紳士の雑学

銀座から仕掛ける、モンブランの新戦略とは?

2018.12.21

銀座から仕掛ける、モンブランの新戦略とは?

去る11月、東京・銀座のモンブラン銀座本店が、2006年のオープン以来初となるリニューアルを経て、まったく新しい空間に生まれ変わった。このオープニングに合わせて来日した、モンブランCEOニコラ・バレツキー氏に、新たなブティック戦略や、今後の展望を訊いた。

――今日着けていらっしゃるタイムピースは、2018年のSIHHで発表された『モンブラン1858 モノプッシャークロノグラフ リミテッドエディション100』ですね。スモークグリーンが目を引きます。

ニコラ・バレツキー(以下NB):ほとんど毎日使ってる時計といってもいいかもしれません。個人的にすごく好きな時計で、ムーブメントは160年以上歴史があるモンブラン傘下のミネルバ社ものです。細部まで職人の手作業で仕上げられている逸品であることに加え、ヴィンテージなニュアンスもあり、他の高級時計とは一線を画すルックスなので、人と違うものを身に着けたいという願望をかなえてくれるモデルでもあります。

今後、ミネルバ社のヒストリーやアーカイブからのインスピレーションを、エントリーモデルからミドルレンジ、マニュファクチュール・ムーブメント搭載モデルまで、コレクション全体に広げていくような展開を進めていくことになるかと思います。

――それは楽しみですね。さて、11月にモンブラン銀座本店がリニューアルオープンしました。いつごろから、このプロジェクトを考えていらしたんでしょうか?

NB:5年前に私がインターナショナルディレクターとして初めて来日した際、銀座本店を訪れて、何か雰囲気を変えたいなという気持ちを、そのときから抱き始めました。実際にプロジェクトが動き始めたのは2年前です。

――今回、来日されて初めてご覧になったわけですが、印象はいかがでしょう?

NB:リニューアルの前のブティックを覚えていらっしゃいますか? お店に入ると長い階段があって、ややダークなブルートーンで、商品セグメントのカテゴリーもちょっと見つけにくいような印象が、自分としてはありました。今回、新しいスタイルになって、非常にラグジュアリーな雰囲気がありながら、温かく、お客さまが入ってきやすい雰囲気になったと自負しています。そして、筆記具、ウォッチ、レザーアイテムなど、カテゴリー別に商品セグメントがクリアになったことで、お客さまにとって探している商品が見つけやすくなったと思います。

お客様が店舗に来られて、エクスペリエンス、つまり体験していただくことを最も重要だと考えました。それを実現できるのが、このブティックだと思います。今、オンラインで何でもすぐに買えてしまう時代ですが、それだけに、なぜ実店舗に来る理由があるのかが重要なのです。やはりエクスペリエンスをしたいという気持ちがあるからだと思うんですね。そうであるならば、我々としては最新のテクノロジーも用いながら、提案できるすべてのプロダクトを、最善の方法でお見せしていくべきだろうと。このブティックでは、その考え方を反映させていきます。

1050_TL_2017

――今回のリニューアルで、多彩なインクや万年筆を試すことのできるインクバーが2階スペースに設けられましたが、それも“エクスペリエンス”の一環というわけですね?

NB:そうですね。狙いは、お客さまに書くことの美しさ、楽しさを知る体験をしてもらうことにあります。タイプの異なるペン先が多数ありますので、それを試してもらったり、自分に最も合うものを見つけてもらったり。

インクに関しては、香水と似ている部分があるかもしれませんが、色だけではなくて、香りつきのものもありますので、そういった体験をしてもらうことによって、ちょっと遊び心を持ったもの選びをしていただいたり。そのためにインクバーを設置しています。

インクバーは、ジュネーブ、上海に続いて世界で3か所めですが、今後リノベーションしていくフラッグシップストアに関しては、すべてインクバーが設置される予定です。

早い段階で、この銀座本店にインクバーを設置したのは、日本というマーケットが、モンブランにとって非常に重要な位置付けにあるからなんです。銀座本店も、日本のマーケットに於ける最初の路面店ということで重要視していますので、今回のリニューアルも非常に重要な課題でした。

日本では、モンブランというとライティングインストゥルメントのイメージが強いように思いますが、このブティックをご覧いいただければ、それにとどまらないグローバル・ラグジュアリー・メゾンだということを感じ取っていただけると思います。ブランドの変革を表現する上で、今回のリニューアルプロジェクトが非常にいいプラットフォームであったと感じています。

――なるほど。インクバーで、香りつきのインクに、たいへん興味をそそられました。このアイデアはどこから生まれてきたのでしょうか。また、個人的にどの香りがお好みでしょうか?

NB:香りつきのインクというのはそんなに長い歴史があるものではなくて、最近スタートしたプロダクトです。モンブランには香水もありますので、まったく新しいものを持ってきたというわけではなくて、我々のメゾンの範疇で展開したものという認識でいます。

モンブランでは、“アート・オブ・ライティング”、つまり“書くことの美学”を掲げています。実際にペンに触れて書くという触覚だけでなく、インクの色で視覚にも訴え、今度は香りによって嗅覚にも訴える。まだ他の感覚に訴える魅力があるというふうに感じています。

個人的にはウィスキーの香りのついたインクに感銘を受けました。ただ。インクですから飲めませんが(笑)。

1050_TL_2032

――今後、リニューアルされるブティックは、銀座本店のインテリアに通ずる明るいイメージで展開されていくのでしょうか?

NB:そうですね。銀座本店は新しいコンセプトの下にリノベーションされ、このコンセプトを今後、全世界で同じように展開していく予定です。店舗の面積による制約もありますが、銀座本店は世界でもトップ3に入るぐらい大きなブティックですので、叶えたいことがすべて叶ったと言っていいかと思います。

インテリアの壁紙は日本のステーショナリーからインスピレーションを得たものを使っています。今後新しくリニューアルしていくブティックに関しても、すべて同じものを使っていく予定です。我々がこれを選んだ理由は、日本の洗練された文化やエレガンスを、ここから感じ取られるからです。

――こうしたインテリアは、体験を重視するという以外に、何か狙いはあるのでしょうか?

NB:お客様が気になっていることや疑問に思っていることに対して、よりよい形で答えをお伝えすることができるのが、この新しいコンセプトのブティックであると考えています。以前の店舗は、もう少しマスキュランな雰囲気があったと思うんです。女性用のアイテムもたくさんあるのですが、女性のお客様が入りにくい面もあったのではないかと。そういったまずイメージを変える必要がありました。

そして、先ほども申し上げましたが、カテゴリー別により分かりやすくセグメントが分かれています。例えばレザーグッズであれば、実際に手触り、テクスチャーを感じてもらったり、匂いを感じてもらったりということが非常に重要だと思いますので、ガラスケースに入れて触れられないようにするのではなくて、オープンに置いたりしています。
インクも同様ですね。実際に使ってみて、色を見て、書いた感じを体験してもらう。

時計に関しても、よりお客さまに近くに感じてもらいたいと思っていますので、例えば、ウッド製の什器を採用するなど、ちょっとオールドクラフツマンシップを感じられるような配慮もしています。

――今後、女性顧客の割合をもっと高めていきたいというお考えもあるでしょうか?

NB:より多くの女性の顧客層に訴えかけたいかということに関していえば、答えはイエス・アンド・ノーなんですね。というのは、実はモンブランのお客様の半数以上が、既に女性なんです。必ずしもご自身のために買うのではなくて、ギフトに買われることも多い。新しいコンセプトのブティックでは、当然、女性のお客様にとっても、来て心地よく、時間を忘れて過ごしてしまいそうな雰囲気があることは確かです。

プロダクトに関しても、女性男性というジェンダー関係なくターゲットにしています。たとえばスマートウォッチも『SUMMIT 2』は少し小さくなったので、女性にもつけていただけます。ライティングインストゥルメントも男性女性ともターゲットにした商品展開を行っています。新しいコンセプトのブティックは、既存のお客様にとっても、より来て頂きやすい雰囲気になったと思います。

――今、モンブランには、筆記具と時計とレザーという3つの柱があると思います。日本では、この三つはバランスよく動いてるんでしょうか。それとも、日本ではここをもっと強化したいなどの戦略はありますか?

NB:先ほど申し上げたように、特に日本では、モンブランというとライティングインストゥルメントのイメージが強い。そしてそこからブランドを好きになっていただく方が多いというのが事実としてあります。なので、当然日本ではライティングインストゥルメントが占める割合が非常に高いのですが、最近はレザーグッズも、ベストセラーとなったバックパックからトロリーまで、幅広いレンジでダイナミックに成長しています。

時計も伸びているカテゴリーになります。こういったタイプのブティックができることによって、例えば、以前はペンを求めてお店に来ることが多かったお客様が、革製品を買ったり、素敵な時計を見つけたり、眼鏡を買ったり香水を買ったり、一つのものを買いに来るというよりも、モンブランがオファーするすべてのものを見たいという気持ちで来て頂けることを期待しています。

――2年後には東京オリンピックも開催されますが、それも視野に入れながら、今後日本というマーケットにどんなに期待をお持ちでしょうか?

NB:オリンピックが日本の市場や経済にもたらす効果は、非常に大きいものがあると思いますし、2020年は世界から注目を浴びる年になると思います。けれども、モンブランは、そのとき日本を訪れるツーリスト、ビジター以上に、日本にお住まいのお客様を重視しています。それは日本だけではなくて、世界各地でその国お客様を大切にしたいという思いがあります。

今回、新しいコンセプトのブティックをオープンすることによって、日本のお客さまにモンブランが世界を代表するメジャーメゾンであることを再認識していただけると信じています。ヨーロッパ各地で、モンブランをそういうブランドとして認識頂いているのと同様に、日本でもそういう日がもうすぐそこまで来ていると考えています。

このブティックのリニューアルは、日本というマーケットがどれほどモンブランにとって重要なのかを示す、スタートに過ぎません。今後、百貨店、商業施設、路面店、専門店などに於いても、様々な変革を進めていきたいと思っています。自分としては2020年を越えて、2025年ぐらいまでを見据えて、プロジェクトを展開したいと考えています。

――今後、モンブランをどういった方向へ導いていこうとお考えでしょうか?

NB:モンブランは、ライフスタイルブランドであると認識していただけるように努めてきました。それは今後も変わらない。ラグジュアリー、ビジネス、ライフスタイル、という我々のキーワードも変わりません。

ライティングインストゥルメントにせよ、時計にせよ、レザーアイテムにせよ、その分野の最高の技術や人材を投入し、最高の品質を届ける製品作りをしていくことも変わりません。その上で、ラグジュアリーライフスタイルというものも、さらに提案していきたいと考えています。

問/モンブラン銀座本店 03-5568-8881

プロフィル
ニコラ・バレツキー
モンブラン インターナショナル 最高責任者。デトロイトトウシュトーマツ ジュニアコンサルタント、マスト・ド・カルティエ シンガポール、カルティエ インターナショナル、ジャガー・ルクルト インターナショナルを経て、2013年モンブラン インターナショナルGmbH 販売部門 執行副社長に就任。2017年より現職。

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Yasushi Matsuami

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