旅と暮らし

話題のレストランINUAは「極秘ミッションだった」
KADOKAWAの敏腕編集者が語る

2018.07.04

話題のレストランINUAは「極秘ミッションだった」<br>KADOKAWAの敏腕編集者が語る

世界一影響力をもつレストラン、コペンハーゲンのnomaが、日本の出版社であるKADOKAWAとパートナーシップを組んだこと。そのパートナーシップから生まれたレストランのロケーションが、KADOKAWAのビルの最上階であること。6月29日についにオープンしたINUAの誕生には“異例”がついてまわるが、レストランを運営するK’s Labもそのひとつにあたるだろう。トップである郡司 聡社長は、角川書店の編集者として多くのヒット作を世に送り出してきた人物なのだ。

KADOKAWA100%出資の子会社であることを思えば違和感はないかもしれないが、業務内容は外食産業。編集稼業とはまったくの畑違いである。「外食産業と出版業、業務内容だけみると大きく違いますが、編集者としての仕事とK’s Labでのアプローチにほとんど差はないんです」と郡司社長は言う。

書籍編集者として、主に海外文学を担当してきた郡司氏。その代表的な作品にダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』で知られるロバート・ラングドンシリーズがあるが、外国人の作家と仕事をするのも外国人のシェフと仕事をするのも、「コミュニケーション」という意味では大差ないのだそうだ。しかも彼は社内で一二を争う食通であり、nomaのヘッドシェフ、レネ・レゼピが働いていたこともあるエル・ブジの日本版書籍は郡司氏が担当している。2015年、KADOKAWAの角川会長が初めてコペンハーゲンのnomaを訪れた際も会長に同行しており、いわば今回のパートナーシップをゼロから知る人物なのだ。

「角川歴彦会長とコペンハーゲンのnomaで打ち合わせをした後も、何度かnomaに行きましたし、シドニーやメキシコでのポップアップにも足を運びました。地産地消への熱い思いや食材への探究心など、エル・ブジを訪れたときとは違う驚きがありましたね。ホスピタリティーも優れていて、まるでエンターテインメントのステージを観ているような体験でした」

180518_ASM-0077

郡司氏をリーダーにINUAオープンに向けて舵を切ったKADOKAWA。実質の準備期間は約1年ほどだったというが、いちばん苦労したのが「オフィスビルの最上階にレストランをオープンさせるという選択をしたこと」だったと郡司氏は言う。「もともと飲食店を想定している空間ではないので、設備をはじめ大掛かりな直しが必要であったことと、これはKADOKAWAとしても極秘のミッションだったので社内でもごくわずかな人間しか情報を共有していませんでした。ですから別の(飲食店を開業できる)場所のほうがずっと楽だったと思います」。

記者会見後の懇親会でも「まだ内装工事が終わっておらず、家具も入っていない」と話していた。時間に対する意識の異なるデンマーク人と日本人の間に入りスケジュールも含め、最終ビジョンを見据えながらの調整管理……。煩雑な仕事の多い編集者、共通するところが確かに多いのかもしれない。

郡司社長は、ある意味今回のプロジェクトを最もよく知る人物と言ってもいいが、彼の目にはレネ・レゼピとトーマス・フレベルという料理人は、どのように映っているのだろうか。

「好奇心の塊のような人で東京の街をいっしょに歩いているだけで質問攻めにあいます。そして独特のアンテナでキャッチした情報を表現する言葉を持っているのがとても魅力的。そういう意味では出版社であるKADOKAWAとパートナーを組む理由があります。実際、彼の最新刊を現在準備中です(The Noma Guide to Fermentation)一方トーマスは冷静でとてもピュア。修行僧のようなひたむきさを持っていて、それが彼の食材への情熱的な探究心にもつながっていると思います」

180518_ASM 0046
左から角川歴彦氏、トーマス・フレベル氏、レネ・レゼピ氏

角川歴彦会長は、外食産業に進出したかったのではなく、nomaそしてレネ・レゼピという人物がいたからレストラン事業をスタートさせたと話していた。このユニークなパートナーシップからはINUAだけでなく、書籍の出版も展開している。まずは今月、レゼピ氏の妻であるナディーヌ・レゼピ夫人のレシピ集『ダウンタイム』が発売された。今後、郡司氏もいうようにレゼピ氏による三部作もラインナップされている。

「新規のチャレンジを常に探し求める、というのがKADOKAWAのフィロソフィーでもありますが、このプロジェクトをきっかけに出版社として、出版社らしく、食文化にインパクトを与えていければと思っています」

INUAというレストランは食だけでなく文化も担う。そんな未来がやって来るか。挑戦は始まったばかりだ。

Photograph:Ari Takagi
Text:Toshie Tanaka

<プロフィル>
郡司 聡(ぐんじ・さとし)
神戸市生まれ。東京外国語大学卒。角川書店入社後、書籍編集に携わる。現在、KADOKAWA文芸局長兼K'sLAB代表取締役(INUA運営会社)。

買えるアエラスタイルマガジン
AERA STYLE MARKET

装いアイテム

おすすめアイテム

あなたへのおすすめ

トレンド記事

  1. 半蔵門『三貴苑』で“麺喰い”マッチも驚く<br>絶品つけめんに舌つづみ!<br>マッチと町中華。【第12回】

    半蔵門『三貴苑』で“麺喰い”マッチも驚く
    絶品つけめんに舌つづみ!
    マッチと町中華。【第12回】

    週末の過ごし方

    2024.04.12

  2. レザー製という意外性も新鮮<br>TUMI(トゥミ)<br>【勝負の鞄と靴。】

    レザー製という意外性も新鮮
    TUMI(トゥミ)
    【勝負の鞄と靴。】

    バッグ

    2024.04.10

  3. よりカジュアルに楽しめる!<br>本場イタリアを思わせる陽気なトラットリアとして、<br>青山グランドホテル20階に“大人の食堂”が誕生。

    よりカジュアルに楽しめる!
    本場イタリアを思わせる陽気なトラットリアとして、
    青山グランドホテル20階に“大人の食堂”が誕生。

    週末の過ごし方

    2024.04.10

  4. 発売を記念したポップアップストアも登場!<br>「ボス」のブランドアンバサダー・大谷翔平選手との<br>新作カプセルコレクションを発表。

    発売を記念したポップアップストアも登場!
    「ボス」のブランドアンバサダー・大谷翔平選手との
    新作カプセルコレクションを発表。

    カジュアルウェア

    2024.04.11

  5. なじみの街、浜松町「東海飯店」で<br>MCマッチ!?が餃子を頰ばり“生トーク”!<br>マッチと町中華。【第11回】

    なじみの街、浜松町「東海飯店」で
    MCマッチ!?が餃子を頰ばり“生トーク”!
    マッチと町中華。【第11回】

    週末の過ごし方

    2024.03.29

紳士の雑学