旅と暮らし

シンセ・ポップに回帰したエレクトロニカの先駆者が
デビュー作から35年を迎えてビルボードライブに立つ

2019.07.09

内本順一 内本順一

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一周まわって、今、とても新鮮に感じる。ハワード・ジョーンズが鳴らすシンセ・ポップ・サウンド。シンセ・ポップという言葉自体に80年代的なニュアンスが含まれ、実際あの頃にタイムスリップした感覚もある。がしかし、古びてない。いや、そういう音を古く感じた時期も確かにあった気がするが、2019年の今、ハワード・ジョーンズが5月末に発表したシンセ・ポップ作『トランスフォーム』を聴くと、古いとか新しいといった価値基準を超越したところで気持ちよく響いてくるものがあってワクワクする。

ハワード・ジョーンズ。今50代の人ならば、若い頃に『ポッパーズMTV』『ベストヒットUSA』といった洋楽ビデオ紹介番組でよくデビュー当時の彼のMVを見ていたことだろう。イングランド南部のサウサンプトンで1955年に生まれたジョーンズは、1983年10月にシングル「ニュー・ソング」でデビューし(全英3位、全米27位)、続く2ndシングル「ホワット・イズ・ラヴ?」は全英2位(全米33位)と連続ヒット。1984年3月に発表した1stアルバム『かくれんぼ(原題:Human’s Lib)』は全英1位を記録し、日本でも前述の洋楽ビデオ紹介番組やラジオから火が着いてすぐに人気が出た。当時の彼はサイドが刈り上げ、フロントはオウムみたいな特徴ある髪形もキャッチーで、若い女性からもアイドル的人気を博したものだった。

初アルバム『かくれんぼ』が出た1984年といえば、洋楽ではプリンス「ビートに抱かれて」、ティナ・ターナー「愛の魔力」、ケニー・ロギンス「フットルース」、ヴァン・ヘイレン「ジャンプ」などが大ヒットした年。そんな頃にジョーンズはシンセサイザーを駆使し、第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの波をさらに大きくする個性と実力ありの若者としてその名を轟かせていった。バンドではなくひとりだけでステージに立ち、シンセとドラム・マシーンを自在に操って親しみやすいメロディの曲を歌う。そんな彼はまさに時代の寵児と言える存在だったのだ。

自分はというと、2ndシングル「ホワット・イズ・ラヴ?」のメロディと歌詞のよさにやられて大好きになった。「愛ってなんなんだ?」と何度も繰り返す、シンプルだが若かった自分には哲学的とも思えるその歌詞が胸に響き、この人はジョン・レノンに匹敵する才能があるんじゃないかと思ったりもしたものだった。当時は来日公演もけっこう頻繁に行なっていて、1984年8月のNHKホールや、1986年12月の<ジャパン・エイド>(神宮球場で2日間行なわれたイベントで、ほかにピーター・ガブリエル、ルー・リード、ジャクソン・ブラウンらが出演)、1987年6月の日本武道館などで彼のライブを観たことを覚えている。

しかし自分がファンとして買って聴いたアルバムは、1985年3月の2nd『ドリーム・イントゥ・アクション』、そして1986年10月の3rd『ワン・トゥ・ワン』までで、シンセ・ポップ~エレ・ポップから彼が脱却するに連れてあまり聴かなくなっていった。ジョーンズは92年発表の5作目『イン・ザ・ランニング』を最後にメジャーのWEAを離れ、以降は自身が設立したインディ・レーベルのDtoxからコンスタントに作品を発表していったが、そこではいろんな実験を繰り返し、初期のとっつきやすさは減じていった印象だった。

そんなわけで、ジョーンズは90年代以降しばらくの間“キャッチーなメロディのシンセ・ポップを歌うシンガー”ではなくなっていたわけだが、2016年発表の前作『エンゲイジ』でもう一度エレクトリック・サウンドに焦点を絞り、そして先頃発表された新作『トランスフォーム』で親しみやすいシンセ・ポップに回帰したのだ。

5月に発表した新作『トランスフォーム』は、
歌詞もポジティブで風通しのいいポップ曲集

そのアルバムの国内盤ライナーノーツによれば、シンセ・ポップに回帰した理由は『イーグル・ジャンプ』という日本で劇場未公開の映画の曲を書いたことにあるそうだ。映画の設定が80年代ということで、その頃に自分がしていた曲制作のアプローチを思い出しつつ書いてみたら、それがとても楽しく、いい手応えを得られたらしい。また、ファンから「昔のようなシンセ・アルバムを作ってほしい」と言われ、素直にそれに応えたところもあったようだ。

そうして原点に立ち返り、ジョーンズが楽しんで作ったそのアルバム『トランスフォーム』は、メロディアスな曲ばかりで非常に風通しがいい。気取ったところがなく、年代関係なしに誰もが親しみを持てる。最新の機材を使いながらも、バキバキの今流テクノというよりは耳に心地いい音圧の80年代的エレポップ展開。ヴィンテージのアナログ・シンセもうまく効かせていて、自分を含め、あの頃ジョーンズを好きだった人たちの気持ちにしっかり応えてくれている。

歌詞もまたとてもポジティブで(「ビーティング・ミスター・ネグ」という曲では“ミスター・ネガティブをやっつける”と歌っている)、自分を信じ、希望を持って生きていくのだという意志の漲りが強く感じられる。「進み続けることに勝利があるのさ 先を見通せば 強くなって辿り着ける」と、「アット・ザ・スピード・オブ・ラヴ」ではそう歌い上げるのだ。

さて、この力作を携えた来日公演が、7月31日にBillboard Live OSAKAで、8月2日・3日にBillboard Live TOKYOで行なわれる。キーボードのロビー・ブロンニマン、ギターのロビン・ボールトがサポートしてのステージで、恐らく新作と初期のシンセ・ポップ曲とを混ぜ合わせて聴かせてくれることだろう。デビュー・アルバム『かくれんぼ』から35年。現在64歳にして瑞々しさも感じられるその歌声をナマで聴くのが楽しみだ。

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。Note(ノート) https://note.mu/junjunpaでライブ日記などを更新中。

公演情報
ハワード・ジョーンズ
Howard Jones

【大阪公演】
公演日/2019年7月31日(水)
    1st Stage Open 17:30 Start 18:30
    2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
料金/サービスエリア 8900円 カジュアルエリア 7900円
問/06-6342-7722
所在地/大阪府大阪市北区梅田2-2-22 ハービスPLAZA ENT 地下2階

【東京公演】
公演日/2019年8月2日(金)
    1st Stage Open 17:30 Start 18:30
    2nd Stage Open 20:30 Start 21:30

公演日/2019年8月3日(土)
    1st Stage Open 15:30 Start 16:30
    2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
料金/サービスエリア 8900円 カジュアルエリア 7900円
問/03-3405-1133
所在地/東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガーデンテラス4階

その他詳細は下記よりご確認ください
http://billboard-live.com/

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