旅と暮らし
「ぜいたく」を選択するコロラド州の旅
2019.08.01
日本からおよそ11時間、ロッキー山脈の南東に位置するコロラド州。日本の本州と九州を合わせた面積とほぼ同じ、約26万9000平方キロメートルという広大な土地を有するコロラド州は、デンバーといった大都市と、雄大な自然が併存する州であり、旅先の選択肢のひとつとしてすすめたい州でもある。観光や食、あるいはリゾート地で過ごす優雅なひとときなど、旅に求めるものは人それぞれ。だがそんな希望をコロラドはすべてかなえてくれる場所である。今回は州都デンバーをはじめ、スキーリゾート地のアスペン、スノーマス、そして高級リゾートホテル「ザ・ブロードモア」を中心にその魅力を紹介していく。
デンバーが住みたい街に選ばれる理由
コロラド州の州都であるデンバーは、別名「マイルハイ・シティ(Mile High City)」と呼ばれている。その名のとおり、街の標高が1マイル(約1600メートル)に位置しているからだ。空気は乾燥し、水分量が少ないこともあって、空は抜けるように青く美しい。また、年間を通して平均300日が晴れという穏やかな天候もデンバーの特徴といえる。
そんな暮らしやすい環境であるデンバーは、観光客にとってはもちろん、アメリカ人から見ても魅力的な都市であり、現在、週に平均1000人がデンバーへ移住しているそうだ。人気の理由は環境以外にも、ニューヨークやシアトルといった大都市に比べれば土地代が比較的安いことも挙げられる。そのため若者を中心に移住者が増え、また、アーティストも多く移り住むようになったことで、いまやデンバーはアートが盛んな都市となった。
特にダウンタウンから北に少し行った「RiNo」の愛称で親しまれるリバーノース(River North)エリアは、多くのアーティストが暮らす街として有名。もともと工業地帯だったこのエリアは、街中の至るところにストリートアートがあふれており、さながら街全体が大きなギャラリーのようである。街を散策しながらあれこれ作品を見て回るのも楽しい。
また、デンバーには建築家のダニエル・リベスキンドがデザインしたデンバー美術館をはじめ、カークランド美術館、クリフォード・スティル美術館など、ユニークな美術館が多く存在する。なかでもゴールデントライアングルミュージアム地区は、これらを含む8つの美術館が点在するエリアなので、「RiNo」と合わせて足を運んでみることをおすすめしたい。
デンバーにきたら味わいたいクラフトビール
デンバーといえば忘れてはならないのがクラフトビール。世界最大の醸造所であるクアーズの本拠地があるデンバーには、ブリューワリー(醸造所)やブリューパブ(醸造所を併設したパブ)が数多く店を構える。デンバーだけで70以上、州全体ではなんと300以上の醸造所があり、それぞれでおよそ10種類ほどのビールを製造しているというから驚きだ。
なぜデンバーにこれほど多くの醸造所があるのかといえば、ロッキー山脈から流れ出す清冽(せいれつ)な雪解け水をビール造りに使うことができるためだ。そのため、街中のあちこちでビールが造られており、そのパブオリジナルのクラフトビールを味わえるというのだから、なんともぜいたくな話である。
とはいえ、そのなかから自分好みの味を見つけるのは大変。そこで利用したいのが「デンバー・ビア・トレイル」だ。この冊子には各エリアのマップと、そのエリアにあるお店の情報が掲載されており、どこにどんなバーがあるのか、これ一冊で調べることができる。
今回は「Lower Downtown」、通称「LoDo」エリアに店を構える「ウィンクープ・ブリューイング・カンパニー(Wynkoop Brewing Company)」に足を運んだ。このブリューパブは、前コロラド州知事、ジョン・ヒッケンルーパー氏が創業したパブとしても有名。お店に入ってまず目に入るゴリラのオブジェの奥に醸造所はあった。
醸造所と併設されたパブでは、造りたてのビールを存分に味わうことができる。ちなみにウィンクープでは「ロッキーマウンテン・オイスター・スタウト」というビールが有名。どんなビールなのかは、ぜひご自身で検索してみてほしい(きっと驚くと思う)。また、こちらのお店ではビールとともに食事を楽しめるが、多くのバーでは料理を自分で持ち込む、あるいは料理を販売するフードトラックを利用するのが一般的だという。
「いやいや、もっといろんなビールを堪能したい」という方は「グレート・アメリカン・ビア・フェスティバル」に行くのがオススメ。アメリカ全土から500社、3万5000種類ものビールが集まり、“ビールのオスカー賞”と言われる栄誉ある賞が贈られる大規模なビアフェスティバルだ。日本では味わえない珍しいビールの数々が集まるので、開催期間を狙って訪れてみるのもいい。ちなみに今年は10月3日~5日の期間で開催される。
大自然が織りなすコントラストが美しい「マルーンベルズ」
次に訪れたのはデンバーより西に車で3~4時間ほどにあるアスペンとスノーマス。大都市デンバーとは打って変わり、自然豊かなスキーリゾート地として有名な街だ。いまも西部時代の文化が色濃く残っており、そんな風景を求めて訪れる観光客も多い。また、スキーリゾートとは言ったものの、いまのシーズンもハイキングやサイクリング、ラフティングといった、大自然を生かしたアウトドアアクティビティーを満喫することができるため、夏も国内外からの観光客でにぎわいをみせる。
なかでもアスペン、スノーマスに訪れたらぜひ足を延ばしていただきたいのが、“北米大陸で最も撮影されている”と言われる名所「マルーンベルズ」。撮影スポットである「マルーン湖」は、標高3000メートルを超える場所にあるが、いまのシーズンだとシャトルバスを利用して近くの駐車場まで行くことができるため、体力に自信がない方でも容易に訪れることがきるのがうれしい。
駐車場から徒歩で約5分。目の前に広がる景色を見て思わず息をのむはずだ。澄み渡る青い空、雪をまとった白い山、松の深い緑、そしてアスペンツリー(白樺の一種)の爽やかなライムグリーン。大自然が織りなすコントラストがとても美しく、「北米大陸で最も撮影されている名所」と言われるのも納得。また、季節によって木々が色を変え、四季折々の表情を見せてくれるのもマルーンベルズの魅力といえる。
マルーンベルズの標高は4317メートル、訪れたマルーン湖も標高3000メートルを超える。しかし、前述のとおりシャトルバスがあるため誰でも気軽に訪れることができるにも人気の理由だ。とはいえ富士山山頂にも及ぶ標高。訪れる際は、くれぐれも高山病に注意してほしい。
非日常を味わう「スノーマス・ロデオ」
この日、最後に訪れたのはスノーマスで夏の期間だけ行われる「スノーマス・ロデオ」。45年続く歴史あるイベントであり、ロデオに参加するのは本物のカウボーイ、カウガールたち。スノーマス近郊で暮らす住民にとっても、毎週水曜日に行われるこのイベントを楽しみにしている人も多く、会場は多くの観客でにぎわう。
日本ではまず見ることができない、まるで映画のワンシーンのような光景。こんな非日常を味わうことができるのもスノーマス・ロデオならでは。ちびっこカウボーイたちも大人に負けず、鉄製の暴れ牛(?)にロープをかけるべく奮闘していたのが、とても印象的だった。大人から子どもまでカウボーイが身近な存在なのだ。
「スノーマス・ロデオ」では、「チームローピング」のほか、暴れ牛にまたがる「ブルライディング」や、子どもたちによる羊乗りや子牛追いといった競技を楽しむことができる。なかなか日本ではお目にかかれない貴重な体験ばかりだ。本物のカウボーイが集まる「スノーマス・ロデオ」は夏のシーズンのみのイベントなので、ぜひスノーマスに訪れた際は足を運んでほしい。
次回は超高級リゾートホテル「ザ・ブロードモア」を紹介する。
Text:AERA STYLE MAGAZINE
Special Thanks:Visit Denver、Aspen Chamber Resort Association、Colorado Tourism Office、コロラド州政府観光局