調べ・見立て(見立て)
編集長の「見立て」。
ビジネスウエアの5W1Hとは?
2019.05.14
スーツを週5日、つまり平日は毎日着ているという回答は44%。このパーセントを多いと見るか、少ないと見るか、考え方はさまざまでしょう。「ビジネスウエアがカジュアル化して」と嘆くファッション業界の方から見ると「それでも半数近くは毎日着ているんだ」となり、「スーツが常識」と考えてきた金融業界の人事担当者から見ると、「毎日着る必要がある人がこんなにも少ないとは」といった感想となります。
ここに示したアンケートは、3月7日から調査をスタート。回答のパーセントは、5月10日現在のものです。これから本格的な夏を迎えると、スーツを着る頻度がさらに減少するのは容易に想像できます。エアコンの温度設定を上げて、環境にかける負荷を軽減しようという考え方に、異論を挟むつもりはありません。ただ、クールビズの話をするときにいつも私が申しあげるのは、次の3点です。
1 自分自身が涼しいことよりも、ビジネス相手に涼しく感じてもらう装いを優先すべし。
2 単にネクタイをはずすだけが、涼しい着こなしのすべてではない。
3 クールビズの「COOL」には、「涼しい」のほかに「カッコいい」の意味もある。
ネクタイをする頻度についてのアンケートでも、前述のスーツを着る頻度についてのアンケートと似たような回答結果となりました。週5日、つまり平日は毎日ネクタイをしている方が40%。クールビズのシーズンに突入する前の調査であるのを差し引いても、世の中で言われているネクタイ離れの情報に比べると、「ネクタイしているビジネスマン、まだまだ多い」と感じます。ネクタイ業界を取材すると、「2005年にクールビズがスタートして10年以上が経過。売り上げは半減したけれど、ここに来て下げ止まっている」という声も聞きます。ネクタイブランドの展示会では、ビジネスのシチュエーションや季節に対応した新しい提案が続けられているのです。
2つのアンケートを見て、注目した回答データがあります。スーツを着る頻度の問いかけに、「不定期(必要なときだけ)」と回答した人が37%。ネクタイをする頻度の問いかけに、「不定期(必要なときだけ)」と回答した人が42%。3分の1から半数近くのビジネスマンが、「スーツを着るか着ないか」「ネクタイをするかしないか」を自分自身で判断していると読み取れます。学生にとっての制服ではありませんが、ビジネスマンにとってのスーツは「制服のようなもの」だと考えられてきました。生徒手帳に服装規定があったように、会社の社内規則にドレスコードが記載されているのも珍しくありませんでした。これまでは、業界や会社がビジネスウエアを規定していたのです。それに対して、いまは「ビジネスウエアとして、何を着るべきか」のルールがビジネスマン自身のなかにあるということでしょう。
ビジネスウエアにおける5W1H。When=どういう季節か、Where=どこに行くのか、Who=だれと会うのか、What=どういった仕事をするのかを考えていくと、Why=なぜそれを着るのか、How=どのように着こなすのかが決まってくるのです。
堅いスーツ姿が特徴の金融業界であっても、クライアントとの接待ゴルフが仕事の日にはジャケットスタイルがいい。普段はカジュアルな着こなしのIT起業家であっても、投資家への大切なプレゼンの日にはスーツを着るといった具合。これが、いまのビジネスマンの正しい姿勢だと思うのです。
プロフィル
山本晃弘(やまもと・てるひろ)
AERA STYLE MAGAZINE
WEB編集長 兼 エグゼクティブエディター
「MEN’S CLUB」「GQ JAPAN」などを経て、2008年に編集長として「アエラスタイルマガジン」を創刊。ファッションやライフスタイルに関するコラムを執筆する傍ら、幅広いブランドのカタログや動画コンテンツを制作している。トークイベントで、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活動中。2019年4月にヤマモトカンパニーを設立し、現職に就任。執筆書籍に、「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」がある。
Photograph:Masaya Takagi,Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Styling:Masayuki Sakurai,Akihiro Mizumoto,Tomohiro saitoh(GLOVE)
Hair & Make-up:Masayuki(The VOICE),Ryo(BEARD MAN)