お酒
ギリシャの地ぶどうが生み出す鮮烈なロゼ
アカキーズ・スパークリング・ロゼ 2016
[今週の家飲みワイン]
2018.08.03
ソムリエの梁 世柱さんが注目する2つ目の国はギリシャだ。日本においてはまだ知名度の低いギリシャワインだが、梁さんがNYでソムリエとして活躍していた8~9年前に、トレンドに敏感なNYのソムリエの間で一大ブームになったのだそう。
「もともとNYはギリシャ移民の多い街です。洗練されたギリシャレストランもたくさんあり、もとより需要はあったのですが、クオリティの高いギリシャワインが積極的に海外輸出される様になった時期と重なって、トップソムリエたちが同時多発的に『ギリシャワインが面白い、イケてる』と言い出し、あっという間にブームになりました。ワイン作りの歴史が非常に古いとはいえ、現代ではワイン的には第三国だったギリシャが、国際的に認められるようになったのには、“現在進行形の国際市場のニーズ“をよく理解したマーケティング力を備えたワイナリーがいくつか出て来た事も背景にありました。その象徴といえるのが、キリ・ヤーニ社。国際化の進んでいないワイン産地の場合、ともすると、10年前、20年前のトレンドを目指してワインを造るという間違いを起こしがちなのですが、キリ・ヤーニはその見極めが的確でした」と梁さんは言う。
日本にギリシャワインが多く入ってくるようになったのは5~6年前だそう。世界最難関のワイン資格と言われるマスターオブワインを持つ大橋氏の後押しもあって、キリ・ヤーニのプロモーションが成功したことが更なるギリシャワインの躍進の大きなきっかけとなった。また、オーストラリア発のギリシャレストラン「アポロ」が銀座に上陸したことなども、裾野を広げるのに一役買ったと、梁さんは分析する。
いまや、ギリシャ最高峰のワイナリーのひとつとされるキリ・ヤーニは、数世紀にわたり家族経営でワイン造りを行ってきた名門ブタリス家の4代目当主、ヤーニス・ブタリス氏が1997年に確立したワインブランドだ。醸造所はギリシャ固有の黒ぶどう「クシノマヴロ」の原産地である北ギリシア、ヴェルミオン山の山腹に位置する。クシノマヴロはギリシア語で酸と黒という意味を持つぶどうで、鮮烈な酸と豊かな果実味が特徴だ。古代品種ゆえ、フィロキセラ被害以前の100年超の貴重なぶどうの樹が残っており、古木のぶどうも使用すれば、より深みのある味わいとなる。
キリ・ヤーニでは、徹底的にこの固有品種とテロワールの研究を行い、伝統を守りながらも革新的なワイン造りに取り組むことで、高品質なワインを造ることに成功した。クシノマブロを中心に多様なラインナップを誇るが、なかでもクシノマヴロを100%使用し、ロゼのスパークリングに仕上げた「アカキーズ・スパークリング・ロゼ」は、国際派を目指す洗練されたギリシャワインを象徴する1本となった。
「ストロベリーやチェリーの豊かな果実味をキリっとした酸が引き締め、全体的にとてもバランスよく仕上がっています。ムースのようなクリーミーな泡とともに立ち上がる生き生きとした香りも魅力です。華やかな印象のロゼですから、シャルキュトリーの盛り合わせや、塩味の利いたフェタチーズをたっぷり入れたギリシャ風のサラダには果実の甘みもあってぴったりですね。和食では、中心部をほんのりピンク色に揚げたジューシーなトンカツにも最高」と梁さんはすすめる。2000円台のスパークリングワインとして、このレベルが飲めるのだから購入しない手はない。「クシノマヴロ」という品種を覚えれば、ワイン好きの友人にもちょっと自慢できそうだ。
Photograph: Makiko Doi