紳士の雑学

ブータンとバンコクで、旅先のブランディングを考えてみた
ブータン編その1
[センスの因数分解]

2018.12.13

写真・図版 田中敏惠

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ここ数年、大きく変化してきた日本のインバウンド事情。観光ビザ発行の緩和措置など、政府の取り組みもあり、東京や京都はもちろん、北海道(スキー)や長野(温泉)など、その土地の個性を体験しようと多くの観光客がやって来ています。

旅の目的地=デスティネーションにおいて、最大の魅力といえばやはりこの「個性」ということでしょう。ほかの土地では感じられない。そんな際立った土地の個性があれば、おのずとデスティネーションとなる確立も高まるというもの。しかし、そういう意味で町づくりや観光を考えている日本の地域がどれだけあるのか。いささか疑問に思うことも少なくありません。

先だって、「土地の個性」という意味では、好対照な場所を旅してきました。ブータンとバンコクです。

ブータンといえば、2011年の国王夫妻来日が社会現象となりました。若く美しい夫妻の姿とともに、国民総幸福量(GNH)という政策理念も広く知られるようになりましたが、実は観光が国第2位の産業です。対するバンコクは、いまも昔も数多くの旅人を夢中にさせてきた場所。バックパッカーからラグジュアリートラベラーまでが魅了される多様なコンテンツを擁しているのは、みなさんもご存じのところでしょう。

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ともに王国で仏教信仰国。しかしそこでの旅の形は大きく異なり、それでいて両国とも観光立国の面を持ち、多くの旅人の目指す場所になっています。では、なぜこの2つの地がデスティネーションたり得るのか。まずはブータンから考えていきたいと思います。

ヒマラヤの小国・ブータンは、緯度でいうと沖縄とほぼ一緒。東西に伸びた地形で面積は九州ほど。主な集落は谷あいに形成されていて、その谷をホッピングしながら旅をするのがスタンダードな形です。このブータン。独特の観光システムが設定されていて、旅行者は政府の定めた公定料金(ひとり1日$200〜)を支払わなくてはなりません。これにエアラインのチケットがプラスとなるので、バックパッカーがなかなか入国できない仕組みになっています。また、この公定料金にはガイドやドライバー、車、宿泊などの料金も含まれていて、あらかじめ旅程書を提出しなくてはならないのです。

ここまで聞くと、「ブータンの産業の第2位が観光っていうけれど、旅の仕方が複雑でいったい誰が訪れるの?」と思うかもしれません。しかしここは確かに旅人が憧れる地なのです。しかも多様な人たちを。

まずは、ラグジュアリートラベラー。贅沢な旅の上級者と言っていいかもしれません。ブータンに最初に進出した外資系企業はなんとあのアマン! 5つの場所に5軒のアマンがあり、ハリウッドセレブや著名政治家、財界人などが訪れています。創業者のエイドリアン・ゼッカ氏は、ブータンにアマンを造るのになんと20年の年月を費やしたといい、ここが悲願の場所でした。現在ではウマやタージがあり、さらにはシックス・センシズがオープンを控えています。

次にトレッカーやナチュラリスト。国花がブルーポピーのブータンは、高山植物や野鳥の宝庫であり、ヒマラヤの南面山麓に位置するこの国は数々の魅力的なトレッキングルートがあります。手つかずの自然の価値は年々高まっていますから、ブータンの魅力も正比例的に上がってくるはずです。

そして文化や宗教への関心。いまや唯一といっていいチベット仏教信仰国であり、法律で民族衣装の着用や建築が定められているブータンは、この国にしかない姿、景色に観光客でも容易に遭遇できます。いずこの国の旅人であっても、深く心に刻まれるのではないでしょうか。

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私ごとになりますが、ブータン取材はライフワークでもあります。先代の国王が統治していた2006年から現在(立憲民主制に移行)まで、12年間で10回訪問しています。国の様子は、特に首都のティンプーは大きく変化し、観光客も驚くほど増えました。しかしながら観光インフラはまだまだ整っているとは言い難いし、おいしいレストランを切望していたりもします。けれどやはり、ブータンはブータン。まだまだ魅せられるところがあります。それは、この国のブランディングにも大いに関係しているものなのです。次回はブータンという国のブランディングと観光の関係について書きたいと思います。

プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。
http://ttanakatoshie.com/  ブログ:https://ameblo.jp/ttanakatoshie

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