紳士の雑学

ブータンとバンコクで、旅先のブランディングを考えてみた
ブータン編その2
[センスの因数分解]

2018.12.18

写真・図版 田中敏惠

写真・図版

中国とインドという世界2トップの人口大国に挟まれた、ヒマラヤの小国・ブータン。小国ながらも独特の政策やプレゼンテーションにより、確かな存在感を放っています。ブータンをブランディングという観点からひと言で表すならば、「あるもの自慢(活用)にたけている」ということになると思います。

たとえば産業について。第1位は売電で、ヒマラヤの麓にある国の急な河川を利用した小規模水力発電により生まれた電力の80%以上をインドに売っています。またクリーンエネルギーゆえ、同時に二酸化炭素排出権によっても外貨を獲得しています。国の資源を最小限のダメージで最大限に活用しているのです。観光という視点で言うと、トンネルを作らない狭いワインディングロードを不便でなく“冒険”だとプレゼンしたりしますし、法律で決められているオンタイムでの民族衣装着用は、旅行者にとっての価値ある光景の一助になっています。寺院のマンダラや建築は、信仰と美術的価値の双方を内包しながら人々の祈りを受け止め、チベット仏教がみずみずしい形で残る様を伝えています。それらがいまでは非常に希有なケースであることは、世界中の旅行者が認識することでしょう。

このような自分たちの個性を十分に理解し、それを生かしながら発信をしていく。これはブランディングにおいても非常に大切な事柄だと思います。なぜなら借り物はしょせん借り物であり、誰もが隣の芝が青いからと隣のまねをしていては、均一化は進むばかりで個性という宝は消えてしまいます。ハリボテの観光地が色あせて見えたり、世界中同じ味、同じしつらえのチェーン店が情緒に欠けて味気なく思えるのは、そういうことではないでしょうか。

ブランディングというと、成功事例をただコピペしたがるケースも少なくありません。特に日本では海外で人気のコンテンツに頼りがちです。しかしそれでは便利がられても憧れる存在になることは難しい。憧れはオリジナリティーに宿ります。

写真・図版
国に信号がないブータン。首都ティンプーには唯一、人が交通整理&誘導する交差点があり、そのブースは伝統的建築をモチーフにしている。観光客のフォトスポット。

ブータンでも首都のティンプーの開発スピードは非常に速く、バリューを保っていくのは難しい局面に立っていると感じました。しかしながら、あるもの自慢を上手に組み立てながら、仏教徒らしい「足るを知る精神」を持ちつづければ、きっと世界の中でもユニークな立ち位置に在りつづけられると思います。

再び日本に目を向けますと、改良することや進歩をないものねだりと思っている場所は少なくない気がします。しかしそれはとても危険。なぜなら一度失ってしまったら取り戻すのは難しいのですから。だからこそ、ブータンのようなあるもの自慢のブランディングを。そしてそれはなにも、観光だけに限ったことではないはずです。

写真・図版
ブータン最大のスターは国王。多くの人が民族衣装の胸に国王や王妃のバッジをつけている。

プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。
http://ttanakatoshie.com/ ブログ:https://ameblo.jp/ttanakatoshie

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