特別インタビュー
ホスピタリティ業界に革新を。
TRUNK代表取締役社長 野尻佳孝の挑戦とは─?
2019.04.15
かつてウエディング業界に新風を巻き起こした風雲児はいま、ホテル業界にイノベーションを起こそうと奮闘している。その人物像と注目のプロジェクトを追う。
欧米人にとってのホテルは、単に旅行者をもてなすだけでなく、その街の文化や歴史を象徴する大切な存在だ。ホテル経営に携わるプロフェッショナルを、欧米では「ホテリエ」と呼ぶ。その言葉には、ホテルを生業(なりわい)とする彼らに対する敬意の念が含まれているのだろうか。
東京の渋谷にトランクホテルがオープンしたのは2年前の2017年5月。代表の野尻佳孝さんは、世界のラグジュアリーホテルやブティックホテルに精通する日本屈指の「ホテリエ」でもある。
トランクホテルは、「ソーシャライジング(等身大の社会貢献)」というテーマを掲げるコンセプチュアルなブティックホテル。
館内のメインダイニングで振る舞われる料理、客室に置かれるひとつひとつのアメニティ、そのどれもが環境や健康に配慮されている。併設されたストアには、社会との関係性を表現するように、リサイクルコットンを素材にしたオリジナルのファッションアイテムやオーガニックのお弁当が整然と並べられている。
現在、宿泊客の約8割が外国人であり、そのうちの8割を欧米人が占めているのも当然と言えそうだ。
ホテル1階のラウンジはコワーキングスペースとして宿泊客以外にも利用されている。敷地内には串焼き専門店、トランククシがあり、渋谷のソウルフードがローカルな雰囲気のなかで楽しめる。客室、ラウンジ、レストラン、ストアという、既存のホテルにあるゾーニングでは収まりきらない東京の新たなコミュニティーハブ。それがトランクホテルの醍醐味(だいごみ)なのかもしれない。
多様化する宿泊需要
1998年にウエディングの会社「テイクアンドギヴ・ニーズ」を起業した野尻さんは、かねてよりウエディング事業とホテル事業との親和性について着目していた。
「日本はマニュアル化で成功した国。ホテル業界も同じ屋号、同じサービスによるチェーン化によって発展してきました。日本のビジネスホテルがそのいい例です。でも、世界中のホテルが多様化していくなかで、いまはマスだけではなく、ニッチもビジネスになる時代。私たちはこれから5年以内に、『トーキョープレイ』(東京が遊ぶ)というテーマのもと、10軒のブティックホテルをつくろうと計画しています。コンセプトワードもそれぞれ『ソーシャライジング』とは別にネーミングしていきます。例えば、『ウエルネス』や『メディテーション』『エスケイプ』といったように。まだ言えませんが、超ヒップで、かっこいいホテルにしていくので、ぜひ期待してください」
プロフィル
野尻佳孝(のじり・よしたか) 東京都出身、1972年生まれ。明治大学卒業後、住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)に就職。1998年、26歳でテイクアンドギヴ・ニーズを設立。2001年に現在の新ジャスダックに史上最年少で上場。2006年、東証一部に史上最年少で上場。2010年より同社代表取締役会長に。2017年、TRUNKを設立し同社代表取締役社長に就任。2018年より明治大学経営学部の教授として教壇に立つ。
Photograph:Takahiro Sakata
Text:Satoshi Miyashita
※アエラスタイルマガジンVol.42からの転載です