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エルメネジルド ゼニアのあつらえは言葉から始まる。
2018.04.18
注文服を指すビスポークは、英語の“Be Spoken”に由来する。話されること、つまりつくり手と注文主の会話から生まれるものだ。
イタリアを代表するファッションブランドであり、高級テキスタイルメーカーとして世界的に名高いエルメネジルド ゼニアは、2017年3月からミラノのアトリエで英語名そのままのビスポークを開始した。その神髄は、文字どおり会話にある。
顧客を迎えたマスターテイラーは、希望のスーツのスタイルだけでなく、仕事や趣味などさまざまなことを聞き取る。さらに背格好、髪や眼の色、動きや仕草までじっくり観察。通常であればそこから採寸となるのだが、マスターテイラーは得た情報を元にその場でデッサンを描く。アトリエには基本サンプルがないため、このドローイングがプロトタイプとなり、イメージを顧客と共有してからサイジングとなる。次にフィッティング、3回目には襟または袖なしの状態のジャケットを試着して調整する。完成は約3カ月後だが、完全なフィット感を得られるよう、この段階での調整にも対応するとか。
もちろん、作業はすべてハンドメイドになる。スーツでは200の工程があり、少ないものでも75時間以上をかけて150あまりのパーツを縫い合わせるという。さらにブランドの強みは、生地からオーダーできる点にある。また、色や柄などの希望に応えるだけでなく、目的に合わせて最適なファブリックを選べるのもアドバンテージだ。ちなみにそのバリエーションはスーツとジャケット、コート用が900種類、シャツが230種類以上にも及ぶ。
これだけでもエクスクルーシブなサービスと言えるが、マスターテイラーにとっては納品が完成形ではない。着る人の体になじんだ状態が最終イメージであり、そこから逆算するようにデッサン、カッティングしていくというから恐れ入る。
ビスポークにあたる日本語は「誂え」だろう。奇しくも会話を表す言偏に、未来を象徴する兆しという旁(つくり)の組み合わせだ。体に合うようにサンプルを調整するパターンオーダーではなく、顧客との濃密な関係性から「まだ見ぬ自分だけの一着」をつくりあげていく。老舗ならではのぜいたくな仕立てこそ、まさに最高級の誂えの名にふさわしい。
問/ゼニア カスタマーサービス 03-5114-5300
Photograph:Mitsugu Inada
Text:Mitsuhide Sako (KATANA)