紳士の雑学

スーツの種類
ディテールから選ぶ
(スーツの基本 第2回)

2019.06.05(最終更新:2023.09.13)

日頃、何気なく着用しているスーツ。そこに備わる襟や裾、裏地などのディテールには、当然ルーツがあるのです。これらの記号的な意味を知ることで、スーツの魅力をいっそう奥深く味わえるというもの。既製品でも、カスタムオーダーでも、フルオーダーでも、より「自分好み」の枠が幅広くなるに違いないでしょう。前回はシングルスーツ・ダブルスーツ、ボタンや生地の種類を紹介しました。今回は、スーツのディテールについて解説します。

目次
  1. 襟の違いで印象が変わる
  2. 後ろ姿にも気遣って
  3. 裏地こそ、男のこだわりどころ?
  4. スタイルの違いが出るポケットの重要性
  5. まとめ

スーツイメージ

<<第1回はこちらから

  • 01ノッチドラペル
    ノッチドラペル
  • 02ピークドラペル
    ピークドラペル
  • 03フィッシュマウス
    フィッシュマウス

上襟(カラー)と下襟(ラペル)の2パーツからなるスーツの襟は、ゴージラインと呼ばれる切り替え線によって分かれています。襟は「スーツの顔」とも言われるほど重要な部分です。

顔周りに位置するために、実際目につきます。わずかな違いではありますが、見る人が見れば、受け取られる印象も変わってくるのです。また、一般的にラペルの幅が細いとモード、太いとクラシカルな印象を与えることも覚えておくとよいでしょう。

<ノッチドラペル/左>
ゴージラインの外端に刻み(ノッチ)が入った最も一般的な形状。襟元からノッチにかけてゴージラインが直線となっているのが特徴。菱襟とも。まず、選んで間違いのないディテールです。

<ピークドラペル/中>
ラペルの先が上方に向かって剣のように尖った(ピークド)形状。両前背広襟とも呼ばれ、ダブルブレステッドスーツや、タキシードなどのフォーマル服によく見られる。ノッチドラペルに比べると、ドレッシーな印象は高まるといえます。

<フィッシュマウス/右>
上襟の終点でゴージラインが水平にカットされた刻みの形状が、文字通り「魚の口」に見えることから。ノッチドラペルとピークドラペルの中間、セミピークドラペルの一種。遊び心が感じられるディテールのひとつ。

ジャケットの後ろ身頃に入る切り込みをベントと呼びます。本来は、乗馬の際、体を動かしやすくするための機能的な仕立てとして生まれ、現在も一般的なディテールとして継承されています。ベントがあるぶん、裾が開きやすく、スーツのシルエットをエレガントに見せられるため、スーツの好事家が重要視する箇所のひとつです。

  • ノーベント
    ノーベント
  • サイドベンツ
    サイドベンツ
  • センターベント
    センターベント
  • フックベント
    フックベント

<ノーベント/左上>
切り込みの入らないタイプ。タキシードに代表されるように、フォーマル服の多くに採用されています。ベントという機能ディテールをもっていない、という点においてはクラシカルともいえるでしょう。フォーマルないしはクラシカルな印象を与えたい場合向け。あえてベントを入れずに、ジャケットのシルエットを楽しみたいという場合にも有用。

<サイドベンツ/右上>
後ろ身頃とサイドパネルの左右の境界に切り込みが入る。ダブルベンツとも。かつては剣の抜き差しをしやすくするためにセンターからサイドに切り込みを移したという説が有力。2本入るぶん、運動量は高まります。はらりと後ろ身頃がなびく様はエレガント。ブリティッシュスタイルのスーツによく見られます。

<センターベント/左下>
背縫いに沿った形で中央に切り込みを入れたタイプ。ノーベントのジャケットが、より裾が開くよう運動量を与えるべくして登場したのが、センターベントです。ベントの発祥はこちらが先という説も。一般的にアメリカンなジャケットによく見られるディテールです。

<フックベント/右下>
センターベントのなかでも、切り込みの始点がカギ型にクランクしたものを指します。背縫いに沿って開ける縫製技術がない時代からのディテールで、よりクラシカルといも言われます。また、アメリカを発祥とするアイヴィーリーガーに愛用されたブレザーなどにも、このタイプは多く見られます。今では、遊び心を楽しむためのディテールとして人気。

  • 裏地あり
    総裏
  • 裏地なし
    背抜き

「裏勝り」といって、江戸っ子が着物の裏地にこだわるのと同様、スーツの世界でも裏地はこだわりどころのひとつ。抑制された美学という点では、日本人にも受け入れやすいでしょう。
裏地を装着するメリットとしては、そうした装飾的な面とともに、型崩れを防ぐという点、インナーとして着るシャツのすべりをよくするという点、そして、秋冬においては保温効果も高まるという点などが挙げられます。主にキュプラという光沢のある化学繊維が使用されますが、軽量性や通気性などの快適性が重視される昨今では、メッシュなどもよく見られます。

<総裏/左>
左右前身頃裏、後ろ身頃、袖まで、すべてに裏地がつく仕立て。ジャケットだけでなく、コートなどでも見られる。一般に夏を除くスリーシーズン対応。正統的なスタイルを求める人に好まれます。また、裏地の色柄にこだわりたい人も、総裏のタイプがいいでしょう。

<背抜き/右>
後ろ身頃に上半分のみ裏地がついたタイプを「背抜き」と呼びます。前身頃の裏地の有無は問いません。また、前身頃にも裏地のつかない一枚仕立てのジャケットに、「背抜き」の裏地のみを備えるタイプも多数見受けます。典型的な夏のディテールのひとつ。ただし、肩パッドや副資材のないアンコンストラクテッドスーツにも多く採用され、「背抜き」の冬服も近年は見られます。

  • フラップポケット
    フラップポケット
  • 両玉縁ポケット
    両玉縁ポケット
  • スラントポケット
    スラントポケット
  • チェンジポケット
    チェンジポケット
  • パッチポケット
    パッチポケット
  • パッチ&フラップポケット
    パッチ&フラップポケット

ジャケットの前身頃につく左右のポケット。今では、ものを入れる機能的側面よりも装飾的な意味合いの強いもの。手ぶら派を気取って、パンパンに膨らませているとせっかくのジャケットのシルエットが崩れてしまい、エレガントではありません。ポケットのデザインで表現できるテイストを学び、今後のスタイルメイキングに役立てていきましょう。

<フラップポケット/左上>
本来は、ホコリや雨の侵入を防ぐためにフラップが付けられたポケット。最もオーソドックスな仕様。基本的にフラップをポケットの中にしまうことができます。大概のものは、しまうと両玉縁仕立てに見えるよう設計。イラストはさらにオーソドックスな水平のデザイン。無難なチョイスといえるでしょう。

<両玉縁ポケット/中上>
ポケットの縁を身頃と共生地で、上下等幅のパイピングのように仕立てたもの。スラックスの仕立てにも見られます。フラップを持たないデザインは、クラシカルないしはフォーマルとも。タキシードのポケットも両玉縁が多い。

<スラントポケット/右上>
体の外側に向かって下がるように「ナナメ」に設置されたデザイン。主にフラップを持つものが多い。英国の乗馬服によく見られ、ブリティッシュスタイルのスーツのアイコニックなディテールといえるでしょう。

<チェンジポケット/左下>
右側のポケット上部に小さな小銭(チェンジ)を入れられるようしつらえた小ポケットのこと。通な印象をもたせたい場合に加える遊び心的なディテールのひとつ。

<パッチポケット/中下>
外側から別布をあてがったパッチタイプのポケット。スポーティなジャケットによく見られるディテールで、カジュアルさを醸したい場合に好まれます。胸ポケットもパッチし仕立てた「スリーパッチ」ポケットは、カジュアルジャケットの代表的なディテールのひとつです。

<パッチ&フラップポケット/右下>
文字通り、パッチポケットにさらにフラップを備えたタイプ。さらにスポーティな雰囲気が高まるといえるでしょう。このタイプには、イラストのようにステッチが備わるものも多く、アイビーやプレッピーのスタイルなどでも愛用されるディテールです。

さりげないディテールの数々は、主にスーツのもつ伝統的なテイストを継承しています。ですので、その出自や印象を知ることで、装いたい雰囲気に応じたディテール選びが、重要になってくるでしょう。このあたりの基礎が身についていると、服に詳しい上司や顧客などとも共通の話題が生まれることもあります。ぜひ、習得しておきましょう。

①ラペルは、尖っているほうがドレッシー。
②機能的なベントにも実は種類があります。後ろ姿にも気配りしてみて。
③見えないところにこだわるのも重要。裏地の仕立ても押さえておきましょう。
④ポケットも、よく見ると顔つきが異なります。玉縁仕上げをベースに、より装飾的であるほど、カジュアルに見えるため、着用するシーンや装いのテイストを鑑みてチョイスしましょう。

<<スーツ基本のき 第1回はこちら

Edit:Naoki Masuyama,Masashi Takamura
Text:Masashi Takamura

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