紳士の雑学

未来を逆算し、いまの足元を考える
株式会社LIFULL代表取締役社長 井上高志インタビュー[後編]

2019.04.03

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国内最大級の物件サイト『LIFULL HOME’S』は「 不動産業界を改革したい」井上の信念から生まれた。7期連続最高益と経営面が好調に推移するなか、次のミッションは住まいに限らず、「 あらゆるLIFE(ライフ)をFULL(フル)にすること」だ。

事業は軌道に乗りはじめた。設立から13期連続の増収で2010年には売上高100億円を突破。同じ年には東証一部に上場する。だが、同時に壁も見えはじめた。

「『LIFULL HOME’S』の物件掲載数が伸び悩みはじめたんです。どうしても140万件くらいで止まってしまう」

要因は物件を載せるごとに広告費が発生する「掲載課金型」モデルにあった。すぐに売れそうな物件、めったに問い合わせが来ないような物件はサイトには載らずユーザーの目に触れることもない。これは井上の目指す「情報の対称性」とは相いれない。悩んだ末に掲載は無料にし、問い合わせがあった時点で料金が発生する問い合せ課金型に変更した。11年のことだ。

「僕らは10年後、30年後のビジョンありきの会社。将来のビジョンを実現するためにいまの足元をどうするか? すべて逆算しています。けれど、このときは本当に大変でしたね(笑)。業界からも風圧を受けましたし、社内にも動揺が走りました。『絶対に大丈夫! この方向で間違っていない』と社員に言ったこともあります。結局、2、3年後には掲載数がぐんと伸び、最多で800万件を超えました。これで市場に流通する物件の60%ほど。将来的には日本国内の住宅を100%データベース化したいんです」

17年からは全国の自治体と提携し『LIFULL HOME’S空き家バンク』の運営もスタートした。国内にある空き家は現在300万件ほどだが、新築が増えつづける日本ではやがて1600万件の空き家が生まれるとも。

「日本の空き家をどうするのか? これも僕らが考えるべき問題ですね。例えば、時間単位や週単位とかで好きなときに好きなだけ住めるようなサービスを作りたい。空き家を利用して、桜の開花前線に沿って北上していく暮らしなんて、とてもいいじゃないですか(笑)。世の中には定住したい人がいる一方、季節ごとに住居を変えたいと思う人もいる。住まい方の自由度を広げることはやりたいことのひとつです」

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100の事業、100人の経営者、100カ国の展開

7年に会社名をネクストからLIFULLへと変更し、いまのオフィスに移転した。社名は「あらゆるLIFE( ライフ)をFULL(フル)にする。」という造語から来るもの。

「日本だけでなく世界中の人のあらゆるライフですね。76億人が心から安心しハッピーな状態でいられる社会を作りたい。あらゆるライフですからもちろん、住まいに限りません」

 2025年に向け、打ち出した方針は「100の会社を作り、100人の経営者を育て、100カ国で事業を展開する」こと。新規事業制度から生まれた社内ベンチャーは介護や花の宅配など13社、これに国内外の関連会社を含めるとグループ会社は30社になる。

「事業の生存確率が70%くらいだとして今年は毎月1社くらい立ち上げるスピードになりますかね(笑)」

社内外問わず、事業化の決め手は『利他主義』に沿っていること。人生の最終的なビジョンは「世界平和」だという井上。「そもそもがちゃらんぽらんなんで。大きな目標を掲げないと怠けグセが出てきますから」と笑うが、もちろん、本気で言っている。

「まだまだです。水資源や食料資源の問題まで。100歳までにやりたいことはたくさんあります。けれど、僕ひとりが統帥するような会社では幸せになりません。だからこそ、100人の経営者なんですね」

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変われます、性格も

取材中、セミナーを聴講しているような充足感を覚えた。質問に対する井上の答えは論理的。時にホワイトボードに図表を書き、メリハリの利いた解説が入る。周囲を引き込む話術と熱量。だが、当人いわくそれは天性のものではないとも。高校時代は学年一背が低く「学級委員」にならないよう先回りして「図書係」に立候補するような少年だった。けれど、その後、急激に背が伸びたように「変われますよ、性格も」強く言った。

そんな井上に余暇の過ごし方を尋ねてみる。

「普段、PCに向かうことが多いので。意識して右脳に栄養を与えるようにしています。森林のマイナスイオンとか小鳥のさえずりとか、自然のあるところに」

16年にはキャンピングカーで北米3000キロを移動した。当時、妻と息子は同地に留学中。GWに再会がてら自然を満喫したという。

「昔はどこに行っても仕事のことばかり。運転をしてても、釣りをしてても『大丈夫かな』と思ってしまうんですね。けれど、最近は人に任せられるようになってきて枝葉ではなく、幹の部分を考えられるようになってきたんです」

経営者は好きじゃないとやっていられない、そう語る井上は、若い世代にも好きなように、自分の思うままに生きてほしいと言う。

「特にいまの30代は働き方の潮目が変わった世代です。『出世することが幸せじゃない』『家を持つことが幸せじゃない』、あるときから幸せの概念が画一的ではなくなった。こうした多様性を僕はすごくいいことだと思っていて。中央集権的な価値観に巻き取られず、自分が幸せだと思うままにチャレンジしていってほしいなと思いますね」

社内にでもあり、もっと広く社外にでもあり、最後はビジネスマンへのメッセージで締めくくってくれた。

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16年のGW、家族と北米を旅行。ラスベガス近郊のアンテロープキャニオンにて。

プロフィル
井上高志(いのうえ・たかし)
1968年、神奈川県横浜市出身。青山学院大学経済学部卒業。リクルートコスモス(現コスモスイニシア)を経て、95年に独立、「不動産業界の仕組みを変えたい」という信念のもと、個人事業主として同社前身となるネクストホームを立ち上げる。97年に株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。同社代表取締役社長。座右の銘は社是と同じ『利他主義』。新経済連盟理事。一般社団法人21世紀学び研究所理事。一般社団法人Next Wisdom Foundation代表理事。「仕事は飽きないけれど、趣味はすぐ飽きてしまう」という井上だが、余暇は徹底するタイプだ。北海道は熊の生息地である南富良野町に山小屋を共同所有。大自然のなか五右衛門風呂につかり、電気もガスも通っていない山小屋で家族と休暇を過ごすことも。

Photograph:Kentaro Kase
Styling:Masahiro Tsukada
Text:Mariko Terashima

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