紳士の雑学

新しいメンズコスメが映す
イマドキの波とブランディングの鍵
[センスの因数分解]

2018.07.18

写真・図版 田中 敏惠

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「『男らしく』を抜け出そう」。SNSでそんな言葉を見つけたのは、3か月ほど前でしょうか。なんだろうと思ったら、『BOTCHAN』という男性化粧品の新しいレーベルのキャッチコピーでした。

あの夏目漱石の名作と同じ名前をもつニューカマーには、カラフルなパッケージが印象的なスキンケア製品が並びます。ネーミングコンセプトも、やはり漱石の『坊っちゃん』から来ているそう。伊勢丹新宿のメンズ館にてポップアップをしているというので、チェックをしに行きました。

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ホワイト&ブラックやブルー、グレーといった寒色系が主流のメンズコスメパッケージのなかで、赤、オレンジ、サックスブルーといったカラフルなBOTCHANコーナー、セールスにはすらっとしたさわやか男性と色黒でマッチョな男性が立っていました。そこへ代わる代わるやって来る人たち。長時間いたわけではありませんが、購入率もなかなか高い模様です。

BOTCHANのブランディングを担当するのは、長らくLVMHグループのフレグランスなどといったラグジュアリービューティ部門でキャリアを積んだ福岡英一さん。「メンズコスメというと、モノトーンのパッケージが主流ですが、もっと遊び心がある、ポップなラインがあってもいいじゃないか、とカラフルな色彩でデザイン構成しています。方向性や細部を詰める際も、“これはメンズ化粧品としてふさわしいか”よりも“BOTCHANらしいか”をチェックポイントにしました」

さまざまなジャンルで多様性がうたわれるようになって久しいですが、選択肢の多さという点で言えば、メンズビューティーの業界は女性のそれに比べてまだまだ発展途上ではないでしょうか。この業界において、多様性社会にコミットする日本発のレーベルも、なかなか動きが見られなかったように思います。そんななか、BOTCHANのコンセプトは「LOOK BEYOND. 『男らしく』を抜け出そう」。肌の色、髪の毛の色、ジェンダーを超えて若者=BOTCHANに自由にスキンケアを楽しんでもらいたいという思いが込められているようです。

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“BOTCHANらしく“は、製品発表会の場にも生かされている。昼はハンバーガーショップ「GOLDEN BROWN」、夜はゴールデン街のバー「THE OPEN BOOK」で開催。

伊勢丹メンズ館でフレンドリーな接客を受けている人たちを眺めていて、ひとつ思ったことがあります。「男らしくあれ」という言葉は、男性たちを無意識に呪ってしまっている言葉なんではないかと。かつて、某バラエティー番組で「男気ジャンケン」なるコーナーがありました。複数のタレントやスポーツ選手などがジャンケンをし、勝ったら数万円から数十万円の食品などをまとめて購入するというもの。それを見ながら無駄に高額のまとめ買いすること=男気という乱暴な定義に疑問を覚えたものです。そしてこういう価値観を受け入れられない人は、女性だけでなく男性にも多くいるんじゃないかとも思いました。Me Too運動などで、女性の権利、平等に対しての働きかけが注目されています。女であるというだけで差別されることはもちろん、女だからきめ細やかな対応を求められるのはナンセンスです。それと同時に、男性だからといってマッチョである必要もモノトーンの色みを選ばなければいけない道理もありません。個を尊重すること。何事もそこから始まるのではないでしょうか。

いま一度BOTCHANに目を向けると、メンズコスメではありますがハーブの香りのするラインナップは、女性も好きな人が多そう(実際男女のカップル仕様も珍しくないとか)。メンズコスメらしさではなく、“BOTCHAN”らしさを追求した結果、業界でユニークな立ち位置を得ているのではないでしょうか。

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「THE OPEN BOOK」のカウンターで、名物のレモンサワー片手にプロダクツ体験。

そしてこれはなにも美容業界だけに限ったことではないと思います。ファンとは消去法ではなく、選びとることの延長にご贔屓(ひいき)を見つけます。ならばファンは独自の打ち出しをしているものにつくはず。一度のお試しならば問題ないけれど、リピートしてくれる顧客を得るにはやはりオリジナリティーは必須なのです。そうすると、一般的男性化粧品らしさを求めたレーベルは、消去法という選択肢のなかで戦わなくてはいけません。

もしかしたら男らしさという言葉に罪はなく、この言葉に対して私たちが抱く固定観念を変える必要があるのかもしれません。またそろそろ気づくべきでしょう、財産になるのは凡庸性ではなく、オリジナリティであるのだということに。そこにこそ、ブランドという輝きの原点があることを。マスに響くかどうかは別にして、BOTCHANにはユニークさと独自性があります。そんなメンズコスメがもっと増えれば、男性たちは男らしさという呪文を軽やかに飛び越えることになるのかもしれません。

プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。
http://ttanakatoshie.com/ ブログ:https://ameblo.jp/ttanakatoshie

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