紳士の雑学

スマートな移動のためにはハードだけでは足りない
WHILL株式会社 代表取締役兼CEO 杉江 理インタビュー[後編]

2018.12.11

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世界を放浪してもやりたいことが見つからなかった若者が30歳で起業した。
車椅子の既成概念を覆す『WHILL(ウィル)』を開発した同社代表、杉江 理氏のことである。
「いまはWHILLが100%」の杉江氏に、その軌跡とこれからを語ってもらった。

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スマートな移動のためにはハードだけではダメ

「日本発信というのは正直どうでもいい。世界中の人を巻き込み、いかにユーザーに届けるかが本質だと思っています」

14年7月、杉江のデザインによる『WHILL モデルA』が販売された。洗練されたフォルムに四駆のパワフルさを兼ね備えた同モデル。100万円弱という通常の車椅子の倍に近い価格帯だったが、発表するや、初回の50台は予約段階で完売した。当時のことを尋ねると「よく覚えてないんですよ。売れなかったら会社が潰れるって状況だったので」と笑う。17年に発売した『WHILL モデルC』では45万円と、市場に流通する電動車椅子と同程度の価格帯を実現した。国内初の3Gモデル搭載、軽量さが売りで工具なしで分解もできる。販売国もアメリカのほか、本年より欧州各国に拡大した。

一方で、杉江はハードだけにこだわっているわけではない。アメリカ滞在時の車椅子生活で感じたことでもある。「歩道なら段差や凸凹道、室内での走行ならドアを開けるのも大変でした。移動には道路や建物、室内の構造、家族の助けなどさまざまなことが関係してきます。僕らの得意な分野を考えればハードはもちろんですが、それだけでは足りません。移動をスムーズにするためにはサービスやシステムを含めすべてをセットで考えていかないと。それが僕らの会社の役割だと思っています」

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構想の一端は着々と進んでいる。同社は次世代の交通インフラを考えるMaaS事業に参入。20年をメドに世界各地の空港や施設で『WHILL』のシェアリングサービスを実用化する。現在、機能の拡張実験を進めている最中だが、導入ともなれば空港や施設側にとってもオペレーションコストの大幅な削減となる。例えば、これまで空港などではスタッフが車椅子を押し、使用後は所定の場所へと戻してきた。会社として思い描くのは「自動で行きたいところに連れて行ってくれ、何かにぶつかりそうになれば自動で停止し、使用後は自動走行で所定の場所に戻ってくる」パーソナルモビリティだ。杉江は続ける。「最終形は『WHILL』が公共交通機関などで当たり前のように利用できるサービスになること。電車やバスを降りたあと、目的地にたどり着く最後の1、2キロを歩くことが難しい方もいる。バスを降りた先にこうした移動手段があれば、みんなが行きたい所に自由に行けるようになります。すべての人の移動をもっと楽しくスマートに、そんな社会を目指したいですね」

同社では「障がい」ではなく、あえて「障害」の表記を使う。「障害」の「害」は当事者に属するものではなく、社会が作り出したものと捉えるからだ。デザインとテクノロジーでその「害」を解消したい、杉江はそう考えている。

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清濁併せ呑むのはやめました

さて。WHILLの実績を見れば『THE起業家』といったていの杉江だが、その素顔ときたら『天然』『脱力系』といったキーワードを彷彿させる、愛すべきキャラクターだ。編集部が「プライベートの写真を」と依頼した際、返ってきたのは誕生日のサプライズ写真のほかランニング中の雄姿もあった。学生時代はバスケットやボクシングに励んだ人である。多忙のなか、スポーツは欠かさないのかと思いきや「年に3回か4回程度かな。走るのとか結構イヤで」と身もふたもない答え。「スポーツする経営者って多いですよね。でも、そういう人たちってきっと、昔そんなにやったことないんですよ。僕は学生時代、馬車馬のように走ったからもういいんです」会議室は爆笑に包まれた。

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実のところ、プライベートはほぼないような状態でもある。直近のスケジュールを聞けば、「アメリカ出張のあと、2日間日本、またアメリカで3日間、台湾5日間でカナダに飛んで3日間、その後ドイツ5日間みたいな感じですかね。忙しいのは創業から変わらないですけどなんとかしたくて。時差超えての動きは本当にキツいんですよ」そうこぼしながらも豪快に笑う。キツい。やめたい。それはしょっちゅう。けれど、個人としての目標を訪ねたとき、返ってくるのはこの答え。「WHILLのミッションをどうやって達成していくか。自分がどうというより、WHILLが100%」

目標まで一直線の熱血であり、曲線のようなユルさもあり。そんな杉江に人生観を尋ねてみる。柄ではないと、かわされると思いきや少し考えて、こう言った。

「しいて言うなら、人はすぐ死ぬ、と思ってるんですよ。それは10代のころからずっと感じていて『人間いつ死ぬかわからない』と。思えば、それが自分の根本になっている気がしますね。だから、いつも後悔しないように生きたい。

あとはそうですね、『清濁併せ呑む』って故事成語を聞いて、『いい言葉じゃないか』と思ったことがあるんですよ。だけど、さまざまな『清濁』を経験するうちに、自分には無理だ、そんなものを呑めるほど器はデカくないって。これ言った人、実はたいした『清濁』がなかったんじゃないのって(笑)。だから、『清濁』を併せ呑むのはやめました。いまはこう思っています。『なんとかなる』と」

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プロフィル
杉江 理(すぎえ・さとし) 
1982年7月生まれ。静岡県浜松市出身。立命館大学卒業後、専門学校でプロダクトデザインを学ぶ。日産自動車のデザイン開発本部に入社。同じころ、週末のモノづくり活動集団「SunnySide Garage」に参画。09年に日産を退社し、中国の南京にて中国語を学ぶ傍ら日本語教師として働く。その後、パプアニューギニアなど世界各地を放浪、帰国後の11年、「WHILLproject」を開始。12年にWHILL株式会社を創業した。14年に自らデザインした『WHILL Model A』を、17年にはデザイン監修をした普及価格帯の『WHILL Model C』をリリースした。元『世界経済フォーラム(ダボス会議)』GSC30歳以下日本代表。趣味はウォーキング。同社代表取締役 兼 最高経営責任者。

Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima

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