アジア地域のアワードだ。年々その影響力を強め、いまではミシュランと人気を二分するレストランランキングに成長している。第6回目の開催となった今年は、3月27日に初の開催地となるマカオで行われた。過去にはシンガポールで3回、バンコクで2回、そしてマカオと年々規模も大きくなっているが、今年のそれは別格の華やかさ。さすが、カジノの国である。
速報ですでに華々しい結果をご存じの方も多いと思うが、あらためておさらいすると、日本は過去最高の11軒のレストランが50位中にランクインした。
2位『傳』(東京・神宮前)
3位『フロリレージュ』(東京・神宮前)
6位『NARISAWA』(東京・南青山)
9位『日本料理 龍吟』(東京・六本木)
17位『ラ・シーム』(大阪・本町)
20位『レフェルヴェソンス』(東京・西麻布)
27位『鮨 さいとう』(東京・六本木)
28位『イル・リストランテ ルカ・ファンティン』(東京・銀座)
34位『HAJIME』(大阪・肥後橋)
38位『カンテサンス』(東京・北品川)
48位『ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ』(福岡・西中州)
そのほかにスポンサー各社からの部門賞では、先に述べた「シェフズ・チョイス賞」の『NARISAWA』成澤由浩さんのほか、「サステナブル・レストラン賞」を『レフェルヴェソンス』の生江史伸さんが受賞した。
食資源の問題は、いまや人類にとって最重要課題のひとつ。トップシェフがおしなべてこの問題に積極的に取り組んでいるなかで、その象徴的存在として選ばれたということは、日本の姿勢が世界へ向けて発信されたこととなり、うれしい限りだ。また、ニューエントリー組も2軒。17位の大阪『ラ・シーム』は、初エントリーで最上位にランクインした店に授与される「最上位の新規入賞レストラン賞」を受賞。28位の『イル・リストランテ ルカ・ファンティン』は、銀座のブルガリビルにブルガリのレストランとしてオープンし、一昨年、ルカ・ファンティンシェフの名を冠したレストランとして舵を切った。
国別の得票数でみると、1位が日本の11票、2位が香港とタイが同率で9票。7票のシンガポールが続き、韓国と台北が3票、中国本土、インド、スリランカが2票、マカオとインドネシアが1票の結果である。各国の食のレベルが順当に反映されているといえるだろう。正直、今回が初めて妥当な分布図になったように思える(ちなみに、昨年は日本は、タイ、シンガポール、中国と並ぶ9票だったのだから)。
ガストロノミー界に果たす役割
ベストレストラン50のランキングが、そのまま世界のガストロノミーの潮流になるというあたりは、パリコレさながら。ノミネートされたシェフが固唾をのんで、発表の瞬間を待つ様子はさながらアカデミー賞のごとくだ。そうしたエンターテイメント性も、ベストレストラン50が注目される要因のひとつではある。ランキングの乱高下もまた、このアワードの醍醐味でもあり面白みでもあるが、時には正当性に欠けると問題視されることもある。それはベストレストラン50の順位が、世界35の国と地域の食の識者50人(3分の1がシェフとレストラン関係者、3分の1がフードライター、3分の1がフーディーズ)が、過去1年半に訪れたレストランのなかで最も感動した店から順に、自国6票、他国4票を投票し、その集計、つまり世界318人×10票=3千180票がランキングを決めるというシステムに起因する。
評議員を任命するのは各国のチェアマンの仕事だ。票の偏りを避けるために、毎年評議員の25%は入れ替えなければならない。しかし、1年半以内に訪れた店という条件があるため、アワードの開催地が有利になることは否めない。また「感動したレストラン」「印象に残ったレストラン」というと、クラシックやトラディショナルな店よりも、どうしても驚きのあるモダンな料理を得意とする店が上位にランクインしやすい。同時に昨今のSNSによるシェフやフーディーズからの発信、シェフ同士のコラボレーションなどの影響も受けやすい。
その結果、ランキングが1位の店が「アジアでいちばんおいしい店」と思うかどうかには個人差がある。しかしながら、最も食事を楽しめる店のひとつであることは間違いない。ひいては50位に入った店の順位の差は、地球規模で考えれば微差に過ぎないともいえる。それよりもアカデミー賞があることで映画界が盛り上がってきたように『アジアのベストレストラン50』が、ガストロノミーマーケット全体を盛り上げ、食への関心を高めていることこそが、大きな功績であるのだと思う。
Photo (c)サンペレグリノとアクアパンナがスポンサーを務める2018年度の「アジアのベストレストラン50」