旅と暮らし
上質な時間を独り占め。さぁ週末ひとり旅へ。
その② 俵石閣で至福の昼食
2018.04.26
ひとり旅こそ、大人の流儀。気配りさえ不要で、誰かのペースに合わせる必要もない。ゆったりと流れる時間を、思いのままに、独り占めする。
森の呼吸を感じながら歴史ある名店へと向かう。飛び石や砂利が敷かれた小道。一歩一歩進みながら、自分のために用意されている料理に、いやがうえでも期待が高まる。
昼食の場に選んだのは「俵石閣」。知る人ぞ知るという陳腐な表現では、決して語れない名店だ。
建物は数寄屋造り。聞けば、大正の時代に東京・大森の地に建てられた屋敷を、昭和のはじめ、ここ箱根の仙石原へと移築したものだという。
長年の間、俵石閣は温泉旅館として歴史を築いてきた。著名な芸術家や文化人たちが宿とし、今上天皇が皇太子時代に数度にわたり逗留(とうりゅう)された。
現在、宿泊の機能は、同じ敷地のNEST INN HAKONE(ネストイン箱根)に委ね、俵石閣はホテルのダイニングとして多くの人を招いている。
玄関から屋内へ足を踏み入れれば、これまで流れてきた時間の長さに敬意を表さずにいられない。当時の日本建築の美しさに、誰しも感銘を受けるはずだ。欄間の透かし彫りをはじめとした見事な細工、美しい客間、縁先から望む庭や池など、この空間がたたえる品格にはおそれいる。
児玉芳信料理長のこだわりは「素材の味を生かす料理」にある。全国に1000人以上の弟子を輩出し、特に和食のベースとなる出汁は最上の味わいを生み出している。口に含んだ瞬間、笑顔になる。
昼食は、注文した季節のお弁当(5400円)のほか、松花堂(3564円)、そして昼会席(8,640円)がある。朝食は季節の朝食膳(4158円)となる。
食材の旬や仕入れ状況で献立の内容は変更される。これは、最もおいしい状態の食材を選んで調理するためにほかならない。料理長をはじめ料理人の心のこもった仕事に感服する。
女将をはじめスタッフの心遣いもうれしい。当時の趣を残す空間で、至福の味わいとともに、心地いい時間を堪能できる。
「俵石閣の料理を目当てに、ここまでまた旅に出たい」と思う。それだけの価値がある場所だ。
※料理の値段はすべて税込みです。
<訪れた場所>
俵石閣
100年の歴史を有する数寄屋造りの日本建築と、こだわり抜いた料理が魅力。児玉料理長は、兵庫県但馬の祭典を含め5度、天皇・皇后両陛下の料理を担当した経歴ももつ日本料理界きっての名料理人。素材を大切にした和食会席で、食す者に至福の時をもたらしてくれる。ネストイン箱根では、この俵石閣での夕食を組み入れた宿泊プランも用意する。俵石閣のほか、茶寮があり、そちらでは軽食やお茶、和のスイーツなどを楽しめる。いずれも問い合わせや予約のうえ訪れたい。
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原1290
0460-83-9090(要予約)
https://nestinn-h.co.jp
https://hyosekikaku.jp
ブレザー¥69,000、シャツ¥13,000、タイ¥12,000、チーフ¥5,000、パンツ¥26,000/すべてブルックス ブラザーズ (ブルックス ブラザーズ ジャパン 0120-185-718)、時計¥4,120,000/ヴァシュロン・コンスタンタン(ヴァシュロン・コンスタンタン 0120-63-1755)
掲載した商品(料理以外)はすべて税抜き価格です。
Photograph : Satoru Tada (Rooster)
Styling : Eiji Ishikawa (TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up : Tomokazu Akutsu
Edit & Text : Haruhiko Ito (office cars)