旅と暮らし

音楽活動を再開させたブラジルの女性歌手アナ・カランが
コットンクラブ初登場。柔らかな歌とギターを味わいたい

2019.06.12

内本順一 内本順一

音楽活動を再開させたブラジルの女性歌手アナ・カランが<br>コットンクラブ初登場。柔らかな歌とギターを味わいたい

アントニオ・カルロス・ジョビンに「君にはあふれんばかりの才能がある」と絶賛され、1989年にアルバム『リオ・アフター・ダーク』でデビューしたブラジルのシンガー、アナ・カランがコットンクラブに初登場。柔らかで涼風のような彼女の歌声は、そろそろ暑くなって湿度も高くなってきたこの季節にピッタリだ。

アナ・カランはブラジルのサンパウロ出身。サンパウロ大学で作曲や指揮法を学び、キューバのサックス奏者パキート・デリヴェラの誘いでアメリカに進出した。ずいぶん前になるが、一度だけ彼女にインタビューしたことがある。2ndアルバム『アマゾニア』を発表して大阪でのコンサートのために来日していた1991年だから、もう28年も前のこと。以下の言葉はそのときのものだ。

「カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ミルトン・ナシメント……。ブラジルには偉大なミュージシャンがたくさんいて、みんな私のアイドルよ。子どものころからブラジルの偉大なアーティストたちの音楽を聴いて育った。音楽一家で、特に父の影響が大きく、私が生まれたときには父の楽器の音に合わせてオギャーって泣いてみせたわ(笑)。ギターは特に先生について習ったわけではなく、自然に弾けるようになった感じなの」

ギター奏者としての腕も確かなアナ・カランはブラジルのボサノヴァとアメリカのジャズとをいいあんばいにミックスし、そうした音楽のステキさは日本をはじめブラジル以外の国の人たちにも受け入れられてきた。90年代の初めごろには、小野リサとアナ・カランが好きだという女性リスナーが自分のまわりに何人かいたのを覚えている。日本で“ボサノヴァを聴くのがおしゃれ”というような軽い流行があったころで、ニューヨークを拠点にしてグラミー賞のオーディオ部門も受賞したりしているチェスキー・レコードから出ていたアナ・カランのCDは音質もよく、ある種の洗練と聴きやすさが確かにあったものだった。

ジャズとボサノヴァを融合させた音楽性から
アコースティックに合う愛に満ちあふれた歌へ

90年代、そして2000年代の前半まで、アナ・カランはチェスキーからコンスタントに作品を発表していた。特に評価が高かったのは、まず1992年の3作目『The Other Side of Jobim』。1曲(ヴィラ=ロボスの書いた歌曲)を除きアントニオ・カルロス・ジョビンのカヴァーで、それはジョビン曲の表層をなぞったもの(そういう作品は世に数多ある)では決してなく、大学で作曲を学んだ彼女ゆえの深い理解に基づいた高質な作品だった。タイトルのとおり、取り上げているのも有名なジョビン曲ではなく“ジ・アザー・サイド”。彼女の爪弾くギターの音色・音質を含め、いま聴き返してもうならされるところの多い名盤だ。

続く1993年の『マラカナン』は肉感的なジャケット写真が目を引くもので、明るさがグッと前に出た印象。カラダを揺らして聴けるアップテンポの曲が多かったし、大貫妙子楽曲のポルトガル語カバーもいい仕上がりだった。そしてジョビンのスタンダードを多く取り上げたボサノヴァ作品、タイトルもズバリの『Bossa Nova』(1995年)に続き、1996年の6作目『おいしい水(原題:Sunflower Time)』はそれまでのイメージを覆した冒険作に。インコグニートのブルーイがプロデュースを手掛け、1曲目「おいしい水」からその当時最先端だったクラブミュージックのダンサブルかつクールなアレンジに歌を乗せていた。当時、そうしたかっこいいクラブサウンドと彼女の歌声がこんなにもマッチするというのは新鮮な驚きだったし、この作品で初めてアナ・カランを知った人も多かったはずだ。ちなみにこの1作のみチェスキーから離れてヴァーブから発売された。

その後、チェスキーに戻って、サウンド的にも元のとおりに。2001年の『Blue Bossa』はジャズとボサノヴァが理想的な融合を見せていて、ある意味でこれが最もアナ・カランらしい作品だと言える気がする。そして2004年作品『Hollywood Rio』も『Blue Bossa』と同じくジャジー・ボサノヴァ路線だったが、ここでは映画に使われた有名曲などが取り上げられていた。

このあと、しばらく作品のリリースは途絶えたものだったが、2016年に約12年ぶりとなるアルバム『Não Ando Só』を発表して活動を再開。そこではより優しさの増した歌を聴かせていたが、同じタイミングで発表された同作のインストゥルメンタル曲集『Não Ando Só (Playback)』では彼女の弾くギターと彼女の吹くフルートのステキさも存分に味わえたものだった。そして昨2018年には、なんと3枚もの新作を発表。『Um Milagre』『Pura Luz』『Pensava em Você』の3作で、いずれもアコースティックなサウンドで慈愛に満ちた歌を聴かせていた。活動再開後のアナ・カランはクリスチャン・ミュージックの場で歌っていて、この3作ともその色合いのものだが、歌はあくまでもナチュラルで柔らか。静かに日の光が差してくる感覚が味わえる。

こうして再び精力的に活動を始めた彼女による今回のコットンクラブ公演は、ソロによるもの。その柔らかな歌とギターの魅力を堪能できる2日間になるだろう。

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。Note(ノート) https://note.mu/junjunpaでライブ日記などを更新中。

公演情報
ANA CARAM - solo -
アナ・カラン

公演日/2019年6月16日(日)・17(月)
会場/COTTON CLUB
所在地/〒100-6402 東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビルTOKIA 2階
問/03-3215-1555

その他詳細についてはオフィシャルウェブサイトにて

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