旅と暮らし
わずか5分のショートフィルムが、
銀座に感動をもたらした。
2019.05.29
外国人の女性監督が、日本の伝統である金継ぎを描いた。
革靴や万年筆など、お気に入りのモノを大切にメンテナンスしながら使いつづける人にとって、感情移入しやすい日本の伝統文化がある。それが、金継ぎ。欠けたり割れたりした器を漆で継ぎ合わせ、金彩を施し、それまでと異なる美を付加しながら、さらに長く愛用するための技法だ。
この度、「ギンザ・ショートフィルム・コンテスト 2019」で最優秀作品賞に輝いたシビラ・パトリチア監督(写真中央)の「UNBROKEN」はそんな金継ぎをテーマにしたものだった。白い壺が割られ、金継ぎを施すことで新たな美を生み出すようすを描いていた。
まず、完成されたモノを壊すことが型やぶりであるだろうし、外国人が日本の文化を描くのも型やぶりと言えるだろう。伝統の街、銀座と伝統の技法、金継ぎとの親和性も高く、わずか5分ほどの映像から監督のメッセージも伝わってくる。「社会では、失敗することは悪いことと思われがち。ところが本来は、失敗せずに成長することはできない。失敗は素晴らしいと思います。この作品を見た人も同じように感じてもらえたら幸いです」。また、授賞式でプレゼンターを務めた女優の高梨 臨氏は「金継ぎのルーツや精神性は日本人の精神に通じる。見終わったあとにいろいろと考えられるフィルムだと思いました」とコメントした。
型やぶりな作品が、見る人に訴えかけてくること。
さて、当コンテストの応募テーマは「型やぶり」だったわけだが、普段、私たちはどれだけ型をやぶって、自分自身を成長させているだろうか、といったことも受賞作品を通じて考えさせられる。優秀作品賞の「Splendor」は、監督自らの美容師経験をもとに美容室でのミュージカル作品とし、人生を諦めかけていた女性がだんだんと輝いていく姿を見せてくれた。また、審査員特別賞の「Don’t Worry Be Happy」は、フィリピンのドラッグクイーンの男性をドキュメンタリーとして撮ることで、型にはまらず自分らしく生きることを伝えていた。
監督ひとりひとりが、まず自分の思いが独りよがりにならず、どうしたら人を感動させられるものへと昇華できるか、型をやぶりながら考えていったに違いない。新しい挑戦として、こういったコンテストに応募すること自体も、多くの人から見たら大いなる型やぶりだ。
審査員のひとりで、米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(以下SSFF&ASIA)」代表の別所哲也氏は本コンテストを「いずれカンヌ映画祭など世界から注目を集めたり、世界の扉を開く場所になってほしいです」と語り、同じく審査員で映画監督の中野裕之氏は「型やぶりというテーマは、伝統ある街、銀座だからこそ。銀座以外のほかの都市でできるとは思えません。100回型やぶりでもいいのでは」と講評を締めくくった。
「ギンザ・ショートフィルム・コンテスト 2019」を主催したのは、一般社団法人銀座通連合会、全銀座会、そして銀座の国際的なラグジュアリーブランドで組織するギンザ インターナショナル ラグジュアリー コミッティの3団体。その各代表にとっては、コンテストの開催自体が新しい挑戦であり、前例のない型やぶりなものであったに違いない。ぜひ来年以降も期待したい!
ギンザ・ショートフィルム・コンテスト2019
(授賞式は5月22日、GINZA PLACEにて行われました)
https://www.ginza.jp/event/11620
最優秀作品賞「UNBROKEN」は、5月29日(水)より開催中の「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2019」にて特別上映されます。
https://www.shortshorts.org/2019/
Text:Yuko Oba