紳士の雑学

「次のページをめくりたくなる人生を」
トランク代表取締役/CEO 松﨑早人インタビュー[後編]

2019.09.03

「次のページをめくりたくなる人生を」<br>トランク代表取締役/CEO 松﨑早人インタビュー[後編]

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松﨑がスタートしたサービス『カラエト(旧トランク)』はクラウドを活用した宅配型収納だ。段ボールに詰め、送った荷物は同社が1点1点撮影するため、預けたモノがわからなくなることはない。利用者はスマホで自分の荷物を確認でき、アイテムの売買や譲渡もできる。その際の梱包や発送は同社が行う。ユーザーの手間を徹底的に減らし、それを必要とする人のもとへ届けること。『カラエト』は単にモノを収納するだけのサービスではない。「物流を再定義し、在庫を持たずモノを販売できる仕組みでもあるわけです。僕らがやっているサービスってビジネスとして誰かが一人勝ちするような話ではない。仮に自分がやらなくても近未来に必ず起こりうるインフラだったといまでも思っているんですよ」

無論、リリースまでには時間を要した。会社設立は14年だが、実現までに2年ほど。パワーポイントで数十枚の資料を作り、地道な営業を続けた。

「配送に使う車は? ない。倉庫は? ない。仕組みを作るのにいくら掛かるか、わかってる? そんな状態です。だからといって、あきらめるという発想はありませんでした。自分ごとではないからです。震災時の光景やそこで暮らす人々、父親の声だったり、そういうものはあきらめるレベルの話ではないですよね。僕はこのサービスが世の中に絶対にあったほうがいいと思っていた。最初の会社と決定的に違うのは私利私欲ではなかった、ということでしょうか」

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同社は車両や倉庫を持たない。運送会社や倉庫会社のすき間時間、空きスペースを活用する。仕組み自体がシェアリングだからこそ段ボール1箱、500円からの利用も可能だ。現在、利用者の目的は主に3つに分かれるという。「従来のトランクルームと同じ感覚で押し入れの延長線上で荷物を預ける層」「フリマアプリなどCtoCサービスのヘビーユーザー層」、そして、「モノを捨てるのはイヤ、タダでもいいから誰かに使ってほしいと考える層」だ。実際にアプリをのぞくと「0円」のアイテムがそこかしこに。同社が掘り起こした新たな需要でもある。松﨑は言う。

「自分の持っているモノを一円でも高く売ろうというのがこれまでの発想です。これからは『使っていないからあげるよ』、そんな方向に変わっていくと思います。このサービスなら、モノを預けたまま誰かに譲ることもできる。すでに預かっているモノだから、モノ自体の場所は動いてないのに所有権だけがどんどん動く。国内に限らず、ワールドワイドのニーズがあるはずで、途上国支援につなげることだって可能だと思っているんです」

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本当は誰しもがノーリスクなんです

かつてSNSの渦を見つけたように、いまも余暇には渦を探す。ニュースの点と点をつなぎ、世の中の流れを感じるのが好きだという。「僕らはPCで育ち、その世界観をスマホで再現しようとしてきましたがアジアの途上国は発想が逆。そもそもPCを持っていない、テレビも洗濯機もない、だけど、スマホはあるという社会です。スマホから考える、スマホを起点に発信する世界ってものすごいスピード感ですよ。アメリカ発の流行が日本で流行してきたように、これからは、途上国発信の流行が来ると思います」

松﨑は毎朝4時半に起き、前日のメールをチェックし返信する。今回の取材もアポ取りの際、本人からメールが届き驚いた。「年を取ると朝に強くなってしまって」と笑うが、これほど白いTシャツの似合う50歳はいないだろう。そこは元モデルだけはあるというところか。異色のキャリアを築いてきた松﨑に仕事と人生を楽しむコツを尋ねてみるとこんな答えが返って来た。

「僕自身のビジネスライフは30歳からなんですけど、言いたいのは、とにかく好きなことにトライしたほうがいいということ。『自信がない』と言う人がいますが、『誰に? 誰に対して自信がないの?』と聞きたいです。『リスクがある』と言う人もいますけど『そもそもリスクって何?』と聞きたいです。世の中って実はその人の等身大以上のリスクは課さないんですよ。その人が何とかできる範囲でのリスクしか生まれない。だったら、ノーリスクじゃないですか。自分が主役なんだから、次のページをめくりたくなるような人生にしたほうがよくないですか?」

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ビジネススクールでは絶対に学べない実地体験を積んできた松﨑だ。経営者としての指針を尋ねたときもこれに付随するような答えが返って来た。「一緒に仕事をする人を見極めるときに必ず聞くことがあるんです。『あなたの夢は何ですか?』って。その夢が僕と一緒にいて実現できそうか。要は、経営者としてその人の夢をかなえられるかどうか。それが自分の仕事だと思っているんですよ」

取材を終えた1時間後、松﨑からメールが届いた。インタビューの御礼とともにこんな一文が添えられていた。「次のページをめくりたくなる人生を!」

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プロフィル
松﨑早人(まつざき・はやと)
1968年、福岡出身。高校を中退し16歳で東京へ。大検を取得し慶應大学経済学部に入学。在学中にモデルデビュー。25歳で渡欧し、パリコレやミラノコレで活躍。2000年に帰国し、ITの広告代理店を設立。2014年、シェアリングプラットフォーム事業のトランクを設立。現在、同社代表取締役。

Photograph:Kentaro Kase
Text:Mariko Terashima

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