旅と暮らし
イスラエルにルーツを持つ個性的なシンガー・ソングライターが、
ホセ・ジェイムズをゲストに迎えて見せる日本初のフルステージ
2019.04.04

ターリの日本初のフルステージがこんなに早い段階で行なわれると知って、初めは驚いた。ホセ・ジェイムズとの絡みで彼女のことを前から知っていた人もいただろうが、そうは言ってもソロ・シンガーとしては3月20日にデビュー・アルバム『アイ・アム・ヒア』を出したばかりの新人。そのデビュー・アルバムはホセ・ジェイムズが立ち上げた新レーベル「レインボー・ブロンド」からのもので、今回の来日公演にはホセもスペシャルゲストという形で出演するのだが、つまりそれだけホセはターリという才能を世に送り出することに熱意を持ち、その価値があると考えているのだろう。この来日公演が、彼女がこれから大きく羽ばたくための重要な足がかりになると、そういう思いでいるのだろう。
出たばかりの『アイ・アム・ヒア』は、実際のところ予想していた以上に優れたアルバムで、ターリというシンガー・ソングライターの稀な個性と才能を強く感じることができる。ありきたりじゃなく、いい意味でクセがある。ほかによくあるスタイル、よくある歌唱法、よくあるサウンドではなく、独特の歌唱の節回しと優れたソングライティングが味わえる作品だ。恐らくパフォーマンスでもその個性を存分に発揮してくれるに違いない。
ここでターリのプロフィールを簡単に紹介しておこう。ターリことタリア・ビリグの出身はニューヨーク。ルーツはイスラエルにあり、家族はユダヤ教徒。もう少し詳しく書くと、母親はアシュケナジー系ユダヤ人だそうだ。現在ターリはL.A.を拠点に活動していて、初めは仕事で3ヵ月だけのつもりだったのが、気候が気に入ってもう2年住んでいるらしい。
ターリはかつてブルーノート・レコードで働いていて、その頃にスタッフワークの重要さを学んだそうだ。そして2013年からオーチャード・セッションというプロジェクトをスタート。これはマンハッタンのアパートでミュージックサロンを開き、そこでの多様なミュージシャンとの演奏を映像で配信するプロジェクトだった。
彼女が初めて本格的に作曲をしたのは、同プロジェクトにも参加していたホセ・ジェイムズが2014年に発表した『ホワイル・ユー・アー・スリーピング』収録の「ユー・アー・ザ・ワン」と「ウィザウト・ユー」。ターリはホセのツアーにも2年間同行。その後L.A.に移り住み、ほかのアーティストへの曲提供などを行なったのち(そこにはホセの人気曲「リヴ・ユア・ファンタジー」なども含まれる)、自作のための曲作りを開始。それをまとめあげたのが、出たばかりの初アルバム『アイ・アム・ヒア』になる。
モダンなビートと中近東的な旋律が融合
神秘的なコーラスも絶品のデビュー作
このアルバムでターリは、自身でシンセサイザーを演奏し、プログラミングを行ない、トラックを制作。またコーラスを幾重にも重ね、それをビートと融合させている。結果、モダンなリズムと神秘的なコーラスが混ざり合い、景色がそこに立ち現れる。歌声は透き通っていながら、節回しに彼女のルーツが現れている。初めて聴いたとき、自分はかつて「イム・ニン・アル」(1988年)という世界的な大ヒットを放ったイスラエルの歌姫オフラ・ハザを思い出したのだが、ターリにとってオフラ・ハザはフェイバリット・シンガーなのだそうで、確かに影響はあるのだろう。しかしオフラに比べればターリはやはり現代的で、あそこまでドラマチックな歌い方はしていない。
とはいえ、メロディーはハーモニックなマイナー・スケールから成る中近東的な色合いの濃いもの。イスラエルで生まれて世界に広がった曲のカヴァーや、イスラエル民謡を用いた楽曲もある。
その一方でネオソウル感の少し表れた曲もあったり、ラナ・デル・レイに通じるようなバラードがあったりもする。ホセ・ジェイムズをフィーチャーした「Star」はポップなサビのメロディーが印象的だ。さらに国内盤にはL.A.で活動する日本人プロデューサー、starRoがリミックスを手掛けてハウス色の強まったトラックも収録。このようにモダンな要素とエスニックな要素、ポップさと独自性とが混ざり合って、かなりユニークで聴くほどにクセになる仕上がりとなっているのだ。
そんなターリは2018年にホセ・ジェイムズがビルボードライブで行なった公演のオープニングアクトを務めもしたが、そのときは10分ちょっとの短いステージ。それに対して今回は渾身の初アルバムを携えた初のフルステージであるゆえ、あのときとは比較にならないほどスケールアップしたものになるはずだ。バンドメンバーとして、アルバムにも参加したシンセサイザーのジェイコブ・バーグソンと、ドラムスのアーロン・スティールも参加。ホセがこれほどまでに惚れ込んでいる理由も、きっとフルステージを観ればわかるだろう。どんなライブになるのか、今からとても楽しみだ。
プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。Note(ノート) https://note.mu/junjunpaでライブ日記などを更新中。
公演情報
Taali with special guest Jose James
ターリ
with special guest ホセ・ジェイムズ
【東京公演】
公演日/2019年5月15日(水)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
料金/サービスエリア 6900円 カジュアルエリア 5900円
問/03-3405-1133
所在地/東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガーデンテラス4階
【大阪公演】
公演日/2019年5月17日(金)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
料金/サービスエリア 6900円 カジュアルエリア 5900円
問/06-6342-7722
所在地/大阪府大阪市北区梅田2-2-22 ハービスPLAZA ENT 地下2階
その他詳細は下記より
http://billboard-live.com/