旅と暮らし

美しすぎる死の天使の暴走。映画『永遠に僕のもの』
[美しき映画ソムリエ]

2019.07.30

東 紗友美

美しすぎる死の天使の暴走。映画『永遠に僕のもの』<br>[美しき映画ソムリエ]

この気持ちをどのように例えるべきかわからない。最も美しい少年を見たのか、最も残酷な少年を見たのか。とにかく、大変なものが映画化されてしまった。もしかすると、映画ではなく美という名前の凶器なのかもしれない。

映画『永遠に僕のもの』は、実話に基づいた物語。アルゼンチンでは知らない人がもはやいないとまで言われている最も有名な連続殺人犯を描いた青春クライムムービーだ。1970年代、17歳にして12人を殺害し、20歳で終身刑を言い渡された、事件当時まだ少年だった犯人にインスパイアされて事件を映画化。猟奇殺人犯×美少年、天使のような犯人の顔。その類いまれなる美貌からアルゼンチンでは「ブラック・エンジェル」「死の天使」とさえ呼ばれた。

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善良だった人間がいかにして人を殺(あや)めるようになったか、あるいは結果的に人を手にかけてしまったかというストーリーではない。主人公は生まれたときから悪魔だった。若さに任せ、欲しいままに奪う。まるで息をするように、自分の罪の重さに気付かず犯罪を積み重ねていく。これは、なかなかショッキングだ。

無論、犯人を軽々しくリスペクトすることは許されない。しかし“南米のディカプリオ”と評される主人公を演じたロレンソ・フェロの尊いまでの美貌がゆえ、自分の倫理観に土足で踏み入られてしまった気がして、私はしばしショックだった。

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主人公がかわいそうだなんて、当然思っていない。「堕ちる。」これは、この映画のキャッチコピー。その名のとおり、映画が始まると最初から最後まで、ただ犯罪の闇に堕ちていく。止められない彼の暴走の傍観者になることしかできない映画。しかし、ロレンソが堕ちる姿は言葉にできないほどに美しすぎた。まるで花を摘みとるかのように。

罪の意識がないからこそ、殺人を犯しているのに見た目は純粋無垢のままなのだ。そこには苦悩や苦しみや後悔の念がみじんたりともない。だからこそ、永遠に美しい。無垢な美と、尖った凶暴さ。少年のようなぬくもりをまといつつも、ナイフの刃のように凍った心を持ち合わせた彼の存在感は圧倒的だった。「人は見た目が9割」なんて本のタイトルを聞いたことがあるけれど、美しいものを善く見てしまおうとする心理は誰にでも働いてしまう。これは気をつけなければならない、と自分に言い聞かせた。

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それにしても人は無意識に、他人に対して線引きをしたがる生き物だ。善い人なのか、悪い人なのか。本能的に白黒つけて、人と接したい、それは傷つかないための防衛本能なのかもしれない。

しかし裏腹に、金太郎あめのように切っても切っても同じ側面しか見えない人間では味気ないのも事実だ。人をひきつけてやまない人、どんなことをしていても周りを魅了してしまう人。それは言葉では簡単に説明できないミステリアスな要素と、引象と相反するギャップを持っていることだ。彼は、その要素を2つも持ち合わせているのだった。

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本作のプロデュースは「オール・アバウト・マイ・マザー」でアカデミー賞を受賞したペドロ・アルモドバル。とてもアーティスティックでファッショナブルな映画に仕上がっている。そして犯罪者カルリートスを演じる驚異の新人 ロレンソ・フェロ。ブロンドの柔らかな巻き毛は天使のようで、往年のスター、マリリン・モンローさえも彷彿とさせて魅惑的だ。

1000人のカルリートス候補の俳優に会った監督はこう述べた。「その他の999人の候補はフェロがカルリートスで正しいことを証明するだけのために会ったことになったよ」と。

400_「永遠に僕のもの」ポスター

『永遠に僕のもの』
8月16日(金) 全国ロードショー
監督:ルイス・オルデガ
プロデュース:ペドロ・アルモドバル、アグスティン・アルモドバル、ハビエル・ブリア『人生スイッチ』
出演:ロレンソ・フェロ、チノダリン、ダニエル・ファネゴ、セシリア・ロス『オール・アバウト・マイ・マザー』
配給:ギャガ 宣伝:スキップ、フラッグ
©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO
原題:EL ANGEL/ 2018年/アルゼンチン、スペイン/カラー/ビスタ/5.1ch/115分/字幕翻訳:原田りえ/映倫:R15

https://gaga.ne.jp/eiennibokunomono

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