腕時計
SIHH2019 ジュネーブサロン・リポート
エルメス
2019.02.12
高級時計の新作がいち早く出そろう、毎年恒例の国際展示会・SIHH(ジュネーブサロン)がスイスで1月14日から17日まで開催された。ラグジュアリー感あふれる落ち着いた雰囲気の会場に、約2万3000人が来訪したという(主催者発表)。このSIHH2019から、主要ブランドの動向と、魅力的な新作をピックアップして紹介する。
メンズは独創的なムーンフェイズ、レディースで新コレクション
たて髪をなびかせてさっそうと走る馬を思わせる斜体の数字が特徴的な「アルソー」は、エルメスの代表的なウオッチコレクション。完璧なシェイプの丸形ケースにもかかわらず、馬具のあぶみから着想を得た上下非対称のラグ(ベルトとの接合部)をアレンジしていることが、エルメスらしいウィットと言えるだろう。
今年のエルメスは、この「アルソー」をベースにした新作が数多く登場。なかでも独創的な機構で注目を集めたのは「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ」だ。
フランス語で「月の時間」を意味するモデル名でわかるように、月の満ち欠けを表示するムーンフェイズだが、小窓の中で夜空の月が顔を出す一般的な仕組みとは逆に、12時位置と6時位置に2つの大きな月を固定。時分表示と日付表示(指針式)の2つのスモールダイヤルがその上を通過することで、月相の変化を表現する。
月の見え方は北半球と南半球では逆になるため、2つの月を配置しているのだが、2つのスモールダイヤルも中央を軸にして対称的につながっており、ケースの中を59日間で1回転する。それによって、それぞれの月が半分の29.5日周期で満ち欠けを繰り返す仕組みだ。
どちらの月も複雑な光沢が魅力のマザー・オブ・パールで造形しており、私たちが目にする北半球の月は6時位置にあってリアルな表面を転写。それに対して12時位置の南半球の月にはペガサスの姿が描かれている。立体感のある小宇宙の中で、過ぎゆく時間と日々、そして移り変わっていく月の形をファンタジックに見せてくれる新作だ。
エルメスが得意とするエナメル技法のミニアチュール(細密画)でも、「アルソー Awooooo」が発表された。三日月が瞬く夜空を背景に、銀色のオオカミが吠える姿が精密な筆使いで克明に描かれている。世界8本の限定モデルで価格は¥9,170,000(税抜き)
「アルソー」のシャープで洗練されたスタイルにひかれるエルメスのビギナーにオススメしたいのは、クオーツ搭載の「アルソー 78」。アンリ・ドリニーがデザインした1978年に由来するネーミングであり、スレートカラー(グレー)で粒立ったグレイン仕上げのダイヤルが特徴。ベゼルもチタンをマイクロブラスト加工で仕上げたマットな質感を加えており、クリーム色の蓄光式夜光を施した時分針とアラビア数字が絶妙にマッチしている。ヴォー・バレニアのストラップも秀逸。紳士にふさわしいハイセンスなオシャレ感が漂うモデルであり、価格的にも魅力だ。
Ladies' Watch Information for Gentlemen
[紳士も知っておきたい淑女の時計]
上下非対称の流線型がエレガントな新コレクション
「Hウォッチ」など長く愛されているエルメスのレディースウオッチに、まったく新しいコレクションが加わった。「ギャロップ ドゥ エルメス」。「アルソー」と同じく馬具のあぶみからインスパイアを受けたとしているが、こちらはケースそのものがダイナミックな上下非対称。
宇宙船を思わせる未来的な流線型というだけでなく、インデックスのアラビア数字に傾きをもたせ、大きさも微妙に変えているため、6時位置から12時に向けて奥行きがあるように錯覚させる。8の数字は上下逆にしたあぶみをイメージ。エルメスの自由奔放な発想と遊び心を美しく造形したユニークなコレクションだ。
1991年に発表された「ケープコッド」は、長方形のフレームに正方形のケースを取り込んだ独特のスタイルで高い人気を誇るロングセラー。エルメスのシルバージュエリー「シェーヌ・ダンクル(錨の鎖)」からインスパイアされて誕生したモデルであり、数々のバリエーションが作られてきた。今年はこの原点を再解釈した「ケープコッド シェーヌ・ダンクル」が登場。ラッカー仕上げのダイヤルに「シェーヌ・ダンクル」のコマのモチーフが表現してあり、ベゼルのダイヤと併せて、華やかななかに上質のユーモアを感じさせるデザインになっている。
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
問/エルメスジャポン 03-3569-3300
プロフィル
笠木恵司(かさき けいじ)
時計ジャーナリスト。1990年代半ばからスイスのジュネーブ、バーゼルで開催される国際時計展示会を取材してきた。時計工房や職人、ブランドCEOなどのインタビュー経験も豊富。共著として『腕時計雑学ノート』(ダイヤモンド社)。