お酒
夏に飲んで美味しい、フルーティな赤
COS ビストロッソ
【今週の家飲みワイン】
2019.07.19

インターナショナルに活躍するソムリエの梁 世柱さんによる、ワイン指南。自宅で気軽に飲める、お手頃でいて本格派な一本を紹介する。今月は「シチリア」のワインだ。
「シチリアのワインについて語るとき、思い出深い1本がこちらのCOSです。NYで働いていたときに、シチリアワインブームがおこったのですが、その中心にいたのがCOSでした。なんといっても、ボトルの形状にインパクトがある。そしてボトルの印象とは裏腹に、ナチュラルな造りでありながら、端正な味わいが際立っていました」という梁さん。
COS の造り手は、チリア氏、オキピンティ氏、ストラノ氏の3人。その頭文字をとっての命名された。場所はシチリア島東部の平野部にあるビットーリオ。高品質のワインの歴史は浅い地域で、当時は果樹園やサボテン、オリーブが主な産業だったという。そんな状況のなかで、荒れ果てたブドウ園の復活を目指してワイナリーを創設し、1980年に初ヴィンテージをリリースした。
COSはシチリアの平野部のぶどうの中でも二つ重要な品種、ネッロダーボラと フラッパートを50%:50%でブレンドしたワインだ。このリリースが高評価を得て、地元で古くから愛されてきたセパージュが、「チェラスオーロ・ディ・ビットリア」としてDOCGに認定される先駆けを作った。

「エチケットに甕が描かれているのが見えますね。これは、古代ギリシャやトルコなどでワインを造る際に用いられたアンフォラ(素焼きの甕)です。COSは次第に、ワインと自然の結びつきを強く感じ始め、栽培から醸造までビオディナミに行きつき、さらにはアンフォラで醸造する方法を取り入れたのです。素焼きの甕でワインをねかせるため、樽からで出るタンニンが少なく、より果実感をリアルに感じられます」とも。
ヴィットリアでは、未だに除草剤を使用した栽培が多いそうだが、COSの畑は青々として生気に満ちた葉が繁っている。ワイン造りに適した石灰質の土壌で、一切の薬剤を使用しない、完全無農薬の畑が何よりの自慢である。健全に育ったぶどうがあって初めて、アンフォラという自然な醸造法もより功を奏するのだろう。しかも、150個以上あるアンフォラの形をすべて変え、熟成のニュアンスが異なるワインをブレンドすることで、より、深みを出しているのだという。「実験精神が強いので、結果、面白くて美味しいいワインができあがるのでしょう」と梁さんも感心する。

しなやかなタンニンとフレッシュな酸を備え、ブラックチェリーやラズベリーの果汁感の中に、ホワイトペッパーのアクセントが効いたエレガントな飲み口は、デイリーワインでありながら、突出したクオリティといえる。牛肉のグリルを葉野菜のサラダの上にのせたタッリアータなどに最適なのはもちろん、カチュッコなど、トマトソース系の魚介の料理にもとてもよく合う。夏の暑い日にぴったりの赤ワインとして覚えておくと、重宝すること間違いなしだ。
Photograph:Makiko Doi